第29話 『殺人ゲーム』の真相

『早乙女ルイさん。あなたが開発したゲームは、性的な乱れ、暴力、不服従や不道徳を助長する内容のもので、伝統ある女学院の生徒の作品としては不適切です』


『こんな暴力的なゲームを作るとは、彼女には何か幼少期のトラウマがあったという可能性が考えられます』


『早乙女さんってさー、いつも、黒い画面でパソコンいじって、なにやってるの?あやしくない?』


『ルイってさー、女の子なのに、そんなことやって楽しいの? カフェ巡りしたり、プチプラコスメ買ったり、オシャレしたりしないの?』


……


「おーい、早乙女ルイ~! いつまで寝てるんだ~」


先生に怒鳴られ、ルイは目を覚ました。どうやら、教室で居眠りしていたようだ。

また、同じ夢だ。文化祭が近づくにつれて、同じような夢ばかり見る。去年の文化祭で、大人や他の生徒たちに言われた陰口が、夢にまで出てルイを責め続けるのだ。

…アタシは、ただ作りたいものを作ってみただけなのに。

…純粋に技術を評価してほしかっただけなのに。


「おーい、居眠りばっかりしてるんじゃない」


「…」


「お前が寝てる間に、もう授業は終わったよ。さっさと片付けなさい」


ルイが寝ぼけた顔で教科書を片付け始めると、突然、教室にしのぶが入ってきた。


「ルイ!あかりが3Dスキャナーから落ちてケガして、しばらく学校休むって…!」


「ケガ? あかりは大丈夫なのか?」


ルイがめずらしく動転していると、横からチア部の親衛隊一行がやってきて、ルイとしのぶを見て笑いながら去っていった。


「びっくりしちゃったわよねー。あれぐらいであんなケガしちゃうなんてさー」


「あ…あいつらまさか…クソッ…!!!」


「どうしよう… 文化祭まで、あと3日しかないよ」


「…あかりのやってたことを巻き取る。残りはアタシらでなんとかするしかない」


「3日でゲーム開発するの? 無謀だよ!」


「しのぶ、お前もやるんだ。部室に戻ろう。開発会議だ」



プログラミング部の部室で、ルイは、あかりの残した企画書を読んだ。

あかりが作ろうとしていたのは「バーチャル部活紹介」というUnityゲームだった。舞台は、くすのき女学院。主人公はその生徒で、3つある部室の扉をあけると、それぞれの部活の部室に行き、部長に話しかけると部活紹介してくれるというものだった。


それを見て、ルイは去年しのぶとつくった『殺人ゲーム』のことを考えずにはいられなかった。


「殺人ゲーム」も、くすのき女学院が舞台で、主人公は女学院の生徒だ。だが、このゲームでは学校の生徒同士が最後の1人になるまで殺し合うまさにバトルロワイヤル。つまり登場する生徒は全員敵だ。

主役の女子校生の制服は、くすのき女学院の制服だが、スカートは短くて、胸も若干強調されている。これは校長がいうには「性的な乱れ、不道徳を助長するもの」であるらしい。モデリングしたしのぶにとっては、「プレイヤーは、現実の世界では自分がなれなかったカワイイ女の子にゲームの世界ではなりたいから」という、もっともな理由なのだが。

登場する生徒は若干デフォルメされて…つまり、悪役風に描かれている。特にチア部。これは、普段からルイを学校でのけものにしたり、プログラミング部をいじめてくる奴らへのちょっとした仕返しだ。だが、これをチア部の櫻井エリカが根に持ってしまったのは失敗だったが…。だからエリカはプログラミング部を潰そうと日々、画策しているのだろう。

敵の生徒を斬りつけるときの生々しい流血のエフェクトは手が込んでいて自慢だが、これも、大人たちによると「不道徳なもの」であるらしかった。

このゲームのロジックにも、ルイは自信があった。Unityのライブラリに搭載されている通常のエフェクトではなく、自分で一から組み立てている。


ルイはなぜ、このゲームが受け入れられなかったのかを考えた。

ウェブサイトの事件での校長室でのあかりのプレゼンテーションも、ハッカソンでのあかりのピッチの内容も、技術的には微妙なものもあったが、あかりは言葉を駆使して大人をうまく説得していた。

自分に足りなかったのは、他人に理解される工夫をする部分ではなかっただろうか。


このゲームで土台となっているロジックは、ルイの誇るべき部分であり、評価されてほしい部分だった。この土台さえあれば、どういう内容のゲームであろうが、ルイとしては問題ない。


開発時間はのこり3日しかない。

ルイは決めた。『殺人ゲーム』のゲームの土台の部分を使いながら、あかりのアイデアを生かして今年のプログラミング部の展示ゲームに改造するのだ。


あかりの説得により、マイナー部活の部長たちの3Dモデルと、あかりが取材してまとめた部活紹介のためのテキストデータはすでに揃っている。

素材がそろったならあとはやるだけだ。


「しのぶ、やるぞ」

「うん」

ルイがロリポップを2つ口に放り込んだ。


「しのぶ。殺人ゲームの3Dモデルのデータはどこに残してある」


「ばっちり残してあるよ~」


「女学院のマップは殺人ゲームをほぼ流用でOKか… だがこのマップを全部使うには、3つの部活紹介だけだと大きすぎるな…」


「おい」


チエが入ってきた。


「昆虫のデータ、使うか」


「女学院の昆虫採集ゲームか…悪くないな。チエ、それ頼む。しのぶ、3日で、女学院の学内で見つけられる昆虫30体の3Dモデリング。できるか?」


「ひーっ… なんとかしてみせるわよー」


『殺人ゲーム』の、敵を切りつける攻撃のモーションは、虫取り網を上から下へ動かすモーションに変更する。血が出るエフェクトも、網がすばやく落ちていくエフェクトに変更した。


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