第4話 入部の条件

「さっきのいけ好かない女は桜井エリカ。チア部のエースだ。

チア部はこの女学院で一番人気のある花形部活だ。

まあ、ウザい女しかいないがな…。

あいつらは裏でこの学校の実権を握ってるから、気をつけたほうがいい。

とくに、プログラミング部は目の敵にされてる。

あいつら、気に食わない相手にはリンチもやる連中だからな」


「り、リンチ…」


部室棟の廊下を2人で歩きながら、ルイがチア部について説明する。

それにしても、部活の中でも人気がなく冷遇されているプログラミング部の部室は

部室棟の一番遠くにあるので、ずいぶんと長く歩いた。


「なのに、さっきあの女の子に噛み付いて、早乙女さんって勇気あるんだね」


「…あの女は昔の知り合いだ。中等部で、同じクラスだった」


学園最大勢力のリーダー格とあれほどの口がきけるとは、この不良も、学内で一目置かれているのかもしれない。

そういえば、危ないゲームを作って停学になったとか、プログラミングの競争かなにかで一番をとったってウワサされていたっけ…。

そこまでは、ちょっと怖くて聞けなかった。


チア部の話を聞いているうちに、プログラミング部の部室に到着した。

ボロボロの扉をガラガラと開く。


「おい、座れ」


ルイにうながされるまま、パソコンの前に座る。


「使ってるブロックは間違ってねーんだ。問題は<順番>だ。ここのブロックを入れ替えれば・・・」


「正六角形になった!!」


「そう、プログラムは書いたとおりに上から順番に動く、これが順次処理だ。」


そういえば、あかりが好きなお菓子作りも、手順がとても大切だ。

通じるものがある気がした。


「…私、ここに入る」


「はぁ?」


ルイが、驚いた顔であかりを見る。


「クッキングクラブで勉強できる手順なんかも、ここで勉強できるかもしれないし、

お菓子を焼くなら別に家でもできるから。それに」


あかりは先日この部室に持って行ったマドレーヌの箱を見た。空になっている。


「ここなら私が作ったお菓子を、食べてくれる人がいそうだし」


「…勝手にしろよ」


ルイはぶっきらぼうに言った後、照れた顔で目をそらして一言続けた。


「…忘れ物、届けてくれて助かった」


ルイはプログラミングで本気を出すときは甘いものを食べながらでないとできないので、よくお菓子を持ち歩いているのだが、忘れっぽいのでよく教室に落とすのだという。


「エッ、なんだって!? アンタ今、入るって言った!?」


突然、先日会ったUnityの軍事系3Dモデラ―・しのぶが物陰から顔を出した。

キラキラした顔であかりを見つめている。

その後ろには顧問の玉木先生もいた。


「なんだ、あんたたちいつの間に部室にいたんだ?」


ルイが呆れた顔で二人を見た。


「いやいや、めでたい。

しかし…星野あかりさんにはまず、入部試験を受けていただきます」


玉木先生がニヤリと笑って言った。


「廃部寸前とはいえ、ここはプログラミング部。部室にいるだけで、手を動かしてコードを書かない部員を部員とカウントするのも、ちょっと問題なんでね。

課題はゲーム。

せっかくだから3人で協力して、ゲームプログラミングをしてもらいましょう。

課題に合格しなければ、プログラミング部は予定通り…廃部です」


「に、入部試験…!? それも、ゲームプログラミング…!?」


あかりが震えた声で、にやにやと笑う玉木先生のほうを見た。

…大丈夫なんだろうか、これ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る