第47話 コンピュータで作ったものは作品とは認めません
ゲーム開発のことで、しのぶとケンカ別れした翌日。
あかりは、漫画研究部の部室を訪れていた。
あかりは反省していた。しのぶがせっかく考えて提案してくれたキャラクターデザイン案を否定して、彼女を傷つけてしまったのだ。
しのぶとの関係を修復するために、まずは自分がどんな乙女ゲームのキャラクターをつくりたいのか、自分の意見をハッキリさせたかった。
そのために、まずは漫画研究部の部員たちにアドバイスを受けようと思ったのだ。なにしろくすのき女学院の漫研はBLと百合のオタクがひしめきあうように活動しているのである。
放課後、漫研の部室のドアをトントン、とノックする。
部長があかりを部室に招き入れてくれた。
「なるほど、ゲーム開発で使うイラストをうちの部に発注したいってこと?」
漫研の部長は、あかりの知り合いであり、話は速い。
「いや、まだそこまでは話が決まっていないの。登場人物のキャラクターデザインで、チームメンバーと意見があわなくて、喧嘩しちゃってさ…。
まずはどういうキャラクターデザインがいいかを相談したくて、ここに来たの。よく考えたらプログラミング部の部員って恋愛経験とかないし…」
「うーん、じゃあとりあえず、そのへんにあるBL漫画の絵柄でも読んで参考にしといてくれるかな?」
部長がめんどくさそうに部室の隅にある本棚を指さした。
本棚には、美青年が熱く絡み合っているマンガが山積みになっている。
「…すまない。うち、いまそれどころじゃくてね」
「忙しいの?」
「いや、違う。新校長の方針のせいで、デジタルでマンガを書くのが禁止になるかもしれなくて、それで今うちの部は大騒動なんだ」
「描くのが禁止?」
「新校長の方針では、『コンピューターを使ってつくりあげた作品は、作品とは認められない』んだって。紙の上に手書きした作品だけが作品として学校の名前をクレジット表記できるって」
「つまりペンタブとかタブレットとか、使っちゃいけないってこと?」
「そうなんだ。そのうえ、どうやらIT禁止の校長の一派の美術教員が今年から赴任してきて、その人が顧問になるっていう噂なんだ。
それで、漫画研究部は美術部に吸収合併されるらしい」
「なんで? 私は、鉛筆で描いても、コンピューターの画面の上でも、一生懸命書いた絵なら、どちらも同じじゃないかと思うんだけど」
「私もそう思うんだけど、校長はそうは思わないみたいなんだ。パソコンを使って描いた絵は“心がこもってない”んだって」
あかりと部長が、困り顔で話していると、突然タタタッと、一人の部員が駆け寄ってきた。
「部長…!大変な情報が入ってきました。“憲兵隊”が、もうすぐ抜き打ちでうちの部室の調査にくるっていう情報をつかみました。早く隠さないと…!」
「わかった。隠しておけ」
その部員が、てきぱきと他の作業中の部員に指示を出す。どうやら集めているのは、部費で購入しているタブレットとペンタブのようだ。
「このタブレットは、歴代の漫研OGの好意の寄付で購入したものなんだ。だから、ぜったいあの校長には渡すことなんてできない…!」
「どういうこと?それに、憲兵隊って何?」
「憲兵隊は、校長直属の部隊で、志願した女学院の生徒たちがやってるんだ。生徒たちが持ってる私物のノートパソコンやタブレット・スマホなんかを、抜き打ちでチェックして没収する、タチの悪すぎる奴らだ… そいつらがもうすぐここに来るっていう情報をつかんだから、隠しておくんだ」
「なにそれ? なんでそんなこと、私たち生徒の中にやってる人がいるの?」
「校長の言うことをきけば、内申点にいいんだろうな。エスカーレーター式に系列のくすのき女学院大学への推薦入試の枠を狙ってるやつらも多いから」
「そうなんだ…」
あかりと部長が困り顔で話していると、突然、ガラガラっと漫研の部室が開かれ、聞き覚えのある高笑いが聞こえてきた。
「オーッホホホホッ! 女学院憲兵隊が参上したわよ。ここに校則違反のタブレットがあるっていう怪しいウワサを聞きつけたわ。さあ、持っていらっしゃい、全部没収よ」
入ってきたのは、チア部のエース・櫻井エリカだった。
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