私立くすのき女学院プログラミング部

かわプロ。

第1章 危機!プログラミング部は廃部寸前 ~私達スクールカースト最底辺~

第1話 「黒い画面」の女の子

「星野あかりさーん、起きてくださーい」


先生のあきれた声と、クラスメートがクスクス笑う声がする。

いけない、授業中に居眠りしてた。


ここは、私立くすのき女学院中等部・高等部。

閑静な住宅街のなかにある、偏差値58の中堅女子校だ。

あかりは、高校受験をしてこの学校の高等部に編入したばかり。

なにもかもが新しくて慣れないから、少し疲れてしまう。


「情報Ⅰ」の授業中、パソコン室が涼しくて、つい気がゆるんで眠りかけていた。

とにかくこのつまらないプログラミングの初歩の授業をはやくこなして、放課後の部活動をのぞきたい。

あかりが興味を持っているのは、クッキングクラブ。

お菓子づくりが好きな友達をつくりたかった。


「す、すみません!」


あかりは先生に謝ると、パソコンに戻り、「Scratch」というプログラミング言語を使ったプログラミングの課題にとりかかる。

プログラミングとはいっても、子どもや初心者にも親しみやすい、カラフルなデザインのブロックを組み合わせるものだ。今日の課題は、画面の中心にいる「ネコ」を動かすものだった。


ガラガラッ!

突然、教室の後ろの扉が乱暴に開かれ、ひとりの背の高い女の子が入ってきた。

ピンクのメッシュを入れた奇抜な髪色で、女学院の制服をだらしなく着崩し、どうみても素行の悪い生徒だ。

教室中の注目がその子に集まる。


「あー、かったりー」


ガムをクチャクチャと噛む音をさせながら、教室中の生徒をにらみつけると、たまたま空いていたあかりの隣の席に、めんどくさそうに腰を下ろした。


生徒たちはピンクのブロックやら黄色いブロックやら、カラフルな子供っぽい色使いのScratch画面で課題をしているのに、その女の子はおもむろにあやしげな「黒い画面」を立ち上げ、なにやら小さな文字を超高速で打ち込みはじめる。


「連立漸化式に従って数列の項を繰り返し計算していく…ってことか…フッ…なるほど、収束も早いな…」


カタカタと高速タイピングする音と、ブツブツ意味不明な独り言がうるさい。そのうえ、片膝を立てながら、モグモグと口を動かしてお菓子まで食べはじめた。とてもお行儀が悪い。


 「おい、早乙女! 教室では課題をやりなさい。飲食も禁止だ」


先生が厳しい口調でそう言うと、早乙女と呼ばれたその不良は、キッと先生をにらみつけた。


 「るせーな」


 ちょっと怖い。この学校にも不良がいるみたいだ。


 …いけない、隣の子に気を取られていた。集中しなきゃ。

 今日の課題は、画面の中にいる「ネコ」を動かすことだった。先生の指示はひととおり終わっていて、あとは各自が課題をやるだけなのだが、あかりのネコはなかなか動いてくれない。


「あれー、うーん?うーん??おかしいなあ?あー、イライラするぅー!」


つい心の中をぶつぶつとつぶやいてしまうクセのあるあかりが、動かないプログラムを前に悪戦苦闘していた。パソコンは苦手だし、プログラミングなんて興味はないのに、今年から始まったというこの授業のせいで、こんなことをやらなくてはならないのだ。


「よしいけ!ってあれ?動かない。むーん?あーもう、わかんない!」


隣から、チッ、という舌打ちが聞こえ、あかりは我に返って恐怖に震え上がった。


「...るせーな...集中できねえ」


そうだ、ヤバイ。となりには不良が座っていたのだ。そっと横を盗み見る。あの黒い画面にこまかい文字は一体何なんだろう?


 「…ブロックが足りてねーよ」


 後ろからボソリとつぶやく声がして振り向くと、隣の不良が椅子ごとあかりに近づいて、背後からあかりの画面をのぞいているではないか。


「これ」


 不良が後ろにいる恐怖を感じながら、指し示されたそのブロックを間にはさむと、見事に、ネコが逃げるようになった。

おそるおそるその横顔を見ると、長い前髪と目つきの悪さでよくわからなかったけど、クールな感じのカッコいい女の子に見えなくもない。


「すごい、ありがとう!」


あかりは感激した。意外な優しさにおどろいて、礼を言う。


「フン」


その不良は照れ隠しのように顔を背けて席に戻り、また、黒い画面をいじりはじめた。


「早乙女、いい加減にしろ。プログラミング部でやっているとか知らないが、ここではみんなと同じものをやってもらう」


「うっせーよ、クソオヤジ。…時間の無駄だ。こんな子供だまし、やってらんねー!」


堪忍袋の緒が切れたのか、先生がふたたび注意すると、その不良は、荷物をさっとまとめて、ドカスカと去っていった。

途中から入ってきて途中で抜けるなんて、すごい自由な不良だ。


「ねえ、あの子ってさ...去年『殺人ゲーム』っていうヤバいゲーム作って停学になったって子じゃない?」


不良が去ってから、他の女子生徒たちがヒソヒソと囁く声が聞こえてきた。


「そうなの?私は、なんかのプログラミングの競争で日本1位を取ったっていうウワサの子だと思ったんだけど?」


「なんにしても怖いよねー。特にあの黒い画面!!」


早乙女と呼ばれた不良の座っていた席をふと見ると、何やら恐ろしげな黒い画面に、白い文字で怪しそうな呪文が書かれている。なんだろ、これ?


--------------------------------------------------------------------------

import numpy as np


def GaussRegendre(N):

a = 1.0

b = np.sqrt(2) / 2

t = 1 / 4

p = 1


for i in range(N):

a_new = (a + b) / 2

b_new = np.sqrt(a * b)

t_new = t - p * (a - a_new)**2

p_new = 2 * p


a = a_new

b = b_new

t = t_new

p = p_new


pi = (a + b)**2 / (4 * t)

return pi


print("GaussRegendre(1) = " + str(GaussRegendre(1)))

print("GaussRegendre(2) = " + str(GaussRegendre(2)))

print("GaussRegendre(3) = " + str(GaussRegendre(3)))


--------------------------------------------------------------------------


恐ろしげなPC画面の下をふと見やると、机の上に、かわいいピンクのロリポップキャンディが置かれていた。

あの不良の忘れ物だろう。

イキりながら、ずいぶんとカワイイものを食べていたんだな…。

あかりはその忘れ物をそっとカバンにしまった。

確か、プログラミング部といっていたな。届けてあげなくちゃ。

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