第20話 女性プログラマ、対決する

うーん…何がいけないんだろう?


あかりはいきなり苦戦していた。

いよいよ始まった高校生ハッカソン。開会ミーティングが終わり、早速それぞれのチームに別れて開発が始まった。

あかりが担当したのは、女学院のIoT作品『魔法のお菓子ステッキ』の電子工作の部分だ。ステッキの先に取り付けられたカメラが、たくさん並べられたお菓子の中からある特定のお菓子を認識したら、LEDが点灯し、かつ音がなるという仕組みをつくる。

機械学習でお菓子の種類を認識するメインの仕組みは、プログラマのルイが担当。筐体の3Dモデリングと実際のステッキの飾り付けは、デザイナーのしのぶが担当している。あかりは全体を見るプロジェクトマネージャ兼、光らせたり音を鳴らしたりする仕組みを考えることになったのだ。


あかりがPythonで書いたプログラムに間違いはないはずだが、なぜかLEDが点灯しない。

加速度センサーが反応したら、LEDが点灯するというだけのシンプルなプログラムのはずなのだが、プログラムに問題がないのなら、あとは電子回路の問題だろうか?


あかりは、今や女学院プログラミング部を率いるマネージャーである。

普段プログラマに指示を出しているマネージャーが、こんな簡単そうなコード1つ書けないのだ。なんてみっともないんだろう。作品のメイン部分のプログラムを担当しているルイにバカにされるに違いない。

練習ではLEDはちゃんと点灯したはずなのに……。しかも、残り時間はあと4時間ほど。今から秋葉原の電子部品ショップに行って、回路ごと店員さんに見せて訊いてみようか…。


 ※

 

あかりが焦っていると、会場の端の方から、なにやら口論が聞こえてきた。

ルイと、さっき挨拶した『競プロ界のアイドル』・下条ともみである。

どうやら2人は、中学校時代からの競技プログラミング界での知り合いのようだった。女の子の競技人口はとても少ないらしいから、顔見知りになるのは自然なのだろうか。


「お前さあ。アイドル気取りもいい加減にしろよ。アタシが競プロの問題作成したときに、『女のつくった問題なんかやりたくない』っていわれるのは、お前みたいに技術力ないくせに下駄はいて、チヤホヤされてばかりのクソ女がいるからだよ、迷惑でしかたない」


「あら、私が目立ってなにが悪いのよ? 私が活動することで、プログラミングに興味を持つ人が増えて、競技人口や裾野が広がるなら、最高じゃない?」


「悪い。女は技術力低いってますます世間から思われるだろ。お前、最近コード書いてんのか? 『下条ともみ 技術力』とかで検索されてんの知ってるのか? 世の中は同じ属性ってだけで人を判断するやつらがいっぱいいるんだよ。アタシを巻き込むのはやめてくれ。

お前は女でカワイイからってだけで大人にチヤホヤされて、ダークサイドに堕ちた意識だけ高いクソフェミだ。口ばっか動かしてないでコード書け」


盗み聞きしているあかりに、コード書け、の一言がグサリと刺さる。


「ダークサイド? 堕ちてるのは、アンタなんじゃないの?」


これまで防戦一方に見えたともみが、ニタリと笑ってルイに反論を始めた。


「はあ?」


「私たちが中学時代、競技プログラミングで注目された後、ルイはグレて変なゲーム作って、停学になって、不登校だったらしいじゃない。ハハッ、女子中学生でプログラミングできる子すごいすごーいって、注目されて、問題児になっちゃったのは果たしてどっちなんだろうね?」


「…」


ルイの顔が真っ赤になっている。やっぱり、『殺人ゲーム』を開発した過去は、あまり触れられたくない過去のようだった。

そういえば、この前しのぶが言っていた『中学時代、ルイは新聞やメディアで注目を浴びてから、性格が変わってしまった』というのは、この競技プログラミングで天才女子中学生として注目されてからなのだろうか…。


「あんたもアタシもさ…」


少しの沈黙があってから、ルイがつぶやいた。


「大人におだてられて狂っちまったのかもな」









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