第40話 スーツの軍団 VS エンジニア

ついに、メイカーフェア前日。

出展者は、前日の午後にはメイカーフェアが開催される東京ビックサイトへ現地入りして、荷物を搬入することができる。ルイは下見のため、一人、東京ビックサイトに降り立った。


結局、女学院の出し物『昆虫ドレス』は、チア部内の分裂と内部抗争により、前日になってもまだ完成していない。当日の朝に仕上げるほかないという、ぶっつけ本番ぶりだった。


メイカーフェアの高校生展示エリアは、高校ごとにブースにわかれ、すでにいくつかの高校が展示の準備を進めている。

会場に到着すると、ルイはひととおり会場を見て、そのようすを見て回った。くすのき科学技術高専の男子たちの展示のレベルが非常に高そうだ。向かいの慶王高校の男子たちの展示も、マニアックながら、なかなかに興味をくすぐられるものばかりだった。


それにくらべてこの女学院の内輪もめとレベルの低さはなんなんだ…ルイはため息をついた。やれ可愛くないだのキモイだのと文句ばかりで手を動かさずに男の注目を浴びることしか考えてないチア部と、口ばかり達者で目立つことしか考えていない下条ともみ、メンツ丸つぶれで激怒したままの櫻井エリカ…。全員ワガママなやつばかりだ。


…全く、女ってやつは。これだから女はどうしようもない。


ルイはそう思うと、心の中でため息をついた。


「これ、キミがつくったの~?」


搬入された荷物を確認し、『昆虫ドレス』のパーツを整理しているとき、ふと、男性がルイに近づいてきてパーツをジロジロと値踏みするように見ながら、ルイに声をかけてきた。


大人のスーツの集団が、高校生のブースにやってきている。どうやら、大人たちが高校生のブースの視察をしているようだ。なかには、文科省のタグをぶら下げた官僚とおぼしき男性たちや、国会議員のようなバッチをスーツに付けた初老の男性も混じっていた。


「…そうですけど」


ルイが身構えながら、そう答えた。

なんだか偉そうなオッサンらだな…。こんな大人たちに評価されるというのなら堪ったもんじゃない… 心のなかでブツブツ悪態をつく。


「このくすのき女学院というのが、高校生エリアで唯一の女子校の出展者らしいですよ」


「はっはっは、なかなかうまくできているじゃーん」


クソ、バカにしやがって…。ふと、ルイはスーツ軍団の中にいる1人の男の顔を見て、思い出した。この男、先日の高校生ハッカソンで審査員をしていた男ではないだろうか? 名前は確か… そう、高城ローレンツ。なんとも怪しげな男である。


「今さぁ、プログラミング部の顧問の、玉木先生っている~?」


突然、その高城ローレンツがルイに話しかけてきた。


「いや、今日はちょっと。明日は、朝早くからここにいますが」


「そうかぁ~、いや残念。なら、また日を改めるとしようか」


「玉木先生の知り合いの方ですか?」


「…まあ、昔の、ね」


その男はニヤリと笑うと、机の上に名刺を置いて去っていった。

株式会社FUTURE VISIONの代表取締役CEO、高城ローレンツ。

メイカーフェアのパンフレットによると、画期的な新しい画像認識技術で、投資家からの注目を集めているスタートアップ企業である。どうやらメイカーフェアには、PRのため、スポンサー企業として出展しているようだった。


こんな怪しげな男と、我らがプログラミング部顧問の玉木先生に、どんなつながりがあるというのだろう?






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