第30話 文化祭で彼氏、できました。


いよいよ、待ちに待った、文化祭当日がやってきた。

女学院の名門部活・チア部による桜井エリカ等身大ポスター展示と、女学院一の秀才部活・ESS(英語研究部)の伝統である英語劇の男役・銀河マコトの名シーン集展示の合間にある、プログラミング部の展示スペース。

そこには、ヘッドマウントディスプレイを頭に装着したあやしい人たちが笑いながら虫取り網を動かしているという不思議すぎる光景があった。

ルイたち部員が3日徹夜で開発した『女学院虫取りゲーム』を楽しむ参加者たちである。


このゲームだと、参加者が動き回るスペースが必要となるし、チア部とESSに場所を奪われずに済んだのだった。


どうやら、昆虫採集は男子生徒たちに受けるコンテンツであるらしい。

オタク集団であるくすのき科学技術高専の男子たちはもちろん、モテNo1高校の慶応高校の男子たちまでが、楽しそうにプログラミング部の展示に群がっていた。


一方、両隣のチア部とESSの展示は気合が入った内容にも関わらず、誰もいない。

男子に大人気の展示は、どうみてもプログラミング部の展示であった。


「な、なんであのキモオタ集団のプログラミング部の展示に、男子があんなに群がってるのよっ…!?」


「キーッ、プログラミング部ッ…許さない…!!!」


チア部とESSの生徒が嫉妬に狂っている。



「す…すみません!」


突然、プログラミング部のブースにいたしのぶに声をかけたのは、分厚い眼鏡をかけたチェックシャツの男子だ。どこからどうみても『くすのき科学技術高専』の男子生徒だった。


「このシェーダーの・・・・・・すごいですね! 僕もやるんですけど、標準エフェクトにはないから自分で作ったってことですよね?誰がモデリングしたんですか?」


「えっ・・・アタシだけど・・・」


「すごいっす!」


「えっ・・・//////」


「あのッ…もしよかったら…LINE交換してくれませんかッ…」


「はッ…////ハイッ…」



文化祭から数日後。プログラミング部の部室で、高速タイピングをしながらルイとチエが話している。


「しのぶに彼氏ができたってホントか?」


「どうやらくすのき高専の男子生徒らしい。しのぶのシェーディングの技術がすごいってほれ込んだみたいだ」


「やっぱりくすのき祭で彼氏できるってのは本当なんだな」


「ってか、あのしのぶに彼氏ねぇ…」


「みんなー! 久しぶり―!」


あかりが1週間ぶりにプログラミング部の部室にやってきた。一緒に、しのぶも入ってくる。


「あかり!? 大丈夫か!?」


ルイが心配して、あかりを見た。


「うん、もう大丈夫!! 3Dスキャナーの上にのっかって作業してたら、おりるときにはしごを踏み外してうっかり落っこちちゃったんだよね、ハハッ。なのにうちの親が心配しちゃってさ、1週間は自宅で安静にしてろなんていうから」


「え? 誰かに突き落とされたって話じゃなかったのか?」


「何、その話?ちょっと私がおっちょこちょいでさー。ヘヘッ、心配かけてごめんねー」


「…心配して本気出して損したね、ルイ」


しのぶが肩をすくめると、ルイが呆然とした表情で頭を抱えた。


「ルイちゃん、ありがとー!なんかすごいゲームにしてくれたんでしょ? やっぱり持つべきものはルイちゃん! さっそく私にもプレイさせてよー!」


「…あかりの3Dモデル、切り刻んでもいいか」


「えっ?なにルイちゃんったら突然物騒だなあ。もっと暖かく迎え入れてよね―!」


こうして文化祭を乗り越え、いつものプログラミング部の風景が復活したのだった。


第4章おわり


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