すまないが俺は美里を幸せにしたいからな

第6話 代々続く医者の家の令嬢としての美里

部活が終わってから。

俺達はオレンジ色の河川敷を歩いてから一緒に帰っていた。

何だかこうして帰るだけでも奇跡の様な気がする。


だってそうだろう。

今の今までずっと.....憧れの存在だったから、だ。

手が届かなかった存在だったしな。

だからこうして手が届く様になっただけで.....奇跡なのだ。

その美里が.....俺に柔和な笑みを浮かべる。


「今日は楽しかったよ♪達也」


「.....俺も楽しかったよ。お前が居てな。何だか違う感じに見えた」


「んん?それって私が大好きって事?」


「違うよ。.....でも好きなのは確かだな。変わらない。昔からずっとな」


「達也.....」


だけどそう言うが。

正直に言って.....俺は複雑な感情だった。

何が複雑かと言えば。

今が嬉しいのだが.....美里を昔のクールな性格に戻さなくて良いのだろうか、と思う日もあるのだ。


馬鹿だとは思う。

今がとっても楽しいのに、だ。

でも美里の妹が.....家族が。

どう思っているのだろう、と考えない事は無い。

俺は少しだけ真剣な顔で美里を見る。


「.....美里。.....妹さんから何か言われたか」


「.....美幸は相変わらずだよ。.....でもお姉ちゃんがこんな感じになったから肩を落としてかなりガッカリしているけどね。でも私は今が一番好き。自由になった今が」


「.....そうなんだな。やっぱりか.....妹さん.....何だかそういうの許せないもんな。憧れていたもんな。お前に。それがこの様な感じになってしまったから受け入れられないんだろう。恐らくだけど.....だ」


「そうだね。私は今が好きだから何も気にして無いけど」


言い忘れていたが。

美里の家は非常に高貴な家だ。

整形外科で、金持ち、とされている。

日本全国に何件も開業している曽祖父の、祖父の代から続く整形外科一族だ。

所謂.....名で有名な、だ。


恐らくだがその為にこの街で一番の金持ちだと思える。

だから.....当然、親父さんも母親と妹も高貴な存在だ。

つまり今の変な感じに歪んだ美里の事を.....全然認めてない。

だからリハビリなどは俺がやる事が多かったのだ。

美里の家族は現実から逃げているのだ。


「.....悲しいね。.....こんな事で私を家族から外す様な真似をして。.....まあでもそれがあの人達だからね。私はもう慣れたけどね」


「.....まあ何かあったらうちに来いよ。お前の事が心配だ」


「有難うね。達也。.....でも私は有能じゃ無いから」


「.....そう言うな。そんな事無いから」


それから.....俺達はそのまま別れた。

そして俺は帰宅する。

そうしていると.....家の前に誰か立っている事に気が付く。

俺はその女の姿に驚愕する。

と同時に眉を顰めてしまった。


十影美幸(とかげみゆき)。

美里の妹にあたる存在である。

その顔は美里に負けず劣らずの相当な美少女であり.....町内でも相当に有名な美少女に数えられる。

童顔ながらも大人びている眉毛の細さといい.....顔立ち。

肩までの髪の毛が美幸のトレードマーク。

黒の、だ。


俺は律儀に着込んだ制服のそんな美幸を見ながら.....溜息を吐く。


「.....お待ちしておりました」


「.....何やってんだ。美幸。.....美里に用事が有るのか。美里は帰ったぞ」


「.....私は貴方に用事が有ります。.....単刀直入に言います。.....美里お姉さまに近付くのを今すぐにお止め下さい。この油断も全ても貴方のせいと判断しています」


まさかの爆弾発言だった。

俺は衝撃の言葉に目を丸くする。

そして.....睨みを利かせる。


何だそれは、と言葉を発した。

それから.....拳を握る。

高貴な存在.....故に、か。


「.....お姉さまは貴方のせいでおかしくなったと私は思っております。家族も、です。これはお父様もお母様も考えていますが許し難い問題です。恐らくこの先も許さないでしょう。貴方が美里お姉さまに接触する事は禁じると両親は仰っています」


「何処をどう見ればそうなったんだよ。俺は何もしてない。.....いい加減にしろ。美里は俺と一緒に居て楽しいって言ってるしな」


「.....あくまで我々は交通事故が原因では無いと考えております。お姉さまは矯正しなくてはなりません。その為に貴方と接触するのを禁じます」


「馬鹿なのかお前ら。だから気に入らないんだよ俺達はお前らを」


「.....」


本当にコイツらという.....。

ゴミ屑だな。

人のせいにする.....その一族の性格。


相変わらず変わってない。

それでどれだけの人が切り捨てられたのか。

と、思う。

美里は良い子なのに.....コイツらは何も変わってない。

俺は盛大に溜息を吐きながら.....美幸を見る。


「.....俺は何をどういわれようが美里が好きだ。だからこのまま諦めるつもりは無い。.....だからお前らがどうこう言おうが美里は俺の愛している女性だ。このまま接触するつもりだ」


「.....その様な判断に至ると思っておりました。.....しかしながらこれは決定事項です」


「.....金持ちはやっぱ頭がおかしいね本当に。だから美里の家族は嫌いなんだよ」


「.....どう言われようがこれは決定事項ですから」


「決定事項を繰り返すな。話聞いてる?馬鹿なの?」


俺は、まあ良いや、と諦めながら言葉を発する。

どっちにせよ俺は接触するんで。

宜しく、と言う。

それから家の中に入った。


「.....それと。無いとは思うけど美里に手を出したらお前らを許さないからな」


「.....了解致しました。今日あった全てをお父様とお母様に伝えます」


「.....伝えるとかそんなんどうでも良いけど。あのな.....美幸」


「.....何でしょうか」


「.....お前も考え直せよ。少しは美里の幸せを考えてやれ」


美幸はそのままの表情のままだった。

それから俺はドアを閉める。

そして盛大に溜息を吐いてから玄関に座る。


本当に分からず屋だなアイツら、と、だ。

そうしてから.....鞄を置いて頭をボリボリ掻いた。

全くな.....上手くいかないもんだな。

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