第43話 人気俳優、女学院のブースにやってくる

特撮番組『鉄仮面ライダー』役で一斉を風靡した人気男性アイドル・火川きよし。

彼は、『鉄仮面ライダー』の鎧が昆虫をモチーフにつくられたというつながりで、メイカーフェアで行われた『昆虫×ものづくり』についてのスペシャルトークショーに登壇していたのだった。その人気アイドルがなんと、登壇後に、くすのき女学院のブースにやってきたのである。


「キャァーーーーーーーーーッ! きよし様ーーーッ!!!!」


火川きよしの熱烈なファンであり、そもそも彼に会うことを目的にメイカーフェアへの出場を希望した張本人であるチア部の顧問・如月みづき先生がすさまじい奇声を上げた。


「るっせーな…あのBBA」

「やっば…あのBBA、興奮して厚化粧が溶けかけてるよ」

「そもそも、プログラミング部がチア部と共同でメイカーフェアに出る羽目になったのも、あのBBAが火川きよしに会いたかったからなわけで…なんかうまいことうちら利用されちゃったね」


プログラミング部とチア部の面々が、ヒソヒソと陰口を叩くが、きよし様しか目に入っていないみづき先生には聞こえていない。


「いやぁ、これは面白い作品ですね。どのような仕組みなんですか?」


火川きよしはプロ意識に満ちた完璧なビジネススマイルで、みづき先生と女学院の生徒たちに微笑みかけた。

近づくだけで、芸能人のオーラがすさまじい。みづき先生が気を失いそうになり、チア部メンバーがその両脇をあわてて支える。


「き…きよし様!! これは私の指導のもとに、私の生徒たちが制作した作品ですのよッ!」


両脇を抱えられたみづき先生が朦朧とした顔でそう叫んだ。急に女の色気をむき出しにしてきており、女学院の生徒はドン引きだ。


「(いや、アンタはなんも指導してねーだろ…)」


女生徒たち全員がそう思いながら白い目でみづき先生を睨む。


「一緒に写真をとってもいいですか?」


きよしがにこやかに微笑んだ。


「じゃあ、誰かがこのドレスを着て、一緒に映ればいいんじゃないのかな?」


あかりが提案する。実は、女学院が開発した展示物『昆虫ドレス』は、実際に着て歩くこともできる。触手と複眼がデザインされたヘッドドレスを頭からかぶり、プロジェクションマッピングで投影していた模様を印刷したものを着て、背中に動く翼とそれを動かしている電子工作の一式をリュックのように背負えば完成だ。

この昆虫ドレスを着ると、さながら有名特撮番組『鉄仮面ライダー』の女戦士のような見た目になり、火川きよしとのツーショットにはうってつけだろう。


「アタシ、アタシが着るわよーッ!きよしとのツーショットは、アタシよーッ!!!」


大人気なく一番に名乗り出たみづき先生が昆虫ドレスを装着。昆虫戦士となった如月みづき先生が、火川きよしのセルフィーにばっちり写り込んだ。



「ふ~ん、女学院のプログラミング部も、なかなかやるじゃないの」


メイカーフェア終了後の会場。スマホでインスタを眺めながら、美人プログラミングアイドルでメイカーフェアコンサルタントの下条ともみがニヤリと笑った。若手俳優・火川きよしのインスタに、女学院の作品である『昆虫ドレス』を着た女学院関係者と火川きよしの自撮りセルフィーがアップされており、ネットで話題を集めているのだ。


火川きよしがメイカーフェアに来ることを見越して、話題になるような作品づくりをするなんて、あのアホでバカ正直者ばかりのプログラミング部の誰が、こんなにやり手になったのだろうか。


しかも、テーマとしてともみが押し付けた『SDGs』もバッチリと作品に取り入れてきて、うまくまとめあげており、ともみはそれが気に入らなかった。


もっとあいつらをイジメてやりたい…。

ともみはスマホを握りしめると、新たな策を考え始めるのであった。


第5章おわり

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