第8話 犯人はプログラミング部?


「B組の早乙女ルイがやったって話、ほんとなのかな?」


「あの、1年前、『殺人ゲーム』を作って停学になった子でしょ?」


「確かにWEBサイトにイタズラとかしそうだよねぇ」


「いろいろ噂あるよね。朝の礼拝さぼって、自作の変な機械に自動化させてるとか」


「『殺人ゲーム』って、女学院の生徒同士で殺し合うっていうヤバいゲームだっけ?」


「学校裏サイトにリンク貼られてて、プレイ動画見たことある! 血とかがヤバくてグロかったけど、意外とスカッとしたよ」


教室中で囁かれるヒソヒソ声が、ぴたっと鳴り止んだ。ウワサの早乙女ルイ本人が教室に入ってきたのだ。ドカドカと歩き腰掛けると、ガムをくちゃくちゃ噛みながらノートPCを開き、舌打ちをしてつぶやいた。


「るッせーな…どいつもこいつも」


あのゲームが問題になった事件からもう1年が経過しているのに、今になってこんな噂を仕立てられるとは、アイツの仕業だろう。そう、チア部の櫻井エリカだ。


「フッフッフッ…噂はもう十分に広まっているわね…」


教室の後ろで、リップグロスを念入りに塗り直しながら、チア部のエース・櫻井エリカがルイの後ろ姿を見ながらほくそ笑んだ。


「この事件をルイとプログラミング部がやったっていうウワサを学校裏サイトに流して、プログラミング部を廃部に追い込む…この作戦、どうやら成功しそうね」


「ところでエリカ様。例の情報提供者ですが…、結局何者だったのでしょうか?」


エリカの親衛隊の1人がそう尋ねると、エリカは首を振った。


「そんなことはどうでもいいわ。私の目的は、プログラミング部を潰すこと…。あのキモいオタク集団を潰すための材料なら、なんだって利用するわ!」




放課後、あかりがプログラミング部の部室に入ると、すでにみなが思い思いの作業にふけっていた。ルイは円周率の演算を、しのぶは引き続き銃器のモデリングに忙しいようだ。

この前Scratchで一緒につくったゲームなんて、彼女たちにとっては、ほんとに赤子の手をひねるようだったものに違いない…と、あかりは思った。

それにしても気になるのは、ルイのウワサだ。『殺人ゲーム』なる恐ろしそうなゲームを作ったというのは本当なのだろうか。


「ルイちゃん…みんながウワサしてる『殺人ゲーム』って、なに? あと、最近起きたウェブサイトの事件、プログラミング部やルイちゃんがやったんじゃないかってウワサがすごいけど、ホントなの?」


2人のタイプ音が止まり、部室がシーンと静まりかえった。


「えー、そこ聞いちゃう~?」


しのぶが苦笑いした。どうやら触れてはいけない過去らしい。


「何もなにも…ウワサで聞いたんだろ。『殺人ゲーム』の話は、本当の話だ。お前みたいな高等部からの編入生以外は、みんな知ってる。アタシが怖いんならすぐに退部しろ。だが、ウェブサイトの事件については、一切知らん」


「実は、私のパパとママが、なぜかそんなウワサがあることを知ってて、そんな危ないゲームつくったりウェブサイトにイタズラするような部員がいる部活は辞めなさいって言うの…クッキング部にしなさいって…」


「…」


ルイとしのぶが顔を見合わせた。チア部がその人脈を使って嫌がらせで流すウワサの流布能力は超強力だ。どうやら、プログラミング部が犯人というウワサはPTAや生徒の両親にまで達しているらしい。


「じゃあとっとと退部しろよ」


ルイがぶっきらぼうに言い捨てた。


「プログラミング部なんてしょせん日陰者だし、変人あつかいされたり噂流されたりなんて今に始まったことじゃないんだよね…。私は廃部になるのは嫌だし、今あかりに辞められたら困るけど」


しのぶが卑屈なことを言う。


「...何があったか知らないけど、わたしは今のルイちゃんたちしか知らないから、これ以上聞かないでおく。それにウェブサイトのイタズラの件…ルイちゃんやしのぶちゃんがこんなくだらないイタズラするとは思えないんだ」


「え…?」


「ほらほら、スネてないで一緒にWEBサイトのイタズラの真犯人を探して、プログラミング部の濡れ衣を晴らそうよ!」


あかりは調査を始めることを決意した。とはいえ、やる気のない部員2人に、何にもない手かがりと、困難が山積みだ。まずは学校のウェブサイトの管理体制がどうなっているのか調べるために、顧問の玉木先生に聞き取りを開始しよう。

今日は先生が部室に来る日だから、もうじき来るはずだ。

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