第19話 顔がいいだけで技術力はない女、登場
数日後。
プログラミング部が部の存続を賭けてハッカソンで紹介する、くすのき市銘菓『楠木せんべい』を識別する『お菓子の神様ステッキ』のプロトタイプがついに完成した。
しかし、問題は山積み。見た目がただの筒で全く可愛くない。その上、識別するときに音や光が鳴るようにしたいのだが、その電子工作もプログラムも、担当のあかりはまだ未着手だった。
「なんか、どういう状況でこのステッキを使うのか、わかりやすい設定がほしいところだよね…」
あかりが腕を組んで考え込んだ。
「くすのき市で、楠木せんべい以外に有名なものといったら・・・」
「…『スノッキー和尚』じゃない?」
『スノッキー和尚』とは、くすのき市のマスコットキャラだ。いわゆる「ご当地キャラ」としては、某県の『せ○とくん』や某県の『ふなっ○ー』とまでの人気はないが、一部のネット民に熱烈なファンがいる全国区のキャラだった。くすのき市があった武蔵国が繁栄する契機となった楠木寺の建立(西暦651年)に貢献した僧をモチーフにしたこのキャラは、その人気のせいで、スノッキー和尚の公式Twitterアカウントが存在するほどである。中の人はくすのき市役所職員の中の誰かと噂されているが、真相は明らかではない。
「スノッキー和尚が持っている杖の先にカメラをつけて、杖を降ればどのお菓子がくすのきせんべいかわかるっていう設定でいいんじゃないかな」
「それなら親しみやすいし、くすのき市のPRになるね!そうしよう」
「じゃあ、デザイナーのしのぶちゃん! デモする時、スノッキー和尚のきぐるみ着て! 衣装、あと半日でつくれる? 手が早いしのぶちゃんなら、できるよね?」
「ええっ!?そんな無茶振り・・・ってかあかり、いつのまにそんなできるマネージャー風になってんの・・・」
率先してプロジェクトを仕切り始めたあかりの成長に、みんなが感心していた。
※
1ヶ月後。
ついにハッカソンのプレゼンの日がやってきた。
これまでしてきた準備をもとに、今日土曜日に1日かけてものを完成させ、日曜日の昼にピッチ(プレゼンテーション)するというスケジュールだ。最後のピッチを聞いただけで審査員が判断するから、とりあえず動くモノをつくるというのが最低目標となる。
最初のキックアップミーティングで、出場高校は東京中から集まった全部で35高校のチームが会場に集まっていた。都立高校から私立の中高一貫、インター、高専までさまざまだ。
とはいえ、毎年、入賞者は同じような強豪校で占められている。例年東大合格者数日本一を誇る隣町の名門男子校『海王高校』、女学院と同じくすのき市にある『くすのき科学技術高専』、東京都STEM重点指定校として名高い『都立日比岡高校』などが有名だ。
パンフレットの出場者一覧を眺めていたルイが、ある高校の名前とその名簿を見て顔をしかめた。
都立日比岡高校・下条ともみ…
「あっ、この子の名前見たことある。『競技プログラミング界のアイドル』で有名な女の子じゃない?」
「知ってるー!Twitterフォロワー2万人ぐらいいる子でしょう? ルイちゃんなんか神妙な顔だけど、ルイちゃんも知ってるの?」
「ケッ。可愛いだけで目立ってて、たいした技術力はない女だ」
「…うーん、ルイちゃんってほんと敵多そうだよなあ...」
「ルイ、久しぶりね」
突然、下条ともみ本人が、カツカツとローファーの踵を鳴らしながら、女学院プログラミング部の面々の前に現れた。
「...」
ルイがともみを睨みつける。明るい髪のショートカットに制服がよく似合っている、可愛い感じの女の子だ。
「今年もどんな突飛なデモで笑わせてくれるのか楽しみだわ、ルイ」
「…悪いが今年はヘマをする気はないんでね。勝たせてもらう。
お前こそ、最近まともにコード書いてんのか?どうせ、ツイッターに張り付いてファンのご機嫌とってるだけだろ?」
(ルイちゃん、本気で勝つ気なんだ…おせんべいのアプリで…)
あかりが、ルイが見せた意外な本気に驚く。
「…なんかあの2人バッチバチじゃない? 犬猿の仲らしいよ」
しのぶが後ろでヒソヒソとあかりに囁いて教えてくれた。
若くて女の子らしいルックス、アルゴリズムやデータ構造についてわかりやすく説明するコミュニケーション能力で多くのファンを持つともみはたしかに、魅力的な女子高生だった。
「みなさん!」
司会は、高校生に人気のゲーム実況YouTuber、こんぺいだ。このハッカソンのようすは、すべてライブ実況中継されているらしい。
「みなさん、ようこそお集まり頂きました! これより、第4回高校生ハッカソン大会を開催いたします! まずは、開会の言葉を大池ゆり子都知事、おねがいします!」
大池都知事の挨拶が終わると、司会進行は審査員の紹介にうつる。審査員は明日登場するので、今は顔写真だけでの紹介だ。
「審査員は、オリンピック柔道日本代表の井下高平選手! ゲーム実況Youtuber,ぴこりん! NPO法人子供プログラミング連合代表の石田久美子氏! そして今大会のメインスポンサーである、株式会社FutureVision代表のROLAND氏です!」
「すごい、豪華メンバーじゃん!」
一同が盛り上がっていると、引率のプログラミング部顧問・玉木先生が苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「あれ、玉木先生、知り合いでもいるんですか?」
「いやあ、こんなところで再会するとはねえ…」
玉木先生は苦笑している。どうやらスポンサー会社CEOのROLANDという社長と面識があるようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます