第41話 あかり、猛獣使いのプロマネになる
パソコン室で、ああでもないこうでもないと話しながら『昆虫ドレス』の模様のプログラミングや作品の最終調整にいそしむチア部員たちを、教室の後ろのドアを少し開けてコッソリ覗いているのは、チア部のエース・櫻井エリカだった。
「たッ…楽しそうじゃない…」
本来ならば、ものづくりの祭典メイカーフェアでの展示を主導しそのリーダーシップを発揮する予定だったエリカ。
しかし、プログラミング部と下条ともみに主導権を握られ、メンツを潰された手前、一緒にプログラミングしたりすることはプライドがどうしても許さないのだった。
突然、後ろからポンと肩を叩かれ、エリカは驚いて振り返る。
「ひっ、だ、誰よっ!?」
「ほらほら~、エリカちゃんだって本当は参加したいんでしょ?
一緒にプログラミングしようよ~!!」
プログラミング部のあかりだった。ドレスの様々な材料を両手にたくさん抱えて忙しそうだ。
「お、お断りよッ。下条ともみや、あんたたちキモオタプログラミング部の指示なんて聞きたくないわ」
「私達だってあんなに性格悪いともみちゃんの指示に従いたくはないよ。
私達はともみちゃんの指示を聞いてるんじゃなくて…
ともみちゃんを『利用』しているだけだよ」
「利用…?」
「そう。確かにともみちゃんは意地悪でワガママだけど…口がうまくて美人なともみちゃんのおかげで、ツイッターでの注目度が高まったし、IT企業から高級プロジェクターを借りれたじゃん。だから、ともみちゃんの指示は最低限聞いておいて、基本的には自分たちのやりたい展示をやればいいんだよ」
「あかり。あなた、ただのお人好しだとばかり思ってたけど、ずいぶんやり手になったわね」
「そうかな?」
フフフ、と無邪気にあかりが笑った。
「なにがあなたをそこまで変えたのかしら」
「うーん。プログラミング部のみんなの影響かな? プログラミング部のメンバーって、ちょっとクセつよいじゃない? 最初は怖かったんだけど、付き合っていくうちに、みんな違った才能を持っていて、そのクセが長所でもあるってことに気づいたんだ。
だから、どんなにクセがつよい人とでも、その人のいいところだけに注目してチームを組めば、一人でものをつくるよりも、ずっと楽しいものがつくれるってことがわかったの」
いかにも平凡な女の子に見えるあかりがそんなことを言うのにエリカは驚いた。エリカはこれでも、部員100人超のチア部を率いてきた身である。言われてみればチアリーディングにも通じるのだった。
「あなた、やり手どころか、猛獣使いみたいね」
「そんなことより、さあ、エリカちゃんも一緒にメイカーフェアに出ようよ! チア部の子たち、喜ぶよ」
プログラミングしているチア部のメンバーたちは、エリカも一緒にメイカーフェアに参加してくれることを心待ちにしているのだ。
「…フン。考えておくわ」
エリカは珍しくうつむいてそう言った。
一緒に厳しい練習を共にしてきたチア部のメンバーたちがプログラミングに目覚め、楽しそうに『昆虫ドレス』の制作に没頭するのを見ているのは、エリカも見ていて悪い気はしなかった。だが、チア部を率いてきたという誇りと、その誇りをプログラミング部と下条ともみによって傷つけられたという意識が、エリカが素直になることを難しくしていたのだった。
「じゃ、いよいよ明日は本番だから準備を急がなくちゃ。じゃあ、またね」
あかりが走り去っていく後ろ姿を見ながら、エリカがつぶやいた。
「気に入らない人のことも、長所を見てそれを利用する、か…」
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