第43話 生島の働いている目的

美幸と付き合い始めてから。

世界には花が咲く様に.....彩られていく。

その様な人生が本当に楽しいと思っている。

しかし.....その裏で.....。

今もずっと悩んでいる人も居る。


例えば.....田中さんの親戚の女性とか、だ。

美鶴さんという女性らしいが.....田中さんの親戚だという。

カラオケ店を経営していたがもう廃業する予定だったという。

その顔はもう.....疲れ切っていた。


それは田中さんの居なくなった為のバーンアウト。

つまり燃え尽き症候群で、だ。

燃え尽き症候群とは所謂.....鬱に近付く状態らしい。


ネットで調べたらそう書いてあったのだが。

その為に俺達はお店を手伝う事にした。

廃業しなくても良い様に、だ。

美幸も美里も心底からやる気だった。


「正直言って申し訳無いと思っている。.....御免な。三菱」


「俺達がやりたいって言い出したんだから.....御免とか言うな。生島」


「そうですよ。生島先輩」


「.....だね。美幸。達也」


そんな会話をしながら。

俺達は一旦と家に帰っていた。

バイト先の生島も一緒に、である。

4人並んで席に腰掛けて電車のまるでゆりかごに揺られながら。

俺は生島を見た。


「でも何であそこでバイトしていたんだお前は」


「.....実はな。.....体育祭で結局.....夢有は告白出来なかったじゃん?」


「.....それは確かにな。確か恥ずかしがって告白が出来なかったよな?」


「.....それで.....まあその夢有にプレゼント資金をプレゼントしようと思ってな。バイトを始めたんだ。でもまさかこんな事態に陥るとは思ってなかったけどな」


「.....相変わらずだなお前は。陰ながら人を助ける不器用さが」


「煩いな。三菱。.....殴るぞ」


赤くなりながら俺に説教する生島。

お前に殴られたらたまらんわ。

その様に苦笑いを浮かべながら生島を見る。


すると美幸が笑顔で生島に向いた。

それから、凄い事をしますね、と言い出す。

本当に尊敬している様な感じの雰囲気だ。


「.....アタシは凄いんじゃないよ。.....ただ夢が無いだけだ。本当に好きになるって気にならない今。.....アタシに出来るのは他人を応援する事ぐらいだからな」


「.....そんな事言うな。生島。.....お前の事は知っているけど」


「.....アタシは.....もう男の子を好きにならないよ。.....大切な人を失ったショックはデカかったからね」


「.....」


悲しげな生島の額を弾いた。

生島は、いてぇな!、と涙目で怒る。

何故お前は何時もそんなにナイーブなんだよ。


俺は思いつつ盛大に溜息を吐きながら.....生島を見る。

ったくこのアホは。

この世が終わりそうな顔しやがって。

そんな幻想はぶち殺す!


「.....お前は好きになるさ。また人を。.....俺達が付いているだからな」


「.....相変わらずだな。三菱。.....もしかしたら私は三菱が好きなのかもな」


「え!!!!?」


「アッハッハ!冗談だよ!三菱は美幸の彼氏なんだからな!」


そんなジョークをぶち噛ませるという事はまだ余裕はある。

そう考えながら俺はホッと一息を吐いた。

でも本当に生島らしい。

こうして陰ながら.....面に出さず支えるのは。


「.....しかし何故、俺達に訳を話した?それは理解出来ないんだが」


「.....簡単だよ。.....アタシは三菱を信頼しているからね。仲間として私を助けてほしいんだよ。そういう事さ」


「.....分かった。言われた限りってか聞いた限りでは助けてやるよ。.....な。美幸。美里」


「.....ですねぇ」


「だね」


そうして.....。

生駒先輩と夢有さんをくっ付ける作戦と。

色々な事がスタートしようとしていた。

本当に充実した日々なもんだ。

カレンダーの予定が空かないぐらいに、である。

全くね。


「.....生島先輩」


「.....何だい?美幸」


「好きなタイプとか居るんですか?」


「.....好きなタイプ?.....そうだねぇ。三菱のタイプかな」


「.....オイ。それは冗談か?冗談だよな?」


うーん。

冗談なのかそれは秘密だな。

と満面の笑顔で八重歯を見せる生島。


すると.....夕焼けに照らされた電車は住んでいる町の駅に着いた。

俺達はその駅で、じゃあ、と降りてから。

南口の生島と別れてからそのまま歩き出す。


そして3人で歩いていると。

目の前に黒い車が停まる。

俺達はビックリしながら.....その黒い高級外車を見た。


何だこれは.....まさか城島か。

と思っているとガチャッと後部座席のドアが開いて降りて来る。

その険しい顔の人物は剛さんだった。


「.....お父様?」


「.....」


美幸と美里を一瞥してから。

俺を見てくる剛さん。

え?何だ?、と思っていると。

剛さんがこの様に話した。


「達也くん。早速で失礼するが。セルカ・ド・ミーシャを城島の脅威から守る為の君の警護担当に任命した。.....君と暫く君の家の横の家で引っ越して暮らす事になる。.....良いかな」


「.....え?.....え!?」


「.....それから美里。美幸。お前達にも危険が迫っていると思う。.....家に帰る気は今、あるか」


「.....!.....私達は.....」


美里が眉を顰める。

そうしていると。

バッと美幸が手を挙げた。


それから俺の腕に絡んでくる。

そして剛さんを見つめる。

警戒しながら、だ。

そうしてから、私は達也さんから離れる気はないです、と言った。


「おま!?美幸!?」


「.....何です?達也さんは女の子と2人きりなのに私を置いてけぼりにするつもりですか?」


「いや!?そんな気は無いが!?」


剛さんが、ふむ、と顎に手を添える。

それから俺を見据えた。

その様な答えにはなるとは思ったが、と言う。

そして美里を見る。

美里。お前はどうする、と聞いた。


「.....私もあの家に居ます。帰りません。.....どんな危険があっても」


「.....そうか。.....では美里と美幸。お前達には達也くんとは違う警護をつける。.....良いか。それがあの家に居る条件だ」


その様に言って.....え?

と思っていると黒い車の後部座席がまた開いた。

それから銀髪のモデルの様なかなり可愛い女の子が出て来る。


ミーシャとかなり顔立ちがそっくりな、であるが?

二の腕を出した服装でまるで天使の様な姿。

ベレー帽を被っている。

え?.....ちょっと待て。


「.....この娘はミーシャの妹だ」


「.....初めまして。私は、セルカ・ド・ユール、と申します。以後お見知り置きを。達也様、美里様、美幸様」


律儀に頭を目の前のお腹の辺りに手を添えて下げるユールという名の少女。

俺は目をパチクリして聞こうとした。

だがそれよりも早く俺の代わりの様な感じで美里が聞く。

この少女の事を、だ。


「お、お父様!?ミーシャさんにはお母様しか居ないはずでは!?初めて聞きましたよ!?」


「.....ミーシャは確かに今の今まで『家族は誰も居ない』とは言ったが。簡単に言えば仲が悪いだけで妹は居るのだよ。.....それがこの娘だ。.....この前、外国からやって来たのだがね」


剛さんはその様に言いながら俺達を見る。

そうなのか。

仮にも家族は居たんだなミーシャには。


思いつつもう一度ユールという少女を見つめる。

俺の視線に気が付いた様にユールは頭を下げてから顔を上げる。

姉とは違ってかなり厳つい表情で、だ。

まるで巌の様な性格に見える。


「.....美幸様と同じ年齢でございます。仮にも姉がお世話になっております。以後、宜しくお願い致します」


「.....仮にも、か。.....分かりました。.....まあ宜しくな」


「.....だね。達也さん。.....ユールさん。宜しくです」


「宜しく。ユールちゃん」


また.....何か起きそうな気がするが。

でも仮にも一緒に暮らすんなら。

多分.....大丈夫だろう、と思っていた矢先の事だった。


残念ながらそうはいかず。

ミーシャとユールは火花を散らしていた。

まるで線香花火が光る様に、である。

駄目か.....うん。

まあ予想はしていたけど。

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