第5話 衝撃の入部試験

「入部試験があったなんて・・・」


玉木先生が出て行った後の部室で、あかりはうなだれていた。しかも、課題に合格しなければ廃部とは、責任重大である。

課題は、2週間後の試験日に「あるゲーム」をScratchで作ること。制限時間は1時間。どんな条件のゲームか、は試験当日に発表される。

 

「1時間でゲームを作るなんて、余裕じゃねーか」


「ヒッヒッヒ・・・まぁScratchの課題なら物理演算も二次元配列も使わないレベルだろうね、あたしの予想では・・・」


ルイとしのぶは、当日発表されるお題についてあれこれ予想を話し始めたが、あかりには何を話してるかさっぱりわからない。ゲームを作るどころか、これまでゲームで遊んだこともほとんどないのだ。


「あ、あの!私、実はゲームの種類とか全然知らなくて・・・、何から勉強したらいいんでしょうか。」


「なんだって!?」


「ハッ、こんな初心者と同じ部活なんてやってらんねー」


ルイは話にならないという風に鼻で笑った。そこまで言わなくてもとあかりがしょげていると、しのぶが急に得意げになって早口でまくし立てた。


「あんた、ゲームの種類には定番っていうもんがあるんだよ。アクション、シューティング、RPG、パズル、格ゲー、それから・・・」


「ちょ、ちょっと待ってください。その中で、プログラミングしやすいのは?」

あかりは、しのぶの言葉を遮った。


「え?プログラミング? あ、そういえばルイが小学生のとき作ったっていうゲーム、あれ教えたら?」


「あー?やだよ、めんどくせーな。」


小学生のときに既にプログラミングをしていたというルイのことがますます気になるあかりだったが、とにかく今は何でもいいから教えてもらいたい。力の限り頼み込んだ。


「それ、教えてください!私、がんばります!プログラミング部を廃部にしたくないんです。」


「・・・わかったよ。」


ルイはあかりの目をじっと見つめてつぶやいた。



 ルイが小学生のときに作ったというゲームのことを、しのぶは特訓用の「落ちものゲーム」と呼んだ。画面の中のネコ(プレイヤー)を、キーボードの右矢印と左矢印で動かし、上から降ってくるりんごを拾うゲームだ。りんごを地面に落とすとゲームオーバーになる。このゲームには、ゲームプログラミングの基本要素が詰まっているらしい。


「プログラミングで何かを作るときは、まず分解することが大事なんだ。」


「分解?」


ルイは部室のホワイトボードにさらさらと書きこんだ。


<落ちものゲーム>

①ネコ(プレイヤー)は十字キーで左右に移動する

②りんご(アイテム)が上からランダムにふってくる

③りんご(アイテム)が地面に落ちるとゲームオーバー


落ちものゲームを作るには、3つの要素に分解して、順番に作っていく必要があるという。ルイとあかりは1つのパソコン画面を一緒に覗きこみながら、実際にScratchのプログラムを作り始めた。


「1つ目のネコを動かすプログラムは、x座標っていうブロックを使うんだ。x座標はネコの横方向の位置を決める数字。『もし右矢印キーが押されたならx座標を10ずつ変える』だと右キーを押したときにネコが右に動くし、『もし左矢印キーが押されたならx座標を-10ずつ変える』だと・・・」


「・・・ネコが左に動くんだね!ゲームみたい!」


「ゲームを作っているんだよ。」


しのぶが横から画面を覗き込んで口をはさむ。


「マイナスって最近数学で習ったよね。難しいなぁ〜。」


「ゲーム画面で考えると簡単だよ。画面の真ん中がx座標の0で、真ん中より右に行けば行くほどプラス、左に行けば行くほどマイナスの数字が大きくなるんだ。」


「そっか、だんだんわかってきたかも!」


ゲームのことを話すしのぶもプログラミングの解説をするルイも、普段より口数が多く瞳が生き生きとしていて、初めて見る表情だった。あかりは2人のことを少しだけ知れた気がした。

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