第27話 展示ブースは天敵・チア部の隣!?
いよいよ、文化祭まであと1ヶ月。文化祭実行委員会から各部活動に、出展者ガイドが配布された。
ガイドには、体育館で行われる、くすのき祭名物である各部活動の常設展示のブースの位置が記されている。各部活の配置は実行委員会がランダムに決めているらしいのだが、ことしのプログラミング部のブースの配置を見て、あかりは頭を抱えた。
「あちゃあ…左隣がチア部で、右隣がESSか…難癖つけられそうだな…」
プログラミング部一行は、下見のため、体育館を訪れた。まだ文化祭までは1ヶ月だというのに、各部活、気合が入っているのか、すでにかなりの準備が進んでいる。とりわけプログラミング部の隣のチア部とESSの展示は、すでにかなりの完成度だ。可愛い子率と女子力が高い部活のため、左側からも右側からも、香水と化粧品の匂いがぷんぷんとしている。
「あら、画面の中で暗い青春を送っているプログラミング部御一行様じゃなぁい?」
現れたのは、チア部のエース・櫻井エリカとその親衛隊だ。エリカの後ろでは、華やかなチア部の展示の準備が進められている。櫻井エリカ等身大パネル、櫻井エリカの華麗なダンスの瞬間を集めたDVD、櫻井エリカの使用済みチア部ユニフォーム展示コーナー…
「あらぁ、なんて偶然。今年はチア部とプログラミング部が隣同士なのね。どうぞ、よろしく頼むわ。すばらしいチア部の引き立て役になってくれるでしょうから…」
「クッ…!」
エリカがわざとらしく驚きながら、ニタリと笑ってつぶやいた。
「フフッ…これで海王高校の男子生徒たちの心を掴むことができるわ…」
華やかなエリカには、社会人と付き合っているというウワサや、パパ活でお金を稼いでいるなどという様々なウワサがあるが、実際は、意外にもチアに打ち込む真面目な生徒である。しかし、さすがの女子高生。異性には興味を持つ年頃だ。それに、文化祭のこの常設展示で、どれほど男子生徒たちの注目を集められるかが、各部活間における文化祭でのステイタスとなっていた。
「ねえ…これは一体、どういうことよ!?」
チア部の展示を冷ややかに眺めていたしのぶが、あることに気づいて声を荒げた。
なんと、プログラミング部の展示スペースがチア部とESSの両隣から少しずつ横取りされており、プログラミング部のスペースは机1つ分の長細い幅しかなくなっているのである!
「こ、こんな肩幅ぐらいの細長いスペースで展示できるわけないじゃないのーっ!」
「あらぁ、だってプログラミング部の皆さんの展示って、毎年毎年、机にパソコン置いてるだけじゃなぁい?
女学院全体の利益を考えると、それってスペースの無駄遣いなんじゃないかと思うのよねぇ。より価値のある展示を、私達チア部とESSの皆様がやってくださることよ。チア部とESSで相談して、プログラミング部のスペースを少々お借りすることにしたの」
「勝手に相談して決めるな―ッ!!」
「フッフッフ…呼びましたかな?櫻井エリカ様。プログラミング部のぶんまで、我々ESSが外部のguestをentertainして差し上げましょう」
現れたのは、左隣で展示するESSの部長・銀河マコトとその親衛隊だ。身長172センチという長身と涼しげな目鼻立ち、エリカとはまた違う正統派美人である。
左隣には、ESSの伝統である英語劇のビデオが大画面で映し出されている。とりわけ、校内でのファンが多い男役・銀河マコトの人気は絶大で、銀河マコトの名シーンだけが延々と大画面で流されている。まるで櫻井エリカと銀河マコトがその美しさを競い合うようだ。
チア部のエース・櫻井エリカにESSの人気俳優・銀河マコト…2人の威圧的な美女を前にしてタジタジとなっているプログラミング部一行の沈黙を、突然ルイが破った。
「おい」
ルイが突然ズカズカとやってきて、チア部とESSの部員たちの前に立ちはだかった。
「…すごいデカいものをつくる」
「は、はぁ?」
あかりがルイのほうを驚いて見た。
「今年は、すごいデカいものをつくるッ!!!
だから、スペースが要るんだ。プログラミング部の場所を横取りするんじゃねえ!!」
※
体育館での視察を終えてプログラミング部の部室に戻るなり、あかりはルイを問い詰めた。
「ルイちゃん、さっきの発言、どういうこと?」
「…つい言ってしまった。なんの意味もない。すまん」
「はあ?」
「チア部とESSがチャラチャラしてて頭にきて、思わず言ってしまっただけだ」
「はあ!?」
「おいあかり。いいからなんかデカいもんをつくるんだ」
「はあ!?!?」
「…というわけでルイの発言の尻拭いをすることになった、ってことだわね…」
しのぶが苦笑いする。
「時間ない。スタッフやる気なし。展示スペースの両隣はイジメっ子。おまけにデカイものをつくる…はあ…」
あかりがため息をついた。
「でかいものかぁ…3Dスキャナーなんてどうかな?」
提案したのは、しのぶだ。
「3Dスキャナー?」
「スキャナーの装置に入ったモノや人を360度スキャンして、その3Dモデルを作れちゃうスキャナーよ。実際の人物が中に入ってその3Dモデルをつくれば、それをキャラクターみたいにしてゲームの中で操作できちゃったりするから面白いのよね」
「そ、そんなすごいスキャナー、どうやって作るの?」
「作るんじゃなくて、借りるの。きっと玉木先生の知り合いのスタートアップ企業に聞いてみれば、宣伝のために貸してくれる企業もあるんじゃないかな」
「それはいいな。置くだけでスペースが取れるし、チア部とESSへの威嚇になりそうだ」
ルイが力強くうなずいた。
「威嚇として使うもんじゃないでしょーッ!」
あかりがすかさずルイにツッコミを入れた。
「そうだな…できると思うが」
横で話を聞いていたプログラミング部の顧問・玉木先生が言葉を濁した。
「それだけだと、君たちの展示物としては認められない。それを使って、なにか別のものを作ることを考えてみたらどうだい? 3Dスキャナーをつかって何かをスキャンして、それを作ったゲームやアプリの中で使うとかはどうだ?」
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