第10話 女学院における格差の構造
ミチルとしのぶが、あかりのために放課後の校内ツアーをしてくれた。
あかりに引きずられてやってきたルイはガムをくちゃくちゃと噛みながら、しぶしぶついてくる。部室棟を抜けて校庭に出ると、晴れた初夏の日差しのなかで、体育会系のさまざまな部活が元気よく声をだしながら活動している。
プログラミング部とは真逆の爽やかさだ。
「くすのき女学院の校訓は『文武両道』。生徒の全員が何らかの部活に所属することを求められるのは、もう知ってるよね」
ミチルが確認するように言った。
「だから、どこの部活に所属しているのかっていうのは、名刺みたいなもんで、学園生活でどんなポジションになるのかを決める、かなり需要な要素なんだよね~。うちらはプログラミング部だから、日陰者っていう名刺で歩いてるようなもんなのよ」
しのぶが卑屈な調子で言う。
「くすのき女学院には、昔からある部活がいくつかあって、その部活には多大な予算が割り振られているの。たとえばチアリーディング部…」
「そう。我がチアリーディング部は、創立から続く我が校伝統の部活動。全国大会3連覇、OGも各界で活躍。ここに入るのを目的に入学する生徒もいるぐらいよ」
後ろから誰かがミチルの言葉に続いて説明したので、驚いて後ろを振りかえると、そこにはチア部のエース・櫻井エリカが腕組みをしていた。つけまつげをばっちりとした競技用のアイメイクをしていて、それが赤とピンクをメインカラーにしたチアのユニフォームともよく似合っていて、高校生には思えない美人だ。
「あー、またお前か。厚化粧のメギツネビッチ」
「ちょっとぉ、ルイちゃん! 口悪いよ」
「あらァ、暗い青春を送ってる人たち全員でお散歩かしら?日に当たるなんて珍しいわね」
「エリカちゃん、ネットの写真の事件についてなにか知らない?」
「私は何も知らないわね。すっぴんボサボサ頭の編入生さん。寝起きかしら?」
薄いピンク色に塗られたネイルを念入りにチェックしながら、興味がなさそうにエリカが答える。
「チア部について知りたいことがあるなら、いつでも私に聞いて、編入生さん。でも一つだけ忠告しておくわ。ルイとしのぶとツルんでていいことはなに一つないわよ。怪しいゲームつくるのに巻き込まれて、せいぜい停学にならないようにお気をつけて。それでは」
エリカが数人の親衛隊を引き連れて、練習に戻っていった。
「えー、エリカちゃんて感じ悪い。なんであんなにルイちゃんに絡んでくるの?」
「それはねー、昔からの知り合いだからなんだけど」
「うるさい。話はそこまでだ」
ルイが話そうとするしのぶを止めた。
「ぜーったいなんか知ってるだろ、あの澄まし顔…」
4人が校庭からさらに移動しようとすると、ルイがくるりと回ってプログラミング部の部室まで引き返そうとする。
「…あいつの顔見たら胸クソが悪くなってきたから、もう部室に帰る」
「ちょっと、ルイちゃん!」
スタスタと部室の方へ去る後ろ姿を見ながら、まったく、ルイは難しい女の子だな…とあかりは思った。
「見て。あそこで走ってるのがソフトテニス部でしょ。あそこで校舎の前で声出ししてるのが演劇部ね…どちらも全国大会で優勝の実績があって、長年続いている人気の部活よ。ほら、あの人一倍背が高い美人が、銀河マコト。演劇部の花形男役で、完全に恋しちゃってる女子生徒のファンも多いわ」
ミチルが次々と、目に入る部活のいろいろなことを教えてくれる。
「あのピカピカの新しいビルを見て」
ミチルが、校庭の端にあるビルを指差して言った。
「あれが、主にチア部のOGの寄付金で建てられた、今年できたばかりの新しい部室棟なんだって。私達が今出てきた旧部室棟とは違って大きくて綺麗でしょ。いずれ部室のある部は、旧部室棟からあの新部室棟に引っ越しするらしいんだけど、最近廃部の噂が立っている、囲碁将棋部、天文部、科学部、そしてわれわれプログラミング部あたりは、旧部室棟に残されるって噂なのよね…」
「そんな・・・ひどい!」
チア部やESSなどの人気オシャレ部活が使うことになる、今年できたばかりの新部室棟はきれいな新しいビルで、シャワールーム完備、化粧室にはパウダールームまで完備されているらしく、ガラス張りの外観が眩しい。
一方、プログラミング部などの陰キャ部活が今後も使う、古い部室棟は昭和中期に建てられたボロボロのバラック小屋だ。立て付けが悪く錆びついていて今にも崩壊しそうである。夏は暑く冬は極寒になるというのに部屋によっては隙間風が入り冷暖房すらついていないという。
「うーん、聞く限りは全部、マイナーっぽい部活だね…女の子がやってるイメージないし…」
「女学院、最近、年々入学希望者数が減ってるらしくて。少子化と、男女共学化の流れね。ブランディングにも失敗してる。だから必死に人気部活の宣伝に予算をまわしてるんだと思う。
だから、校長先生に恨みを持っている人がマイナーな部活の人たちのなかにいるかもしれない…っていうのが、私の推測なの」
「ミチル、さすが新聞記者。なるほどね…じゃあ、さっそく探してみよう!」
「でも、どうやって?」
「作戦会議をしよう! 一旦部室に戻ろうか」
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