第15話 10年前の約束

美幸とデートする事になった。

俺の高校。

つまり学校内での極秘裏のデートとなる。


まさか美幸がこの学校にいてしかも成り行きでデートをする事になろうとはその。誰が思ったものか.....、と考えながら美幸を見る。

美幸は本当に嬉しそうにはしゃいでいた。

クルクル横に回転する。


ただの屋上なのにな、と思いながら俺は苦笑しながらはしゃぐ姿を見る。

まるで遊園地に来た子供だ。

そうしているといきなり、そういえば思い出したんですけどお姉ちゃんもそうですが達也さんはテストが有りますよね?大丈夫なんですか?、と聞いてきた.....オイ。

俺は冷や汗をかく。

それからまるでぎこちないブリキ人形の様に慌てる。


「何でいきなりその話になるんだよ.....ビックリさせるなよ」


「えー。だって聞きましたよ。.....達也さんの成績が悪いって。現実から逃げていませんか?」


「無いって。.....一応勉強しているし大丈夫だよ。全く」


「お姉ちゃんは心配な事があると包み隠しませんから」


「アイツめ。勝手な事を。喋ってほしくない内容だ」


何ていうかお姉ちゃんは本気で心配していました。

お兄ちゃんの成績が悪いの、と言ってくる。

まあ確かにな.....それはそうかもしれない。


一般的に考えればどんな高校でも成績がそれなりに悪いと留年だ。

つまり.....進級出来ない。

俺は溜息を吐きながらベンチに腰掛ける。

確かにその通りだ、と答えながら、だ。


「しかもこの学校はちょっと頭の良い県立だから.....留年も余裕であり得るしな。ふっ」


「何のんびりどっかの誰かに解説している様にしているんですか。マズイですって」


「そう言ってもな。.....まあ努力するよ.....すまん」


「.....仕方がないですねー。じゃあ宜しければ報酬を下さい。それなら一緒にお勉強を教えてあげますよ」


「.....何だ報酬って」


それは.....えっとですね、と紅潮する美幸。

一緒に買い物してくれたら報酬とします、とニコッと笑顔を浮かべる美幸。

俺はその姿に驚きながらそれで良いのか?、と聞いてみる。

すると美幸はニコニコしながら、はい、と答える。


「どんなのも小さな事から一歩ずつ、です。お姉ちゃんとつり合わせながら、です」


「そうか。.....本当にお前らしいな」


「.....これって私らしい.....ですか?」


「.....そうだな。お前らしい。.....お前は初めは意地悪な面もあるがそれでいても困った人に手を差し伸ばす。.....それは.....お前の個性だ」


「.....!」


まあ例えば.....そうだな。

久々に出会った時の事だ。

俺達に絶対に接触しないで、と言っていた癖に最終的には接触して来たしな。

あれはちょっと笑ったよ。

と俺は説明する。

美幸は少しだけ恥ずかしそうに頬を掻いた。


「誇れるかどうかは知らないが。だけど個性は大切だぞ」


「.....達也さん.....」


「因みに俺の場合はちょっと頭の良い奴らにイジメを受けて自信が無くなっていた面もあるしな。成績の面で、だ。だけど.....そいつらを見返そうと思ったしな。.....きっと頑張れるのが俺の個性だ」


「.....相変わらずですね。初めから出会った時から。.....私が貴方を好きになろうと思った初めの時から」


「.....そういえば聞いて良いか分からないが俺が美里を救っているから好きになったって言ったが。.....それだけで恋に落ちるもんなのか?女の子って」


俺はついつい聞いてみたくなった。

すると.....美幸は後ろに手を回してから。

目の前の空と木々をまた見据える。


俺は?を浮かべながら見る。

すいません。あれは実は嘘吐きました。申し訳無いです。てへぺろ、と言い出した美幸.....え?

それはどういう?


「.....私.....昔から。10年前からヒーローじみた達也さんが好きだったんです。.....覚えていません.....よね。当たり前ですね。まあそれは。私達は.....お姉ちゃんと約束した昔から約束の証を持っていますが.....」


「約束の証?何だそれは?」


「.....約束の証です。実はとある鍵を私達は持っています。達也さんには錠を今の様な約束の日まで持たせる筈でした。.....でも真実はもう分からないんです。中には婚約指輪が入っているそうですが.....」


「.....ちょっと待て。俺はそんな錠は持ってない.....」


美幸は少しだけ悲しげに俺をみてくる。

その様子を見ながら顎に手を添えるが今の今までずっとそんな事は聞いてない。

そもそも俺が受け取ったのは錠では無いのだ。


記憶の齟齬がある。

俺が受け取ったのは.....美幸の大切な人形っぽいものだ。

つまり.....錠では無いのだが。

どうなっているのだ?


「.....実はですね。.....お姉ちゃんは錠を貴方に渡さずに隠しました。当時私は幼かったので少し分からない点もあり気付くのに遅れました。.....恋愛を負けたくないからって私に黙って、です。私達の持っている鍵の何方かはその錠を必ず開く事が出来るみたいです。開いた方が選ばれし人です。.....でも真実は闇の中になっちゃいました。.....お姉ちゃんはとぼけていますが私は錠を隠した事を知っていますから」


「.....それは本当か?だとするなら何故お前は探さなかった」


「私がこの気持ちを貴方に伝えたらお姉ちゃんが悲しむと思ったからです。お姉ちゃんが幸せになるべきだと私は思っていましたから」


「.....!」


「.....でもお姉ちゃんは最近.....変わりました。だから大胆になってきましたよね。それだったら私も手加減はしないで良いかなって」


だから私は貴方が昔から好きなんです。

と紅潮しながら笑みを浮かべる美幸。

そんな真実があるとは思わなかったのだが。

今はその鍵は持っているのか?、と聞いてみる。

すると美幸は胸元から紐の付いた古ぼけた鍵を取り出す。


「.....大切な宝物です。もう持っていても意味は無いですが」


「.....アイツは少しだけ負けん気が強いからな。.....だからやっちまったんだな」


「.....でも私はそれで良かったと思っています」


「.....え?」


「.....私は選ばれたく無いです。そんな鍵一個で。.....私は自由に恋愛したいですから。.....だから失くしてくれた事。お姉ちゃんに感謝しています。今は」


そして胸元に仕舞う美幸。

それからゆっくりと俺の横に腰掛けてきた。

そうしてから寄り添って来る。


私はお姉ちゃんも達也さんも応援したいです。

でももう隠し事は無しですね。

とニコッとする。


「.....達也さんに心の底から好きって言えたから。スッキリです」


「.....そうか.....」


「.....達也さん」


「.....何だ」


「私は魅力がありますか」


「.....女性としてなら十分魅力はあるよ」


中学生ですけどそれでもですか?、と真剣な顔をする。

俺は、ああ、と答えた。

すると美幸は、そうですか。安心しました、とホッとする。

俺は苦笑しながらそれを見ていた。


でこの後の事だが。

俺は担任にこっぴどく叱られた。

そして遂に.....シスコンの親父がやって来る。


モンスターペアレントの親父が、である。

どうなるのだろうか、と思いながら俺は参加する訳にもいかず。

そのまま心配なまま部活に行った。

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