第23話 女学院のプロトタイプ、動かない⁉

「それではエントリーNo.30、くすのき女学院高等部プログラミング部による『魔法のステッキ』です、どうぞ!!」


高校生ハッカソンのMCが高らかにそうアナウンスすると、ピッチを行うあかりにスポットライトが当たった。


あかりが実装を担当したステッキのLED部分は、結局、最後まで点灯しなかった。

ルイや玉木先生に教えてもらえばいいものを、あかりはついにそのことを他のメンバーに最後まで言えないまま本番を迎えてしまった。自分に任された仕事を、誰かに教わらずに、自分一人でやりたかったのだ。

まあ、振ったときに光らなくても、杖としての最低限の役割を果たせればそれでいい…あかりは悲しい気持ちでプレゼンの演台に立っていた。

ハッカソンでは、とりあえずできたものだけでも発表して、勝負の土俵に立つことが大事なのだ。


あかりは一呼吸おくと、プレゼンを始めた。


「みなさんの故郷にも、ひとつぐらいは、昔ながらの名物お菓子がありませんか?

私たち女学院があるくすのき市には、くすのきせんべいというせんべいがあります。

私たちは、このくすのきせんべいを識別できるIoTアイテム…魔法の杖をつくりました。

とにかく、早速やってみましょう。それでは我がくすのき市のマスコットキャラ、スノッキー和尚に振ってもらいましょう。スノッキー和尚、さあどうぞ!」


この後、くすのき市のマスコットキャラ「スノッキー」の着ぐるみを着たしのぶが、開発した魔法の杖を振りデモを行う役回りになっている。


「スノッキー」は、某県某市の「ふなっしー」や「せんとくん」と並び立つほどではないが、そのクセのある言動でネット界の一部で固定ファンも多い地方自治体のマスコットキャラだ。


ああ、その杖のLEDは光らないのに...あかりが絶望して目を瞑ると、次の瞬間、観客からドッと爆笑のどよめきが起きているではないか。

あかりが振り返ると、なんとそこには突貫工事でつくった安っぽいスノッキー和尚のコスプレをしたしのぶ...ではなく、本物のスノッキー和尚がいた。

…Twitterフォロワー2万人のネット有名人であるスノッキー和尚がそこにいたのだ。


「え、ええっ!?!?」


裏側で、ルイが落ち着け、とあかりに身振りで示している。

スノッキー和尚が並んだクッキーの前で杖を振ると、見事、杖はくすのきせんべいに反応。ディスプレイにくすのきせんべいの豆知識が表示された。


「ぎ、技術的な説明をします。厚紙でつくった筐体の中にはラズベリーパイとその電源、カメラが入っています。

杖が振られたときに加速度センサーが反応してカメラのシャッターが降ります。

まだ実装しておりませんが、同時にライトと音も鳴る予定です。

画像認識ライブラリのOpen CV を使って、ハッカソン前に事前に学習をさせ、くすのきせんべいの可能性が高いものに対して判定をしています」


LEDライトは点灯しないが、スノッキー和尚が聴衆に手を振るだけで聴衆は盛り上がっているようだ。

女学院プログラミング部の発表も、大盛り上がりの中で終了した。成功だったようだ。


「ふーっ。。。緊張したあ…って、なんで本物のスノッキー和尚が協力してくれたの!? めちゃくちゃ盛り上がってたじゃん!」


楽屋でスノッキーが頭のかぶり物を取ると、中の人はしのぶだった。


「フフッ。ルイ、あかりに説明してあげて」


しのぶがにやりと笑って、ルイを見る。ルイが続けた。


「チア部の櫻井エリカが、チア部の写真集を作れって脅してきてただろ?

『魔法のステッキ』と同じ画像認識と機械学習ライブラリを使って、アタシがその写真集づくりにちょっとばかり、協力してやったんだよ…

圧力に屈したわけだが、変なウワサ学校に流されてプログラミング部が廃部になるのは嫌だからな。

そしたら、エリカが『筋は通す』って言って、チア部が備品で持っていたスノッキーの本物の着ぐるみを貸してくれたんだ。

チア部がくすのき市に地域貢献賞かなんかで表彰されたときにもらった、くすのき市公式のスノッキー和尚の着ぐるみ、らしい」


ルイがぶっきらぼうにそう説明した。


「あんたとエリカって、なんか腐れ縁よねえ。今は敵だけど活躍を見守る古い友だちみたいな?」


しのぶが意味深につぶやいた。


「勝手に想像してろ」


「ルイちゃん...あの...私...」


あかりがルイをまっすぐ見つめた。


「ごめんなさい。私、完成できなかったの。魔法のステッキのLEDの部分が光るプログラムを書けなくて…だからもう、優勝はできないね。

本当はチームだから助け合わなきゃいけないのに、私、ルイちゃんにわからないことを聞くのがいやだったの。本当つまらないプライドだよね。わかってるの。でも、今回は自分だけでやりたかったんだ。誰かに聞かなくても、一人でできるんだってことを…見せたかったの。みんな…ごめんなさい」


『ルイに』見せたかったという本心を、あかりはあわてて飲み込む。

謝るあかりを、ルイは無表情で見ていたが、しばらくして、ぼそぼそとしゃべりはじめた。


「…ハッカソンなんてくだらない。どんなに技術的に面白くても、結局は、プレゼンで動くものを見せるのが最優先の世界なんだ。ようするに、いいプレゼン資料をつくった奴が勝ちみたいな世界だからな。

ってか、もしかしたら、そーゆうのがクソ汚れた大人の世界なんだろ。くだらねえ」


ルイが続ける。


「あかりがいなかった去年もこのハッカソンに出た。その時は、ゲームを作って見事に失敗したんだ。その原因は、アタシが細部にこだわりすぎたせいで時間がなくなってコアとなるゲームのロジックの実装まで手が回らなかったのも一因だった。敵から受けたダメージ計算のロジックは、自分でもいいなと思ってたんだけど、そんなのプレゼンで発表しようとも思わなかったし、もし発表したとしても、誰が評価してくれると思う?わかりやすさがすべてなんだ。

 その点、さっきのあかりのプレゼンはよかったよ。ちゃんとこれからLEDつけて光る予定ですってことだけでもしたたかにアピールしただろ?できなかったことでもできたって顔するのが競争なんだ」


そういうの、アタシはきらいだけど、とぼそりと言って、ルイが続けた。


「不器用な人間でも、プレゼン上手な人間と、チームで組めば強いだろ」


「ルイちゃん…」


「スノッキーの着ぐるみも、こういう形で目立つのも嫌だけど、部の存続のためなら、うまく利用したほうがいいかと思ったんだ…」


「ルイちゃん…ありがとう。そこまでしてくれて」


「…ともみほど愛想ないし可愛らしくもないけどな」


「え、まだ嫉妬してんの?」


ずっととなりで話をきいていたしのぶがつっこんだ。


「黙れ、ミリオタ」


「あかりのプレゼンよかったよ!さっすが、PMって感じだったー!」


しのぶがあかりを抱きしめた。女学院プログラミング部、はじめてのチーム開発だった。

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