第22話 天才故の世間の扱いと嫌っていた世界

とは言えまあ。

互いが好きと分かったからといって.....それを2人に言う気はない。

その為に俺はアルバムをそのままそっと閉じた。

それから.....元の場所に直す。

そして.....美里を見る。


「美里。.....この事は言わないでくれ」


「言わないよ。.....だって.....こういうのって言うんじゃなくて気付くのが正解だもんね。大丈夫。言わないよ」


「.....ああ。気付かせるさ。仮にもあのクソ馬鹿にはお世話になっているしな」


「だねぇ。.....私も相当にお世話になったから」


「.....そうだったな」


それから下に降りて来ると。

生島と夢有さんが寄って来た。

何してたんですか?、的な感じで、だ。

特に夢有さんは興奮している。

オイオイ。


「何も無いよ。.....特には」


「そうだね。.....達也」


「怪しいですね.....」


そんな感じで眼鏡を曇らせる夢有さん。

それを苦笑いで見ながら.....仁達を探すと。

義妹と美幸と一緒に話していた。

俺はその姿を見ながら少しだけ息を吐きそれから見る。

美幸達も俺に気が付いた様だった。


「何してたんだよ?卒業マン」


「殺すって言ってんだろお前」


「ハッハッハ。美里ちゃんと2人になった罰だぜ」


「.....ったく」


俺は思いながら.....琴ちゃんを見る。

琴ちゃんは笑みを浮かべて俺を見ている。

それを確認してから.....時計を見た。

もう夕方で.....17時か.....。


「お開きにするか」


「そうだね」


「確かにな」


これ以上遅くなると夕暮れになっちまう。

俺は思いながら手を叩いた。

それから、お開きにするけど良いかな、と声を掛ける。


するとみんな、おう。はい、などと返事をした。

よし.....良いか、と思っていると。

美幸がヒソヒソと声を掛けてきた。


「.....達也さん」


「.....どうした?美幸」


「.....もしかしてですけど.....仁くんと琴さんって.....」


「.....言うな。内緒だ」


「.....分かりました。じゃあ言わないです」


流石の美幸も察した様だった。

俺はそれを聞きながらシーッと唇に人差し指を添えてから笑みを浮かべてからのみんなで片付けを開始した。

生駒先輩も手伝ってくれて.....助かる。



「今日はとても楽しかったです」


「.....そうか」


何故か知らないが。

俺の部屋に今度は美幸がやって来てから。

ライトノベルを読んでいた。

そんな姿を一瞥しながら.....俺は試験対策を立てる。

時折だが試験の事について教えてもらいながら、である。


「それにしてもビックリですね。.....まさか仁くんを嫌いな筈の琴さんが好いているなんて.....」


「.....まあな。俺もビックリだ。.....まあでもな。昔から好いていたみたいだけどな。.....ずっとな。.....両思いってやつだな」


「.....良いなぁ。そんな関係になりたいです。両思いの」


チラチラ俺を見てくる美幸。

俺は赤面で溜息を吐きながら.....美幸を見る。

そんな美幸はニコッとした。

俺はその姿にドキッとしてくる。


「可愛いです。達也さん」


「アホ。先輩を揶揄うな」


「だって可愛いですもの。アハハ」


「全く」


可愛らしくウインクする美幸。

俺はそんな姿に額に手を添えながら勉強をする。

すると指摘があった。

間違ってますよ?、と、だ。

いかん。


「.....お前のせいだよ。ドギマギする」


「じゃあ私の勝ちですね。良かった」


「.....勝ちも負けもないっての。全く.....」


「達也さん」


「.....何だ」


俺の頬に人差し指を立ててくる美幸。

それから押し込んでくる。

俺は?を浮かべて美幸を見る。


すると美幸はまた背後から俺を抱き締めてきた。

うん。暖かいです、と言いながら、だ。

ちょっと.....。


「暖かいですね。人の温もりって」


「良い加減にしろよ。本当に.....恥ずかしい」


「私は好きですよ。こういうの恥ずかしくもないです。スキンシップです」


「.....お前は.....親に抱き締めてもらってないのか」


「.....ですね。.....まあ私達は本当に全部が道具みたいな感じでしたから」


俺はその言葉に眉を顰める。

それから.....俺は美幸に、大丈夫か、と聞く。

美幸は少しだけ悲しげな感じで、お姉ちゃんもそんな運命を辿っています、と答えながら.....窓から夜空を見上げる。

俺はその様子に、そうか.....、とだけ答える。


「美里もなんだな」


「お姉ちゃんも私も冷たい待遇でした。.....しかも言っちゃ悪いですが優秀だから.....周りからも嫉妬と冷遇とイジメを受けました」


「.....そうだな。確かに。それは知っているが.....お前もとはな」


「.....私は普通の女の子になりたいんです。.....こんな天才じゃなくて普通の恋する女の子に。だって.....頭が良くても.....」


「.....普通の?.....でもそこは良いじゃないか。.....天才って相当に羨ましいぞ。上がったり下がったりの株の予測とか新聞で平然と出来そうだしな。それに大企業とか入れるしな。何でだ?確かにイジメも.....認めるが.....」


ううん。達也さん。

天才は天才なりに悩む点があります、と悲しげに苦笑する美幸。


俺は.....その姿に思いっきり見開いた。

それから、そうなんだな。俺が悪かった、と謝る。

そりゃそうだよな。

頭が良いから.....何でもかんでも良いって訳じゃないよな。


「.....実は私だけは世界で数百人しか入れない会員でもあります。.....所謂、IQが余程良くないと入れないチームの上位何%かの。.....だから何だって話ですけどね。それにこれはお父様が無理矢理に私を説得して会員にならされました。そんな天才の称号は要らないですけど.....入らないといけない、的な雰囲気だったから.....仕方がなかったです」


「.....期待の星ってか。.....お前も大変.....なんだな」


「達也さんの為なら大企業でも株の売買でも何でもしますけどね」


「.....俺の為か。.....それでお前がどうにかなるならそれはやらんで良い。お前が壊れるなら金も名誉も何も要らないしな。馬鹿らしい」


「.....だからそういう所が好きです。私は大好きです」


俺はその言葉に赤面しながらも話を続けた。

それに金なんてあっても無くてもヤバいしな、と答える。

すると、達也さんは全然.....人が違いますね、と笑顔を浮かべた美幸。

俺は?を浮かべた。


「.....私、中学生になってから......無理矢理ですが相手先と将来の婚約の為のお見合いもしました。.....でもその人はお金を求めていました。私の頭脳も。.....だから嫌でした。.....その時はお姉ちゃんが助けてくれましたけど.....です」


「.....酷い話だな。金と頭脳なんて人を狂わせるだけだろ。そんなもんを平然と要求する気が知れない」


「そういう人も居ます。この世の中が全て良い人で出来ていたら苦労しないですけどね。.....アハハ」


ブルッと震えて.....青ざめる美幸。

俺は.....その姿にシャーペンを置く。

それから美幸の頭に手を添えて撫でた。

美幸はその大きな目をパチクリする。

そして笑みを浮かべる俺。


「俺はお前の傍でお前を見守っている。だから安心しろ。.....俺は何もお前らに求めないしな。この家は安全地帯だ。美里にとっても」


「.....ですね。.....はい。そう思います。こんなに家庭的なのが嬉しいです」


世の中には金や名誉が欲しいと平然と思っている奴が居る。

そして奈落の底から手を伸ばしてくる。

それなのに美里も美幸も名誉や金は要らないと.....言っている。


不思議なもんだな.....って思う。

何でこんなに良い子なんだろうな2人とも。

俺は.....思いながらはにかむ美幸を.....見つめた。

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