第54話 田んぼで踊るテクノアート
「本日は、東京都くすのき市の閑静な住宅街の中にある、100年の女子教育の伝統を誇るくすのき女学院中学・高等部に来ています。」
マイクを持った「自然派教育ちゃんねる」の司会者が、ハキハキとした声で実況する。
「今回の講演者は、電子機器を排した自然派教育で知られる教育者の、保守田絹子校長先生です!」
「はじめまして、くすのき女学院中等部・高等部校長の保守田絹子です」
保守田校長が、落ち着いた品のある声色でカメラに向かって話しはじめた。
実績がある教育者であるからか、全国からの総視聴者数は1200人を超えている。
「創立100年を超える本校に赴任して数か月が経ちました。スマホ・PCの校内への持ち込みを禁止したことで、子供たちをよりリアルな世界の自然に溶け込む教育に成功することに挑戦しています。
インターネットは子供たちにとって危険な存在です。また、パソコンを使うよりも、実際の自然の中で五感を大切にしながら学ぶことのほうが、子供たちの健康な発達に寄与します。大人は危険を遠ざけ、無垢な子供たちを正しい方向に導く必要があるのです」
保守田校長は品のある白髪を時折かきあげながら、流れるような口調でそう話した。
「なるほど、その通りですね。それでは早速、保守田校長先生に取り組みの成果レポートをしてもらいましょう。校長先生の理念に共感し、一緒に活動しているというくすのき女学院の生徒たちに、発表の用意をしてもらいました。さあ、お願いします!」
司会者が声を張り上げてそう叫ぶ。自然教育の一環として、校庭の一部が田んぼに変えられている。その田んぼの真ん中に立っているしのぶに、カメラが移動した。
「こんにちは。私たちくすのき女学院の生徒たちは、自然のなかで五感を大切にする訓練を大切にしながら、毎週、放課後に田植えなどの農作業を行っています」
セリフを棒読みしていた風のしのぶが、突然、少し唇の端をゆがめて笑った。
「…農作業を行うなかで、生徒それぞれが創造力を発揮し、アイデアを形にしています。今回発表したいのは、田植えの効率化と、作業中にみんなが楽しくなるためにコンピューターとインターネットを駆使して開発した、田植えロボットです。田植えに飽きたら、音楽にあわせてダンスもしてくれます。これをご覧ください!」
田んぼの真ん中にあった物体を覆い隠していた布をしのぶが取る。登場したのは、保守田校長の娘で不登校のために女学院を退学した、保守田マヨコがつくった3Dモデルをベースにした田植えロボットだ。
突如、校庭のスピーカーから、景気のいいクラブ音楽が流れ始める。
放送部を説得して、流してもらったのだ。
「こ、これは…あなたたち…」
顔が完全にひきつった様子の校長が、驚愕の表情で、踊る田んぼロボットを見つめていた。
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