第3話 カースト最高峰・チア部の襲撃

翌週の「情報Ⅰ」の授業に、早乙女ルイは姿を見せなかった。

残念だがしかたない。あかりは必死にScratchの課題を授業内で終わらせようとしていた。『画面の中のネコを動かして正六角形を描く』という課題だ。


「先週イキってた子、来てないね」


「早乙女さんでしょ。なんでも、中等部2年生のときに競技プログラミングっていうのですごい実績を残してるらしいよ」


「そうなんだ。じゃあこんな授業聞きたくもならないよね」


他の生徒が早乙女さんについてウワサしているのが聞こえてくる。あかりはもくもくと課題を進めようとするが、画面の中にいるあかりのネコはでたらめに動くばかりで、まったく正六角形を描いてくれない。


そうこうしているうちに、チャイムが鳴った。授業が終わり、みんな教室から去っていく。


「おい」


ドキリとして振り向くと、やはり、あの不良…早乙女さんだった。

授業が終わった後に来たらしい。

まあさすがに、不良でも単位はとらないとまずいのだろう。


「あ、早乙女さん。この前教室に忘れてたロリポップ、部室に届けたけど受け取ってくれた?」


「はぁ?」


そう言ったルイは恥ずかしいのか、目をそらした。

…あんな不良なのに、コミュ障なのだろうか?

あかりがルイの性格をおしはかっている間に、ルイはあかりが組んだプログラムをじっと見つめて思案している。

先程の赤面はどこにもなく、知的な感じだ。カッコいい。


「ここは順次処理だからブロックの順番を入れ替えねーと…」


女の子で不良っぽいのに、どうしてこんな難しそうなことを知ってるんだろう?

あかりのなかで、ルイへの好奇心がどんどん膨らんでいく。


「あの…早乙女さん、この前の授業中、みんなと違って黒い画面で何してたの?」


「円周率計算のアルゴリズムをかたっぱしから試してただけだ。ヒマだったから」


「は、はあ…それってどういう…」


そう聞こうとしたときだ。


突然、あかりたちがいるパソコン室の扉がガラガラと大きな音を立てて開かれると、

大量の女子生徒たちが部屋になだれ込んできた。

部屋に、化粧品と香水の匂いが充満する。


「オホーッホッホッホホッホッホ!

これからこの部屋はチア部のミーティングで使用させていただくわ。

部外者はとっとと荷物をまとめて出ていってくれるかしら?」


長くてきれいな髪を巻いたひときわ美人の子が、大声でアナウンスする。


「ヒーッ!チア部のエリカじゃん、みんな逃げろッ!!!」


残っていた生徒たちがそう叫びながら、恐れおののいた表情で、あわてて荷物を片付けパソコン室を去っていく。

一体、何事だろう。


「エリカ、てめえ学校でデカい顔しやがって。

いくらチア部だがなんだかいって、学校の部屋をひとりじめしていい理由になんねーだろ」


早乙女さんが噛み付くように言う。どうやら、2人は知り合いのようだ。


「あら。スクールカースト最底辺のプログラミング部御一行様かしら?

かわいそうに…パソコン画面の中でチマチマとした暗い青春を送っている方々ね」


エリカが勝ち誇った表情でルイとあかりを見下ろすように笑った。


「く、暗い…!? 私、プログラミング部じゃないんですけど!」


あかりが真顔で反論している間も、チア部の美少女メンバー達が教室に押し寄せてくる。

その数30人ほどだろうか。

みんな綺麗な巻き髪でスカートも短くて、メークもバッチリ決まっている、見た目のかわいい女の子達ばかりだ。

みんなお金持ちの令嬢で、彼氏がいるに違いない。きっと隣のイケメン男子校・慶王高校あたりの。

それになんかいい匂いもする。

チア部は女学園の最大勢力であり、それゆえにそれなりの権力を持っているとは聞いたことがあった。


突然のチア部の襲撃により占拠されてしまったこの部屋では、もうパソコンは使えそうにない。しかし、あかりのプログラムはまだ完成していない。課題の提出は今日の夕方なのに・・・。

困った顔をしていると、ルイがあかりを覗き込んで背後からささやいた。


「…部屋に来るか?」


「えっ?」


ドキドキして、思わずルイの目を見つめる。

ルイの目は大きくて、見ていると吸い込まれそうだった。


「…プログラミング部の部室だよ。来るか?」


「あ、うん」


「こっちだ」


あかりは我に返り、スタスタと歩いていくルイを追いかけて走った。


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