第39話 学園の女王・エリカ様、怒り狂う
「あの女…一体、何様のつもりなのよ…」
チア部のエース・櫻井エリカは、怒りで打ち震えていた。
他校からやってきたプログラミングアイドル・下条ともみが、「外部コンサルタント」と称してメイカーフェアでの女学院の展示にケチをつけはじめ、完全なる主導権を握り始めたからである。
これでは、メイカーフェアを主導する予定だったエリカのメンツが丸潰れだ。
「なぜ…なぜ、あのクソ女のいうことを聞かなきゃいけないのよ!!」
エリカが、キレイに塗られたネイルの手でバンッ!と机を叩く。後ろに控えている、エリカの親衛隊たちがヒッと身をすくめた。
エリカは正直、学校の成績はあまりよくないが、その美貌で、学園内の憧れを集めて女学院の生徒やチア部員たちを率い、女学院の生き馬の目を抜くような女の縄張り争いを勝ち抜けてきた。
エリート男子校・慶王高校の男子生徒や、お金持ちの社会人との交際など、数々の浮名も流してきた。
だから、インテリ風の美女である下条ともみは、ことごとくエリカの劣等感を刺激する存在だった。プログラミングでネットアイドルとして人気があることも許せないし、頭がいいことも許せないのだ。
そのうえさらに許せないのは、チア部の内部の変化だ。ルイによる、ブランドバッグの模様を例に取ったプログラミング実習の成果があり、何人かのチア部員がプログラミングを楽しそうにやっているのだ。
すべてが気に入らない…。
そう、だからプログラミング部のあかりが発案した、あらたなメイカーフェアの展示物『昆虫ドレス』をチア部へ提案したのは、とても、とてもタイミングが悪かった。
※
「なんなのよ、この気持ちが悪い代物は! さては、あたくしの審美眼をバカにしてらっしゃるのかしら?」
チア部の部室に赴いたプログラミング部メンバー。プログラミング部とチア部による、再度の合同企画会議が開かれていた。
エリカは、吠えるような大声でプログラミング部を叱責した。
置かれているのは、昆虫の複眼をモチーフにしたヘッドドレスと、甲殻類からインスピレーションを得た女戦士ふうのアーマー。そしててんとう虫の鮮やかな赤と黒をイメージしてプログラムでつくられた水玉模様を印刷してドレスに貼り付けた、『昆虫ドレス』の一式だった。
「下条ともみちゃんから提案された、高校生のためのメイカーフェア出展テーマ『SDGs』に合うように、環境問題とジェンダー平等をイメージして作り直した新しいファッションの提案がこの『昆虫ドレス』なの」
あかりがチア部にプレゼンする。
「あ、あの女の名前すら聞きたくないわ! もう、好きにやりなさいよ!」
チア部は現在、プログラミング部のやることに賛同するルイ派と、引き続きエリカについていくエリカ派に分裂している。
「エリカに同意。ぜんぜん、かわいくなくてつまんない」
「そもそも、虫とか気持ち悪いし」
エリカ派のチア部員数名から、そう感想が漏れ出た。
「かわいくない、っていうけどさ」
あかりが話し始めた。
「チア部のみんなが、かわいくてキレイなものが好きなら、これをかわいくキレイにするにはどうしたらいいのかを考えてみようよ! 一見かわいくないものを自分たちでかわいくできたら、面白いじゃない!」
「これを見ろッ…だんだんかわいくみえてくるぞッ…」
すかさず、プログラミング部の昆虫オタク・チエが、秘蔵の昆虫写真セレクションを会議室のプロジェクタで投影した。
チア部のメンバーたちが、映し出された昆虫たちの画像を引きつった顔でジーッと見つめる。
よくみれば、触手はモフモフとしていて、かわいく見えなくもない。
目は気持ち悪いが、つぶらな瞳と解釈できなくも、ない…
羽の模様は味方によっては、芸術的かもしれない…
「ふざけないで! もう、私はこの企画から降りるわ。チア部部員でやりたい人は、もう、勝手にやるといいわ!」
お怒りのエリカ様が、顔を真赤にしながら会議室から出ていった。
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