第32話 美幸の愛の口付け
美幸の婚約者が美幸と美里を同時に連れ戻しに来た、なんていう嫌な事があった。
その婚約者はミーシャの脅しに怯んで帰って行ったが。
だけどこの事は美幸はガックリと酷く落ち込ませている。
俺はその姿を見てから.....顎に手を添える。
50億。
そして美里と美幸の婚約者.....3人の選出者.....か。
と思いながら、である。
その事に目の前の仁がヘラヘラする。
「50億ねぇ。確かに凄いなそれは。1年で1億使い切ってもなんというか50年暮らせるな。ハハハ。宝くじでも10億ぐらいだしそこまでいかねぇぞ」
「笑い事じゃねーよお前。.....割とガチに大変なんだぞ」
「そりゃそうだな。簡単に言えば命だって狙われる可能性があるよな?金が連んでいるしな」
「.....そうだな」
自室にて。
仁を招いて2人でこの先の事を話していた。
ずっと考えてはいるが50億円は絶対的に大金だ。
俺は.....考えながら先程の事件で何かを察した仁と話していた。
いやつーか察しが良すぎるぞコイツ。
考えながらも.....結局は良い奴なんだよな、と考えてしまう。
そして頭をガリガリ掻いている仁を見る。
「50億円に美少女の花嫁。.....笑えないな。アハハ」
「いや、笑ってんぞお前」
「まあ冗談は置いて。これからどうするのよ。お前」
「.....簡単に言えば俺が美里と美幸を守りたい。50億なんぞどうでも良いが.....美里と美幸が襲われるのは嫌だ」
「.....流石だなお前。金にも目がくらまないとは」
「いやでも正直言って欲しいですよ?50億だろ?」
すると仁は、確かにねぇ、と天井を見上げて持ってきていたお茶を飲む。
それから溜息を吐く。
50億はそんなに大金では無いけどな俺にとっても。
でも50億に目が眩むのは当たり前だ、と答えた。
「金なんてあっても好きな人は振り向かないしな」
「.....仁.....」
「この世の中は金が全てじゃないしな。お前の意見には賛同だわ。金は要らん」
「.....相変わらずだなお前」
「そうかな。.....俺は振り向いて欲しいだけだぜ。琴に」
「.....」
琴ちゃんはお前を好いているぞ、と言いそうになったが。
俺は口を噤んだ。
それは本人達が話すべき事であり。
俺達が手出しをする訳にはいかない、と思ったから。
すると仁は、日本に2人と結婚出来る法律があれば良いのにな、と言った。
「.....一夫多妻制か」
「.....そうだな。.....でも上手くはいかないよな。じゃあ前を見据えるしかねぇ」
「.....正直、怖いものがある。いきなり来られたりすると」
「.....住所も知られたって事だしな。.....50億と可愛い花嫁の宝ってのは怖いねぇ」
だけど、と仁が真剣な顔になる。
それから、俺も取り敢えず何とかするわ、と笑顔を浮かべた。
そして、実はな。俺の知り合いにかなり強い女が居るから。そいつをこの場所に送り込んでくるわ、と笑顔を浮かべた。
「.....ん?強い女?.....それは?」
「まあ小学生だけどな」
「.....聞き間違いか?単なるクソガキじゃねーか」
「小学生だけど.....それなりに経験は豊富だぞ。色々な」
「.....」
今の時代を舐めるなよ?、と仁はニヤニヤする。
いやいや.....そう言う問題じゃない。
クソガキじゃねーか。
俺は額に手を添えながら.....スマホを徐に取り出した仁を見る。
どうしたんだ。
「.....取り敢えず電話するわ。ソイツに」
「マジかよ」
「マジだよ」
そして電話を掛ける仁。
すると直ぐに電話が繋がった。
クソガキ特有の甘ったるい声で返事だ。
飴玉を舐める様な声で、である。
『はい。本橋です』
「.....結女。仕事だ」
『.....仁様。仕事ですか?』
「.....ああ。警護を担当して欲しいんだが」
『.....どちら様のでしょうか』
俺の友人の達也って奴を警護してくれ。
状況がマズいんで、と。
と真剣な顔で説明をする仁。
すると、ご学友の達也様ですね、と回答した結女という女の子。
仁は、そうだな、と答える。
「.....手出しはして来ないとは思うが念の為だ」
『.....了解致しました』
「.....ああ。因みに達也。.....ただの女の子だから気にすんなよ」
電話元から離れながら俺を見てくる仁。
いや、でも警護をしているんだよな?
それだったら結構じゃね?
と思いながらも.....敢えて口出しはしなかった。
それから電話は切れる。
「.....取り敢えずはだけど.....今がこんな状況だ。.....お前も気を付けてくれ。ピリピリしているしな」
「.....だな。確かにな」
「.....その結女という彼女は何で警護の役割になっているんだ」
「.....彼女は養子だよ。言っちゃ悪いがかなり使い易い。.....みんなから愛されているんだけど.....でも心の傷を回復してない理由で警護の担当をしている感じかな」
「.....というと.....つまり」
仁は少しだけ.....目の前を惚ける様に見つめる。
そして、簡単に言えば心の傷は酷い傷だ。虐待とからしいけどな。詳しい事は知らん。だけど一言で言えるなら俺はもう辞めさせたいんだけどな。こういうの、と語った。
だろうな。
こんなの仁が許す訳がねぇと思う。
「正直言って.....達也の警護で結女の仕事は最後にしようと思う。自由にさせようと思ってる。.....だからまあ宜しくな」
「そりゃまた凄い任務を課せられたな俺は」
「そうだな。.....だからまぁ頑張れ」
そんな会話をしていると。
ドアが開いた。
それから.....美幸が顔を見せる。
かなりビクビクしている美幸が、だ。
その事に仁が見開いて直ぐに立ち上がった。
「そんじゃま。後は2人でやってくれ」
「.....仁。有難うな」
「俺は何もしちゃいない。.....特に目立つ事はな」
「.....それでもな。有難う」
俺は言いながら笑みを浮かべてから出て行く仁を見送った。
それから.....目の前の美幸を見る。
美幸は、達也さん。凄く怖いです、と怯えていた。
俺はそんな姿を見ながら、そりゃそうだよな、と答える。
「.....私はどうしたら良いでしょうか」
「.....正直言って俺にどうにか出来る問題を超えてきたかもしれない。.....でも俺はお前を守ろうと思っているから。.....あまり心配はしないでくれとは言えないけど.....俺は美里も美幸も心から守るよ」
「.....相変わらずですね。達也さん」
「.....そうだな。俺はお前らに出会ってからずっとそう思ってる」
「.....有難う御座います。気力が湧きました」
そして俺の手を握ってくる美幸。
それから俺の口に口づけをしてくる。
俺も美幸の頬を持ってから口づけをした。
そして俺達は笑みを浮かべる。
これは前払いです、と赤面しながら.....美幸は答えた。
「.....前払いしないと.....何だか落ち着かないです」
「.....そうか」
俺は赤くなるのを隠す様に顎に手を添える。
何か.....忘れさせる方法は、と思ったが。
その時にハッとした。
そして.....美幸を見つめる。
「.....美幸」
「.....はい。何でしょうか?」
「お前、誕生日が近いんじゃないか?」
「.....え?.....そうですね。確かにです。6月ですが.....」
「.....そうだな。.....今、何か欲しいものがあるか?」
その事に見開く美幸。
それから、私は何も要らないですよ。
達也さんさえ居れば、とはにかむ美幸。
俺はその姿に、まあそう言うな、と苦笑する。
それからまた顎に手を添える。
顎を撫でる様に、だ。
「.....じゃあこういうのはどうかな。.....テストが終わったら秋葉?かどっかにお前の誕生日を祝う物を買いに行こう。それじゃお祝いにならないかもだけど」
「.....でも.....達也さんにお金を使わせるのは.....」
「こんなクソみたいな状況を忘れさせるならその分の金なんぞどうでも良いよ。こういう日の為に貯金したしな。.....本当にクソ喰らえだから」
「.....達也さん.....有難う御座います。.....そういう所がやっぱり大好きです」
赤くなりながらだったが。
美幸は相変わらずの甘えるハグをしてきた。
俺はそれを受け止めながら.....髪の毛を梳くのが心地良い頭を撫でる。
それから.....決心した。
美里と美幸を絶対に守る。
嫌な思いをさせない。
どんな脅威があろうとも、とである。
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