第9話 女学院スクールカーストの構図
「よぅ、やってるかー」
プログラミング部の顧問・玉木先生が部室にやってきた。
ふだんは飄々とした雰囲気だが、イザというときは助け舟を出してくれるのが玉木先生である。
「玉木先生!…例のWEBサイトの事件、プログラミング部がやったんじゃないかって噂を流されて困ってるんです。真犯人を見つけて、濡れ衣を晴らしたいんですが…学校のWEBサイトをハッキングなんて、そんなことそもそもできるんですか?」
「そうだな…Webアプリケーションの脆弱性をついた、クロスサイトスクリプティング、SQLインジェクションみたいな技術的な攻撃手法もある。とはいえそのほとんどは、いわゆる『ソーシャルエンジニアリング』ってやつだ」
「ソーシャル…?」
「人間の心のスキを利用した手法だ。なんてことない、肩越しにパスワードを覗き見るとか、専門家を騙って機密情報を手に入れるとかだ。
つまり…学校のネットワークへの侵入みたいな技術的なことではなく、何かの方法で、IDとパスワードを盗み見たりしたなどと考えるのが自然だ」
ルイが続ける。こういう話になると饒舌なのだ。
「なるほど。意外とアナログな方法の可能性が高いってことだね」
「そうだ」
「ウェブサイトは、誰がどうやって管理しているんですか?」
「更新の担当者は、古文の相田先生。ITリテラシーはゼロ。気の弱い優しい先生なもんだから、サイトの更新なんていう誰もやりたくないめんどくさい仕事を押し付けられてるんだ。
気になっているのは、あの先生、普段からメモをディスプレイ画面にポストイットで貼ってる人だったんだよな。だから、IDとパスワードが書かれたメモが風に吹き飛ばされて誰かの手に…なんてことは、ありえるかもしれん」
「というと、別に特別な技術がなくても、誰でもあの犯行はできるってことか」
「…単純に考えて、校長をコケにするのが目的だと仮定すれば、犯人は校長に恨みのある者、となるね」
「校長先生に恨みがある人たちって、どんな人達なんだろう…?」
編入してきたばかりで、女学院の状況がどうなっているのかあかりは無邪気なほどに何もしらない。
「うーん、さあ…?」
しのぶとルイも顔を見合わせた。コミュ障の2人が、学校の事情に精通するはずもない。
しばらく沈黙が続くと、突然、ガラガラっと部室の扉が開いた。
「結論からいうと、最近部費の予算をけずられてる、理系マイナー部活の人たちじゃないかしら?」
突然入ってきたのは、あかりのクラスメイトで新聞部のミチルだ。
学校一の情報通である。
「ミチル!?なんでこんなところに!?」
ミチルがキリッとした顔で語り始めた。
「これでも新聞部…権力を監視するジャーナリストの端くれとして、犯人が誰なのか、ずっと考えてたの。私が思い出した手がかりは、ついこの前一般公開された、女学院の年度計画の事業書。細かく読んでいくと部活動の予算の数字に奇妙な増減があってね。明言されてはいないけど、どうやら、今後は人気のある部活により予算を割り振る方針みたいなの」
ミチルがホワイトボードに、学校内のヒエラルキーがわかる図を書いた。
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■Sランク部活
実績と歴史のある人気部活。
部員は全員かわいくオシャレにも抜かりない。彼氏いる率も高い。
チアリーディング部
ソフトテニス部
演劇部
ESS(英語研究部)
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■Aランク部活
実績はないが、まったりと内輪で楽しんでいる。おとなしめのカワイイ子も多い。
卓球部
クッキング部
茶道部
美術部
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超えられない壁
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■Fランク部活
キモオタ集団。コミュ力と協調性ゼロ。変人だらけ。
囲碁将棋部
サイエンス部
天文部
プログラミング部
「チアリーディング部やソフトテニス部、文化系なら演劇部やESSが女学院の人気部活ね。こういう入学志望者を集められる部活には、今年から予算が多大にまわっているわ。逆にこのカースト下層の人気がない部活…囲碁将棋部やサイエンス部、プログラミング部。こういう部活は今後活動の縮小を迫られる」
「…そーゆうキッツい真実、キリッとした顔で言わないでもらえますか…」
しのぶがお腹を押さえた。
「確かに、もともとマイナーな上に、女の子は興味なさそうな理系部活だね…」
あかりが溜息をついた。
「そもそもそんなにたくさんの種類の部活があるってこと、知らなかったな」
「あかりは編入生だから、当然だよ」
「そうだ。ちょうど今放課後でいろんな部活が活動してる。星野さんを連れて、校内ツアーにでも行ってきたらどうだい? どんな部活があるか見てくるといい。いつもここに閉じこもっているのもいいが、運動不足は良くないだろ?」
玉木先生がそう言い、生徒たちを外へ押し出した。
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