第35話 プログラミングアイドル、外部アドバイザーに就任

「ちょっと、みんな! やばいって! これ見てよ」


ある日の放課後、プログラミング部の部室。

あかりが、応募要項を確認するためにメイカーフェアのホームページを見ていたところ、驚くべき新着ニュースがアップされていた。

なんと、メイカーフェア高校生部門の『広報&外部アドバイザリー』として、なぜか都立日比岡高校のプログラミングアイドル・下条ともみが参加するというのである。


メイカーフェアのホームページには、美人女子高生プログラミングアイドル・下条ともみのプロフィール写真がデカデカと掲載されている。アーティスト風に、キメ顔でどこか悲しげに遠くを見つめている、かなりイラっとくるプロフィール写真だ。


下条ともみは、競技プログラミング界のアイドル、そして『美しすぎるプログラマ』として有名な女子高生インフルエンサー。そしてルイの天敵である。競プロについての情報発信はもちろん、アルゴリズムとデータ構造についてのわかりやすく明解な説明で、ツイッターのフォロワーは2万人以上と絶大な人気を誇る。


最近はコードも書いておらずその技術力は大したことがなく(ルイ評)、性格はかなりネジ曲がっているというのに、そのかわいらしい容姿と人を魅了するプレゼンスキルだけで、かなりの男性ファンを集めている。実際、プログラミング部は彼女率いるチームに以前、高校生ハッカソンで破れているのだった(第3章参照)。


「あいつ、こんなところまでジャマしにくるのか…」


ルイが怒りで打ち震えている。


「なによこのインタビュー…『若者代表として、私のようなアイコニックな女子高生が学校という枠を超えて選ばれたことを光栄に思います』だってさ。うざすぎるでしょ、これ」


「クソ…嫌な予感がするな。あいつのことだから、絶対なにか横やりを入れてくるはずだ。せっかく、チア部を説得して、ファッションショーの企画がまとまりかけているのに」


メイカーフェアWebサイトにアップされた、下条ともみスペシャルインタビューによると、下条ともみはすべての高校生枠の展示への『コンサルティング』を行い、『創造という名の下に集う高校生たちをあるべきグランドテーマへと導く』と、キメ顔で語っているではないか。


「えっ、うちら下条ともみにコンサルされるの…そんなのヤダ…」

「グランドテーマってなんだよ、そんなの聞いてないだろ…」


「ちょ、ちょっとまって、みんな…」


あかりが『下条ともみスペシャルインタビュー』を注意深く読み始める。その後半部分には、驚くべきことが記載されていた。

あかりが全員にわかるよう、その腹の立つインタビューを読み上げ始めた。


『今年のメイカーフェアの高校生枠には、社会性のあるテーマを設定しました。

それは…『SDGs』です。

今、世界は、貧困問題や環境破壊、ジェンダー問題など、不平等で溢れかえっています。テクノロジーと創造の力をもってして、持続可能性のある社会を、私達高校生が今こそ考えるべきときなのです!」


写真付きのインタビューページで、ともみがろくろを回して力説している。

その表情は悲しげで、ともみが世界の問題を心から憂いているようであった。


プログラミング部のメンバー全員が口をポカーンとあけた。


「じゃ、じゃあ今作ってる最中のファッションショーを、SDGsっぽい環境問題とか貧困問題とか男女平等とか、そういう意識の高いテーマをベースにしたものに作り変えろってことなのか・・・?」


「持続可能性のあるファッションショーって…一体どんなだ?」


ルイがスマホをチェックすると、下条ともみ本人からのLINEがきている。


「ルイ、ひさしぶり。メイカーフェアHPのワタシのスペシャルインタビューは読んでもらえたかしら、ホッホッホ。今度、コンサルティングにそちらの女学院に訪問させていただくから、空いている放課後の日程をいくつか教えてくれないかしら?」


はあ、とルイがため息をついた。

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