第51話 権力を監視する新聞部、校長の真相を追う
「『保守田』っていう珍しいこの苗字、どっかで聞いたことがあるんだよなぁ~」
放課後の2年B組の教室。
新聞部に所属し、権力を監視するジャーナリストであるミチルが、学生新聞に記載されている新校長のフルネーム『保守田絹子』をまじまじと見つめながら、あかりにそう呟いた。
「どういうこと~?」
「ああ、思い出した。中2の時、2年C組のクラスメイトで、保守田マヨコって子がいたんだよね。親戚かなにかかな? でも、すぐに…半年か1年そこらで、学校に来なくなっちゃったの」
「なんでいなくなっちゃったの?」
「真相ではわからないんだけど、ウワサではメンタル病んでて、不登校だったっぽい。今も学校に所属してるかどうかは知らない…すごいオタクっぽい暗い感じの女の子だったことしか覚えてないけど」
「校長の親戚で不登校だとしたらちょっとしたスキャンダルだね…」
「親戚なのかなあ?調べてみる価値はありそうね…ずっと見ないから多分退学したんだと思うんだけど、今どうしているんだろ? ちょっと調べてみようか」
※
「はあ…」
毎週木曜日の放課後は、プログラミング部の部室に顧問で数学教諭の玉木先生がやってくる日だ。いつも飄々としている玉木先生が、今日だけは珍しくため息をつきながら部室に入ってきた。
「どうしたんですか?玉木先生」
「実は、しのぶ君がプログラミング部を退部するって言うんだ…」
「ええーっ!?」
その上、しのぶはプログラミング部を退部後、女学院憲兵隊に入隊するというのだから驚きである。
「クソッ…やっぱりあの新入部員、怪しい奴だと思ってたが、憲兵隊のスパイだったか…」
ルイが唇を噛んだ。
プログラミング部に入ってきた新入部員・ミカは、実は憲兵隊のスパイだった。
しのぶにあかりとルイが交際していることやしのぶが嫌われているといった嘘を吹き込んで、しのぶを怒らせた張本人だったのだ。
初めから、プログラミング部のメンバーを仲たがいさせる目的で入部したのであろう。その証拠に、しのぶが退部して以来、一度も部に顔を見せていない。
「そのうち、プログラミング部の部室にも憲兵隊のガサ入れがきて、パソコン没収なんてことになりそうだな… そうなると、今やってるプロジェクトも中座することになる」
「もう、憲兵隊、やりたい放題すぎるよ! どうしてあそこまでして校長のいうことを聞く人たちがいるんだろう?」
あかりが悲しそうな顔でうなだれた。
「校長の権威を借りて、弱いものイジメをしたい奴らがいるんだろ…チア部みたいにな。あとは校長のご機嫌をとれば、大学の指定校推薦を取れるのもあるだろうが」
「正直、われわれ教師陣も、新校長には手を焼いていてね。指導にパソコンを使うのも禁止されたうえ、校庭を半分田んぼにして自然派教育だの、五感を大切にするのはいいがちょっとスピリチュアルも入っていて、非常にやりにくいんだ」
玉木先生もそう言って、困った顔をしている。
ガラガラガラッ!!!
3人が無言でうなだれているところ、突然、部室のドアが開かれた。
「新たな情報をつかんだわよ‼」
現れたのは、先日、教室であかりと話していた新聞部のミチルだ。
「ミチルちゃん、どうしたの? 何か新スクープ?」
「新スクープってほどじゃないんだけどね。この前、私が新校長の苗字に見覚えがあるって言ったじゃない? 女学院の過去の名簿をチョロっと見ていたら、詳細情報を見つけたの。私が女学院の中等部2年C組だったとき、同級生だった『保守田マヨコ』のこと」
「その子が、どうしたの?」
「中等部から入学した子だったんだけど、中等部2年の秋からだんだん学校に行かなくなって、不登校になっているの。結局、卒業することなくそのまま退学してるわ」
「そうなんだ…」
「それでね…どうやらその子、今の校長、保守田絹子校長の一人娘らしいのよ」
「ええっ!? そうなんだ。あれほどの教育者でありながら、娘が不登校で中途退学って、ちょっとしたスキャンダルだね。自然派教育は娘には失敗したのかな」
「その通りよ。その子になんとか連絡をつけて、取材する機会を得られないかしらって思ってるんだけど… 中等部のときにその子がまだ女学院に通っていたとき、その子と友達だった子なんていないかな。さらに調査を進めていくわ」
「アタシは知らんな。アタシは当時2年B組で、そもそも違うクラスのようだし。…そういえば」
ルイは言いかけて、いったん黙り、悲しそうな顔をして続けた。
「しのぶは当時、その校長の娘と同じ2年C組だった。何か聞けばわかるかもしれんが… 退部した今となってはな」
一同が退部してしまったしのぶのことを思い出して、しーんと静まり返ってしまった。
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