第42話 田中さんと親戚とカラオケと

この数日間で相当な目に遭った。

というのも.....先ずは城島の襲撃。

そして美幸の告白。

それから仁の告白だ。


この世界が花束に包まれて廻り始めている。

新しく、だ。

考えながら俺は目の前の田中さんの墓を見る。

田中さんは.....2駅先の風が透き通る丘の上で眠っている。


ここは田舎の田舎なので眠りやすいと思ったのだ。

何というか田中さんが吹かせている様な優しい風を感じながら俺は目の前の田中さんのお墓を見る。


埋葬などは業者に行ってもらった。

俺達だけでは役に立たないかと思ったので、だ。

考えつつ.....目の前の墓石を見つめる。

それなりの石で出来た墓らしいが。


「田中さん.....付き合い始めましたよ。.....美幸と達也が。貴方のお陰です」


田中さんと会話するかの様に美里は涙を一筋流してから.....墓を見つめている。

俺は眉を顰める。

そして手を合わせてお線香を焚いている美里を見ながら俺は.....美幸と共に視線を落として優しく見守っていた。

美里は俺達を見てくる。

そしてスカートを翻しながら白いハンカチで拭った。


「.....達也。有難うね。今日は来てくれて」


「別に構わない。俺は.....田中さんにもお世話になったしな」


「.....ですね。達也さん」


「.....散々お世話になったね。本当に」


「.....ああ。お世話になった。というか俺達の将来を照らしてくれたんだ」


それから俺は墓石に水をかけた。

そしてその後に美幸がお供えをする。

有名なお菓子を、だ。

田中さんが好きだったという。

俺はそれを見ながら.....田中さんと以心伝心するかの様に目を閉じる。


風が吹いている。

暑さがある。

そして木が軋んで鳴る。

ああ。

大丈夫そうだな俺は。


「達也さん?」


「.....大丈夫だ。美幸。.....幸せになろうな」


「そうだね。幸せにならないとね」


それから俺達はもう一度、お墓を見てから。

頷き合ってから.....礼儀を持ってして。

その場を後にした。

そして.....丘を降りて行く。


ゆっくりゆっくり。

今の全てを噛み締める様に、だ。

噛み砕く様にである。



「じゃあ.....どうする?」


「あ、じゃあカラオケ屋に行きたいです」


「.....カラオケ!?俺、音痴なんだけど」


「大丈夫ですよ。私も音痴です」


いやいや嘘を吐かないの、と苦笑いをする美里。

俺は、え?、と思いながら美里を見る。

美里は、美幸は音痴じゃないよ、と笑顔を浮かべる。

いやいや嘘は良くないだろ。

美幸は、あれれバレちゃった、と可愛らしく舌を出す美幸。


「.....私達はそれなりに歌いましたからね。でも大丈夫ですよ。達也さん。教えてあげますから」


「.....いやいや。無理だって」


「そう言わないで。達也。私も居るから」


「いやいやいや.....」


音痴が訓練しても音痴だって、とそんな感じで俺は否定するが。

カラオケ屋に行く事になってしまった。

俺は額に手を添えながらも。

楽しいな、と思う。


全くな.....嫌だって言ってんのに。

俺は苦笑いを浮かべつつ空を見上げてから。

そのままカラオケ屋に連れて行かれた。

そして個室に入.....ったのだが。


「引っ掛かりましたね。達也さん」


「.....そうだよ。達也。馬鹿だね」


「.....ちょ、お前らどう.....え?何のつもりだ?」


「私達がエッチだって事を忘れていたよね?アハハ.....」


「そうです。私もお姉ちゃんに話しました.....納得してくれました」


馬鹿野郎!!!!!そういう事か!

姉妹丼ってか!

俺は暴れるが.....美里が俺の腕にロープを掛けた。

ひ弱な俺はそれすらも解けない。

そして美幸が迫って来る。


「えへへ。ここなら.....」


「.....落ち着け。美幸。ヤバいってこの場所は!外じゃねーか!洗脳しやがったな美里が!?」


「.....まだまだだよ.....たつや.....」


「お前も落ち着け!嵌めやがって!助けてくれぇ!!!!!」


そんな感じで迫って来る2人。

するとドアが開いた。

それから.....生島が顔を見せる。

ご来店有難う御座います、お飲み物は.....あれ?三菱じゃねーか、と言いながら。

店員の格好をしている。


「.....何やってんの?」


「.....見て分かる通りだ。追い剥ぎに遭っている」


「.....さては三菱!お前.....個室でエッチな事を!!!!!店長を呼ぶぞ!」


止めろお前!!!!!

美里と美幸がそっぽを見る。

私達は関係ない、的な感じでだ。

コイツら最低だ!?

俺は大暴れする。


「お前こそ何やってんだよ!生島!」


「アタシはバイトだ!アホ!すけべ!」


「俺は何も悪くねぇ!」


「こ、個室でエッチな事を.....!」


「違うっつってんだろうがぁ!!!!!面倒くせぇ!」


そんな大騒ぎをしていると。

今度はまた背後から女性が顔を見せた。

そして生島の頭をぶっ叩く。

バストが偉くデカイ凛としたポニテの女性。

エプロンを着けている。

高身長の、だ。


生島は涙目で店長を見る。

スゲェな。

生島が殴られたぞ。


「はい。そこまで。何やってんの」


「お客さんがエッチなんです!」


「へ?.....ああそうなの?セッ◯スでもやってた?」


「て、店長まで!!!!!」


そんな感じの言葉を発しながら赤くなりながら生島は暴れる。

何だ違うんじゃねーかよ、と店長?らしき人は話す。

すると俺達をマジマジと見ながら、そういやお前らどっかで見たことあるな、と目をパチクリし始めた。


目を細めながら、だ。

俺達も先程から思っていたがそういえばそうだな。

そして、あ。そういや妹がお世話になった、と笑顔を浮かべる。

それから俺達は見開く。

そうしてから先ず第一に美幸が言葉を発した。


「.....もしかして田中さんの親戚の方ですか?」


「.....そうだな。まあそんな感じかな。疎遠になっていたけど私は郁橋美鶴(いくはしみつる)だ。親戚つっても.....相手が親戚居ない様な扱いをしていたがな」


「.....マジか.....何という偶然だ」


「.....この場所に埋葬したのは私の希望だ。.....その節は大変にお世話になった。有難うな。最後まで妹の様な美玲を支えてくれて」


そして俺達を腰に手を当てて見てくる美鶴さん。

俺達は顔を見合わせながら.....少しだけ眉を顰める。

そうしていると、そういや邪魔したな。子作りなら頑張ってくれ、と言う。

ちょ。何を言ってんだこの人!

俺は収穫間近のトマトの様に赤くなる。


「.....まあやり過ぎは良くないけどな」


「止めて下さいよ!?」


「え?何で?男ってか人間って大体そういうもんだろ?」


「いやいや!?」


生島と俺は否定する。

その姿に、アッハッハ、と笑う美鶴さん。

というかこのカラオケ屋は、大体そういう客が多いしな、と言いながら、だ。


オイ!?

汚くしなければ大丈夫だ、とも。

そういう問題じゃない!?


「それにカラオケ屋も私もやる気が失せてきているしな。店仕舞いしようと思ったんだ。だからそういう事をされてもあまり問題ナイナイ的な感じの場所なんだ」


「.....?」


「え?」


「.....何かなぁ。美玲が居なくなってからやる気が心底失せてね。.....子供を失った様な感覚なんだ。バーンアウトってヤツなんだけどね」


「.....店長.....それは」


生島が見開いて困惑の顔をする。

出会った人はかなり悩みを抱えている人だった。

俺はその姿を見ながらジッと見つめる。

そして考え込んだ。


「.....じゃあお店をお手伝いしましょう!」


「.....何で俺の考えていた事を口にするんだお前は」


「だって.....悪さをしようとしたのは確かです。.....その分.....お返しをしないと」


「そうだね。美幸。確かにね」


美幸は笑顔で俺を見てくる。

ニコニコしながら、だ。

まあ確かにな。


この状態で見捨てれる程.....俺達は落ちてないわな。

考えながら美鶴さんを見る。

目を丸くしている。


「.....美鶴さん。俺達がこの店の事、手伝います」


「何を言っているんだ?君達は。.....そんな迷惑を.....」


「俺達がやりたいんです。多分.....田中さんもそれを望んでいます」


「.....」


美鶴さんは苦笑する。

全く.....美鈴の知り合いは良い奴らばかりだね。

と頷いた。

それから俺達を見てくる。


お人好しの馬鹿野郎は.....いっぱいだな。

とも、だ。

そして今まで見た事の無い笑顔を見せた。


「分かった。じゃあ手伝ってくれるかなこのお店の事」


「はい。何かの運命だと思いますから」


「やろう!」


三菱は相変わらずだねぇ、と生島は溜息を吐く。

そして.....俺達は手伝う事になった。

美鶴さんのお店を、である。

取り敢えずは.....やれるだけやろう。

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