第31話 美里と美幸の婚約者と達也と

「達也様」


「どうした。ミーシャ?」


お手洗いに向かってから。

ドアから出ると壁に寄り掛かる様にミーシャが居た。

それから俺に笑みを浮かべている。


俺は?を浮かべながらミーシャを見る。

するとミーシャは、達也様はもう錠は探されないのですか?、と聞いてくる。

その錠とはつまり美里が渡してこなかった錠の事だろう。


「.....探さないよ。.....だってそんなもんでこの先の運命決めたってしょうもないしな。意味が無い」


「.....そうですか。達也様らしいですね。.....私が錠を丁度、大昔に家の中で拾ったのをお教えしようと思いましたが」


「.....え?.....そうなのか?」


「はい。当時は.....まだ幼く訓練途中でした。でも特殊な錠でしたから。それを大切にいつか美里様に返そうと保管していました。.....どうやら美里様が失くされた錠の様ですので」


「.....そうだな」


美里と美幸に伝えたら。

多分直ぐにでも持って来て、と言うだろうな。

俺は.....リビングの方角を見ながら。

首を振ってから.....ミーシャを見つめる。


「ミーシャ。その錠は今はもう要らない」


「.....そうですか?」


「.....俺は決められるのが好きじゃない。.....だから見守っていてくれ。.....内緒にしていてくれ」


「はい。.....あ。あとお伝えし忘れていました。.....その懐中時計ですが.....財宝の鍵になるかもしれませんという事を」


頭を下げてニコニコするミーシャ。

何だその財宝って。

聞いて良いものか迷うじゃないか。

考えながらも聞いてしまった。

ついつい、である。


「.....財宝って何だ.....?」


「.....奥様の家の資産。大凡ですが財産50億円の全て受け継ぐ鍵の一つです。.....実はですね。家にはその懐中時計、ネックレス、腕輪。.....つまり言うなら鍵が3つ有ります。このうち1つが達也様。そしてネックレスが美里様の婚約者の内定の城島様。それから腕輪を美幸様の婚約者内定の長島様がお所持しております。3つのうちどれかを所持していれば億万長者の権利が貰える。そんな感じです」


「.....受け.....え!?.....50億!?」


「はい。50億円ぐらい有ります。その全てを受け継ぐ者を選出する鍵の一つがその懐中時計になります」


因みにですが旦那様は将来は安泰では無いそうです。

何故なら.....旦那様はそんなに寿命が持ちません、とミーシャは話す。

ちょっと待て。寿命が持たないってどういう。

見開きながら.....ミーシャを見る。


「その通りです。.....旦那様は年齢故に前立腺癌を患っております」


「.....じゃあそれで.....でも何で田中さんが?」


「.....簡単に申しますと田中さんは何も知らずに持っていた。旦那様は今は達也様にその懐中時計が渡っている事を知らないのだと思います。どこで入手したのかは存じあげません」


「.....50億か.....」


しかしそれは良いが。

もしだが。

その城島と長島という男がこの家に来たらどうするのだ。

俺は思いながらミーシャを見る。

ミーシャは、心配げな顔ですね、と俺を見てくる。


「.....しかしながら大丈夫ですよ。私も居ます。仁さんも居ます。仲間が沢山居ます。貴方は1人じゃ無いですから」


「.....警察とかに連絡した方が」


「.....何もしてくれませんよ。警察の方々も何かされるまでは」


「.....それはそうだが.....」


美里と美幸が心配なんだが、と俺は顎に手を添える。

その事にミーシャは笑みを浮かべる。

そして俺を見つめてくる。

柔和に、だ。

それから俺を見据える。


「流石ですね。達也様。.....守るんですね。お2人を」


「.....いや。当たり前だろお前。現金が50億あるとかそんなもんどうでも良いけど俺にとっちゃ2人は大切な女の子だからな」


「.....城島様と長島様とはえらくお違いになられる。.....それこそ受け継ぐにふさわしいと思います。.....ですが守るには限界があります。.....そこで私の出番ですね」


「.....ミーシャ」


「.....それなりには強いですよ。私は」


「.....有難いな。でも当然ながらそんな無茶はさせない。ミーシャにも」


見開くミーシャ。

それから.....俺を見てくる。

当たり前だがミーシャも女の子だ。


じゃあ無茶はさせられない。

俺は思いながら胸に手を添える。

懐中時計に触れる様に。


「ミーシャ。.....有難うな。話してくれて」


「私は感謝される様な事はしてないですよ。話をしただけです」


「.....それでもお前は大切な話を俺にした。.....それでお礼を言うのは当然だ」


「.....そうですか」


「.....ああ」


不思議ですね。

やはり日本人と達也様は。

と柔和な笑みを浮かべるミーシャ。

俺は、じゃあ戻るか、と笑みを浮かべる。

そしてそのままミーシャと共に戻った。



「お前は何の話をしていた」


「.....仁。顔が近い」


「.....また2人でエッチな事をしていた訳じゃねーよな?」


「近いって。唾飛んでるしな」


マジに近すぎるって。

気持ちが悪いな、と思いながら仁の顔を見る。

その様子を琴ちゃんとかがクスクス笑いながら見ていた。

俺は盛大に溜息を吐きながら苦笑しつつ居ると。

突然インターフォンが鳴った。


「.....?.....宅配便か?」


「そうかもね」


そんな会話をしながらインターフォンを見ると。

目の前に黒塗りの車と。

金髪のチャラい男が立っている。

何だコイツ?、と思いながらインターフォンを見ていると見てきた美幸が青ざめて震えだした。


「長島.....勲.....!?(ながしまいさお)」


「.....何.....!?」


「.....そうですね。長島様ですね。これは.....」


「.....これはまた嫌味のある奴だな。何だコイツは」


仁が警戒心を露わにする。

それから.....インターフォン越しに会話する事にして、取り敢えずは、と代表して俺が出た。

そして、どちら様でしょうか、と平然を装う。


『すいません。私は長島という者ですが。此方に十影美幸さんという女性が居ませんかね?』


「居ませんよ」


『そんな事はないですね。.....どうも旦那の話だと此処にいるみたいなので』


すると今度はミーシャが出る。

長島様。どの様なご用件でしょうか、とだ。

そうすると.....長島はこう話した。

美里さんと美幸さんを連れ戻しに来ました、と笑顔でである。

遂にそうきたか.....。


「.....嫌な感じだな。.....取り敢えず裏口から逃すか。2人を」


「.....任せて良いか。仁」


「.....おう。任せとけ」


「.....私も行くよ。兄貴」


嫌なもんは嫌って言わないとな。

とニカッとしながら靴を持ってから逃走する4人。

俺はそれを見送ってから.....玄関のドアを開ける。

そこに.....長島が立っていた。


「.....初めまして。.....君が達也くんだね」


「.....そうですが。今忙しいので.....帰ってもらえますか」


「.....そうはいかないね。好き勝手にしてくれちゃってねぇ。それにこの命令は旦那のお達しだしね」


「.....」


長島様。

今現在ですがこの家には誰も居りませんと頭を下げるミーシャ。

俺はその姿を見つつ長島を見る。

長島は、じゃあまた次の機会に.....なんて言うかね?、と真顔になる。

金髪の無精髭が、だ。


「.....取り敢えずは家の中を捜索させてもらって良いかな」


「お帰り下さい。今は皆さんお忙しいです。駄目です」


「.....帰ってくれ」


「.....でもね。旦那のお達しだから。.....まあこのまま帰る訳にはいかない。.....君達が嫌がるとしても家の.....」


そこまで言ってから。

ミーシャがかなり素早く動いた。

それから金髪の男の首筋にシャーペンを突き立てる。

今はお忙しいのでお帰り下さい。

その言葉を連呼した。


「.....そんな反逆の真似をしていると君も居場所が無くなるよ。ミーシャさん」


「私はどうせ帰っても捨てられると思っています。.....ので。.....私は出来る限りの事を後悔の無い様にしたいです」


「.....そうかい。.....まあそれなら仕方が無いね」


それから金髪の男は服装を整えて踵を返した。

これを旦那に伝えるよ、と言いながら、だ。

でも来るのがこれが最後と思わない方が良いよ、と満面の笑みを浮かべてそれから.....車に乗って立ち去っていった。

俺はその姿を見ながら.....ミーシャを見る。


「.....ミーシャ。お前強いんだな」


「まあそれなりにです」


「.....しかしそれはそうと困ったな」


「.....まあ今は追い返せば大丈夫ですよ。羽虫もそうですが。.....達也様」


そんなミーシャを見ながら。

取り敢えずは、とまた俺達は家に戻って試験勉強をした。

嫌な事から逃げる様に、だ。


城島、長島.....か。

そう考えながら、である.....が。

面倒奴らだ、と思いつつ。

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