第32話 フィボナッチ数列のふしぎ模様
というわけで、メイカーフェアでの女学院の展示物は、チア部の横暴により『ファッションショー』になってしまった。
チア部の顧問は教育委員会とのコネを悪用し、女学院のためにメイカーフェアの1枠を手に入れるという強大な権力を持っている。とはいえ、だからといってチア部のワガママを通し、普通のファッションショーにするわけにはいかない、と食い下がったのは、プログラミング部顧問の玉木先生だった。〈ものづくりの祭典〉なのだから、ただのチア部の自慢大会にするのではなく、何らかのクリエイティブなファッションショーでなくてはならない。
…という、玉木先生が校長にした必死の交渉がなんとか実り、翌週にチア部とプログラミング部による合同の企画会議が開かれることになったのだった。
プログラミング部の提案は、ドレスの形に切った白いダンボールの上にプログラミングでつくったさまざまな模様を投影するという、プロジェクションマッピング風のファッションショーの企画だ。
「ねえルイちゃん、この前言ってた、『模様をプログラムできる』ってどういうこと?」
あかりが不思議な顔でルイに尋ねた。
「規則性やパターンを見つければそう難しくはない」
ルイがおもむろにインストールしはじめたのは、「Processing」と呼ばれるプログラミング言語の開発環境だ。シンプルでわかりやすい、視覚表現に特化した言語だという。
なにやらカタカタとタイピングした後、ルイはガサゴソと部室のガジェットの山から、あやしげな機械を取り出した。
「なにそれ?」
「プロジェクターだ。パソコンの画面を白い壁などに投影できる」
部屋を暗くし、しのぶがドレスの形に切った白いダンボールに、その模様をプロジェクターで投影する。いわゆる、プロジェクションマッピングのような感じだ。
「フィボナッチ数列のルールに従い,四角形を再帰的に分割して描画した。これを見ろ」
暗い部室の中に、白黒の線のような、ふしぎな模様が現れた。
一同がしーんと静まり返った。
「うーん…言いにくいんだけどさあ、…もっとカワイイ模様つくれない?」
あかりが唸った。
「だって…ナンチャッテ数列が立派なのはわかったんだけど…この模様、春雨みたいなんだもん」
「はッ…春雨…だと…?」
実は密かに悦に浸っていたルイが顔を真っ赤にする。
「私はこんな模様のドレス着たくないよ…ルイちゃんって女の子のことわかってないね」
「なッ…」
ルイの顔が真っ赤から紫色になった。
「そりゃルイに女の子の気持ち理解しろなんて無理な話でしょ」
しのぶが無慈悲な横槍を入れる。
「フン…なるほどな…これは面白い」
突然、それまで沈黙していたサイエンス部と兼部しているチエが、感心の声をあげた。どうやら、ルイの不思議な数学模様は、昆虫を愛するチエの心には刺さったらしい。
「Processingか、やってみたいな。昆虫の羽の複雑なパターンをわずかなパラメータで再現できる数学的モデルを作成することはできるか?」
「それは…面白そうだな」
ルイの顔色が普通に戻り、わずかに輝きが生まれた。
2人が、熱くお互いを見つめ合い始める。
「ちょっとちょっとぉダメダメダメー!
ナンチャッテ数列やら昆虫の羽のパターンだかなんだかで盛り上がってる場合じゃないって! とにかく、チア部も満足するようなカワイイ模様を作らなきゃいけないんだってばー!」
あかりが慌ててルイとチエの会話をさえぎった。なんとかしてチア部が納得してくれる出し物を提案しなくては、メイカーフェアでチア部のいいなりになるのは目に見えている。
あかりはプロジェクトマネージャとして、交渉のアウトラインを考えはじめていた。プログラミング部がアイデアを出して主導権を握り、その代わりにやる内容はチア部のメンバーも楽しい内容に妥協する必要があるのだ。
…だというのに、この部活には思い思いの模様について熱く語るオタクばかり。協調性のなさにあかりは途方にくれた。
「それにしても、チア部の気に入る模様って、一体なんなんだろ…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます