第6章 新校長は IT禁止派⁉︎ 自由を求めて闘えプログラミング部!

第44話 金欠プログラミング部、受託開発で稼ぐ⁉


「何この部屋、寒~い!」


放課後、あかりがいつものようにプログラミング部の部室のドアを開くと、そこは極寒の世界だった。そのあまりの部屋の寒さに、あかりはブルブルと身震いをした。


「…ついに暖房費までもが削減されたようだ」


2重に着こんだダウンコートで顔が埋もれているルイが、ぼそりとつぶやく。

ヒューッ、と隙間風が響き渡った。


スクールカースト最低ランクであるFランク部活の部室が集う『旧部室棟』は、昭和中期に建てられたボロボロのバラック小屋である。Fランク部活への予算は年々削減され、ついに予算節約のため、部室の暖房費までがカットとなったのだろう。


一方、チア部やESS、演劇部など、華やかで人気のあるSランク部活はすでに、令和に建てられたピカピカの最新ビル『新部室棟』に引っ越し済みだ。冷暖房完備はもちろん、パウダールームやシャワー室まで完備しているという。


囲碁将棋部やサイエンス部など、女生徒に人気が無く大きな実績もないFランク部活は、この隙間風だらけの昭和バラック小屋に取り残され、新部室への引っ越しが許されないままなのであった。


「まあ、サーバーにとっては悪くない環境だな。サーバーを増設してその放熱で暖を取るという方法もなくはない」


「む、無駄にポジティブだね、ルイちゃん…。

 こうなるともう、自分たちで暖房費を稼ぐしかないかあ。自分たちのお金でヒーターを買ってきて持ち込めばいいよね…」


「このまま部室の設備が貧しくなっていくようでは、確かに収入が必要だな」


「バイトとかするかぁ…私、自作のケーキを校内で売ろうかな、ハハ」


あかりはお菓子好きで、何かとお菓子を焼いては部室に持ってくるのが好きだった。特に、ルイがプログラミングで本気出してる最中は糖分が必要らしく、たくさん食べてくれるのが嬉しいのだった。


「お前…このまえバレンタインのチョコ制作代行、一個100円で請け負ってたろ。そんなお人好し価格じゃ、いつまでたっても儲けは出ない」


「はあ…確かにお人好しだよね、私。…そういえば、私達プログラミング部じゃん!? アプリ開発で一山あてるってのはどうかな?」


あかりが楽天的な笑顔でそう提案した。最近は、受託開発で稼いでいる高校生や大学生もいるという。腕の立つプログラマであるが、気分屋でコミュ障なルイをうまくコントロールすれば、それなりのものはつくれそうな気がした。


あかりの朗らかな笑顔を、ルイが冷ややかな目で睨む。


「お前のお気楽っぷりには感心するほどだ。アプリ開発で当てるなんて万に1つの確率だろ」


「局地的に流行させて、話題をさらうのはどう? たとえば、くすのき女学院の生徒に使ってもらえる恋愛ゲームアプリとか!

 女学院の女子って勉強もあんましないし、男の子にモテることしか考えてないじゃん? ゲームでときめいたら、勉強にも集中できるんじゃないかな?」


突然あかりが鋭い考察を始めだした。


恋愛ゲーム、と聞いて、ルイが苦虫をかんだような顔をする。あかり以外のオタク部員たちには苦手な分野であった。


「…シナリオやディレクションを全部お前がやるんだったら、やってもいいがな」


「うん、やりたい! やってみよう!」


ガラガラ、と扉が開いて、しのぶが入ってきた。


「うぁ、この部屋寒すぎでしょ。え、なんだって? なにをやるの?」


「しのぶちゃん! いいところに来た。今プログラミング部で絵を描けるのは、しのぶちゃんしかいないよ。女性向け恋愛ゲームの開発が決まったから、しのぶちゃん、イケメンのデザインよろしく!」


しのぶは先日の女学院文化祭で出会ったくすのき科学技術高専の男子に3Dモデルのシェーディング技術を絶賛され、そのオタク男子との交際を始めたばかりだ。初々しい恋を深めている。とはいえ、しのぶも恋愛経験はかなり浅い。


「れ、恋愛…。プログラミング部が一番苦手とするジャンルだねえ…。い、イケメンモデルのデザインとかやったことないけど、想像力豊かなあかりがストーリー考えてくれるなら、やってみようか・・・ひどい出来でも笑わないでよ」


「しのぶちゃん、ありがと~! よし、ゲーム開発プロジェクト開始だ!」


もうすぐ新学期となり、あかりたちは2年生に進級する。

新学期でも、いじめっ子たちはいれどもルイやしのぶとの楽しい学園生活が続くと思っていた。そう、このときまでは…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る