第44話 ユールの思い
俺の家の隣にユールという名の少女が横の空き家に引っ越して来る事になった。
それとその姉のミーシャがその家に住む事になる。
残念ながらこの2人は途轍もなく仲が悪いようだが。
引っ越して来るトラックを見ながら.....悩む。
すると早速と言わんばかりに.....こんな音が聞こえてきた。
「いい加減にしてよ!ユール!それに触らないでって言ったでしょ!馬鹿なの!?」
「お姉様。此方は運ばないでどうするおつもりですか。邪魔ではありませんか。.....私が触らずにどうしろと」
「私がやるってさっき言ったでしょ!大切な荷物が入っているんだから!」
喧嘩しているな.....。
考えながら表に出る。
やはり2人に任せられない、か。
考えながら美幸と美里と共に苦笑いを浮かべながら止める。
ユールもミーシャも共に目の前の人物を睨んでいた。
まさかこれ程とはな。
まるで殺し合いでも始まろうとしている。
「ユール。落ち着け」
「私は何時でも落ち着いています。お姉様が最低なだけです」
「ミーシャ先輩.....」
「だから嫌だって言ったんです。私は。.....この様な妹と住むのは」
こりゃ先も長そうだ。
俺は額に手を添えながら盛大に溜息を吐く。
それから.....ミーシャとユールを見る。
そしてミーシャに向いた。
よし。こうしよう、と思って。
「なあ。ミーシャ」
「はい。何でしょうか」
「.....ユール借りて良いか」
「.....借りても良いですよ。大歓迎です。邪魔ですし」
ミーシャはユールを睨みながらその様に話した。
俺は苦笑しながら.....ユールを見る。
するとユールは、それは命令ですか、と俺に向いた。
格好つけて、だ。
俺は、違うよ、首を振りながら美里と美幸を見る。
すまん。ちょっと席を外す、と言いながら、だ。
「うん。行ってらっしゃい」
「相変わらずだね。達也」
「.....相変わらずって何だよ」
俺は苦笑しながら美里と美幸を見る。
その間ユールは?を浮かべていた。
ユールとミーシャが仲良くしてほしい。
そう考えながら俺はユールの手を握ろうとした。
「そんな。手を握るなど。恐れ多いです。達也様」
「.....良いから。素直に握ってくれ」
ユールは困惑していた。
俺はその姿に苦笑いをまた浮かべながらユールの手を無理矢理握った。
それからユールに膝を曲げて視線を合わせる。
俺の事も達也さんとかで呼んでくれ、と。
そして柔和になる。
「しかし.....」
「.....良いから。かしこまる必要性は無いから」
「.....じゃあ言い辛いのでお兄ちゃんはどうでしょうか」
「.....へ?」
「.....それに憧れています。お兄ちゃんというものに。だからお兄ちゃんで。お名前を呼ぶのを変えるのは申し訳ないです」
無茶苦茶だ。
考えながらもユールはマジな顔で俺を見つめてくる。
それでお願いします、という感じの目で、だ。
俺は額に手を添えながら、分かったよ、と言う。
とにかく様付け以外なら何でもいい。
こんな子に申し訳無いし。
「ユール。俺とお前な。今からカフェに行くぞ」
「.....それは命令ですか」
「.....違うから。.....命令じゃない。これはお前と話がしたい。ただそれだけだ」
「.....命令じゃ無いのですかそれは?」
「.....命令なんて言わない。俺はそんなもんは嫌いだ。.....俺は君とまた深く仲良くなりたいんだ」
ビックリマークを頭に浮かべるユール。
達也様はおかしな人ですね、とそれからユールは真顔のまま告げてくる。
俺は実はこの中で一つの仮説を立てていた。
もしかしたら.....だが。
ユールはミーシャを嫌っているんじゃない、接するのに悩んでいるだけでは無いか、とである。
それは久々に姉に会ったのだ。
だから困っている様な。
そんな感じだ。
「じゃあ行って来るな。美里。美幸」
「うん。気を付けて」
「気を付けて下さい」
それから俺はユールの手を握ってから歩き出した。
行こうか、と言いながら、だ。
ユールは少しだけ困惑しながらも手を握ってくる。
それから歩き出した俺達。
ユールが見上げてくる。
まるで迷子になった子供の様な眼差しで、だ。
「何故.....私なんですか?」
「.....お前の目が気になった」
「.....私の目に何か付いていますか」
「そういう事じゃない。.....お前の中身が気になった」
「.....?」
意味が分からない、という感じの目をしているユール。
それはまるで.....訳が分からない数学を教えてもらって困惑している様な理解してない顔だ。
俺はその姿に真剣な顔で前を見据えた。
ユールは.....本当にどんな人生を歩んで来たのだろうか、と。
「ユール。ミーシャは好きか」
「.....嫌いですね。.....あんな姉など」
「.....そうか。今がそれならそれでも良い」
「.....達也様の様な家族の方が良かったです」
「.....お前は大変な思いをしてきたんだろ?」
アスファルトの照り返しにも負けず歩く。
それからユールを見る。
ユールは俺の言葉に、はい、と小さく答えた。
それから.....静かに俺を見てくる。
俺はその姿に、そうか、と小さく答える。
弱弱しい答えだった。
「.....家族がみんな死にました。.....姉以外ですが.....銃撃です。それで死にました」
「.....アメリカらしいな」
「.....強盗でした。それで銃殺されて皆殺しです。.....姉と私は隠れたので無事でしたが」
「.....」
「.....あの日の事は.....忘れないでしょう。生涯です」
強盗か。
考えながら.....俺は唇を噛む。
俺は.....幸せ過ぎるんだなって。
そう思えたから、だ。
俺は思いつつユールを見る。
「.....それなのに何でお前らはその役職に就いているんだ?」
「.....私は救われました。.....彷徨っていたら協会のシスターに。それに復讐心もあります。.....それを忘れる為に等もありますがシスターに関わったお陰のその為に人を守る仕事がしたいと思いました」
「.....お前は強いな」
「.....強くないです」
「.....そうか」
そしてカフェに着いた。
それからドアを開けてみる。
店員さんが直ぐにやって来た。
実はこのカフェは.....新しく出来たカフェなのだ。
その第一号としてユールを誘った。
「ユール。実はな。このカフェに誘ったのはお前が初めてだ」
「.....そうなのですか?.....何故私の様な」
「.....お前と2人できっちり話をするのはこの場所が良いかなって思ったんだ」
「.....何のお話ですか?」
「.....お前とミーシャの関係」
それから俺は席に案内した。
店員さんもメニューを持って早速とやって来る。
そしてメニュー表を手渡してきた。
俺は会釈しながら.....ユールを見る。
目を丸くしているユールを、だ。
「.....達也様。何故そんなにしてくれるのですか?」
「.....俺はお前とミーシャの関係を気にしている。だからな」
「.....私は姉とは何も.....」
「.....いや。そうは思えない。ごめんな。俺は.....お前が姉に好かれたいと思っているじゃないかって」
「.....そんな事.....」
少しだけ目線をずらしながら。
外を見るユール。
やはりか、と思いつつ.....ユールの見ている方向を同じ様に見た。
そうしているとユールがこう告げてくる。
でもそうかもしれません、と男に告白する様に、だ。
「.....私はおねえちゃ.....じゃなくて姉に好かれたいのかもですね」
「.....そう思ったからな。.....俺は色々な人達に関わってきたから」
「.....これだけ心を見透かされたのは初めてです」
「.....ゴメンな。人の顔を見て過ごしてきた俺はそういう癖があるもんでな」
ユールはグスッと鼻を鳴らして涙を浮かべていた。
私は.....本音は姉に嫌われたくないです。
でも感情が上手く出ません、と苦笑いで自虐な雰囲気を醸し出す。
俺はその姿に真剣に眉を顰めつつ話を聞く。
馬鹿ですよね。私、と言うユール。
俺はその言葉に首を即座に振る。
「.....それは馬鹿じゃない。.....そういう事もあるよ俺も」
「.....達也様は本当に優しいですね」
「.....達也様に戻っているぞ。俺をお兄ちゃんと呼ぶのは止めたのか?ユール」
「.....そうでした。確かにそうですね」
これに対して初めてクスクスとユールが笑った。
俺はその姿に驚いて見開きながらも。
にこやかに、良かった、と思いつつ改めて聞いてみた。
何か飲むか?、とである。
ユールは、はい、と頷いた。
「お兄ちゃん」
「.....何だ。ユール?」
「美幸様と性交はしたんですか」
「.....」
んん???
聞き間違いかな?、と思いながらユールを見る。
性交です。セックスです、と真顔のまま聞いて来る。
いや。
聞き間違いじゃない.....!?と言うか!
何を行ってんだオイ!!?
「私は真面目に聞いています。.....それが人間が心から愛する行動だと知っています」
「.....何か誤解して無いかお前は」
「.....それに美幸様も美里様も.....知り合いの仁さんという方に聞きましたがかなり性欲が強いと聞きました」
あの野郎。
余計な事を言ったな?
ぶっ殺してやるぜ。
拷問してやる。
考えながら俺は額に手を添える。
全く!!!!!
「.....誤解だ。.....確かに性欲は強い。.....だけどな。それは違うぞ。全部が」
「.....何がですか?お兄ちゃん?」
「.....愛し合うのはそれだけとは限らないのさ」
「そうなんですか?良く分からないです」
「.....いや、というか女の子がセックスを連発するな」
「?.....何故ですか?おかしいですか?恥ずかしいなら恥ずかしくないです。私は。.....それは素敵な事だと思っていますから。憧れます」
憧れる時点でおかしいんだが。
これは.....駄目だ。
と俺はユールを制止する目でクワッとしながら見つめる。
これはマジに教育が必要だな.....。
人前でこれは参る。
まさかここまで考えが.....あっちに飛んでいるとは。
うーん。
困ったもんだ。
考えながら俺は.....ユールを見つめる。
非常に参った.....。
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