第38話 婚約者達の突然の解雇と美里と美幸の両親への対峙

俺自身はどうすれば良いのか。

どう右足と左足で交互に歩み出せば良いのか。

それを考えたりする。


だけど答えは全然見つからない。

何というか.....頭だけがフロリアントライアングルに彷徨っている様な。

そんな感覚である。

俺は.....本当にどう接すれば良いのか。

婚約者達に、だ。


あまりにも敵が多過ぎる、と思っていたのだが。

婚約者達だけが敵じゃなくて。

改めて美里と美幸の父親も敵だという事が改めて分かった。

何がどうなっているかというと。

体育祭が始まった現在に至っている。


「君は相変わらず怒りの欠片だね。.....達也くん。そんな君には遺産はやれない」


「.....50億の遺産なんてどうだって良いんですよ。娘さんを守れればそんな金なんてどうでも良い。.....何しに来たんですか」


体育祭が始まった。

そして俺は保護者席に居る.....美里と美幸の親父。

つまり.....両親に対峙していた。


美里と美幸の母親は柔和に俺に対峙して居るが。

俺はミーシャと共に保護者席に居る.....剛さんを見る。

目の前に腰掛けている剛さんはまるで.....そうだな。

オールバックに固めた髪でラスボスの様に俺を見上げている。

教師達に呼ばれて来てみればこの様か.....。

考えながら顎に手を添えるとミーシャが律儀に頭を下げた。


「旦那様。.....只今は私も達也様も体育祭で相当にお忙しい状況です。.....なので見逃していただけませんか」


「.....この後に直ぐに解放する。.....しかし君も相当な根性だな。ミーシャ。.....君は私達に叛逆したんだぞ。そんな事を言える立場かね」


「.....私は達也様が正しい事をなさっている。それをお支えしようと思っております。なのでこの様な下らない事をやっている場合ではありません」


「ふむ。下らない.....か。君も言う様になったね。ミーシャ」


「私は常に正しい者に向かう主義です」


眉を顰めてミーシャを睨み上げる剛さん。

俺はその姿を見ながら.....溜息を吐く。

するとそんな事をやっていると集合で席を外していた美里と美幸が来た。

俺達を見ながら自らの父親を見つめる。

困惑しながら、だ。


「お父様」


「.....お父様.....」


「.....何かね。.....私に何か言いたい事があるなら言いなさい」


「.....私達はお父様が来てくれた事は大変に光栄です。ですが.....この様な事で来たのでいただいたのであればご帰宅をお願い致します」


「.....言う様になったね。お前達も」


「私達は妨害される事が嫌です。達也(さん)の事で」


何がどうあってもこの子が良いのか、と目線だけ動かして美里と美幸を見る剛さん。

俺はその姿を.....目線だけ動かして観察する様に見る。

どう手出しをすれば良いのか、と思いながら。

考えながら.....無い脳で、である。

スカスカの脳で必死に考える。


「.....美里。美幸」


「.....はい。お母様」


「.....これまでの報告で美幸を選択した、と言う報告を受けています。その為に私達の考えを伝えます」


「.....考えって何ですか」


「.....婚約者達の私の提言による昨晩の話し合いでの婚約者達の解雇並びに婚約者達への通達です」


「.....は.....?」


え?

俺達は顔を見合わせる。

なん.....だと。

まさかの衝撃を受けてしまった。


それは後頭部をハンマーでぶっ叩かれた様な。

それぐらい衝撃だった。

今何つった。

解雇.....だと.....?


「私達も化物などではありません。この現在の状況を鑑みた結果ですが.....」


「.....!?」


「.....だからと言え私は達也くん。君を認めた訳じゃない。.....それなりに伺わせてもらうぞ」


「.....剛さん.....」


だからといえ50億は君のものでは無い。

娘もな。

そして婚約者はまだ探している。


だが娘達が嫌がっている事をずっとする訳にもいくまい。

と剛さんは俺を睨む。

成程な。

そういう考えか。


「.....全てが知れた。城島も長島も.....遺産目当てだという事がね。判断が遅れたのは私のミスだが」


「.....」


「だが言うなれば。君に娘達が相応しいか判断をするのにまだ足りない。.....君が独占するという事は出来ない。それだけは分からなければいけないぞ」


「.....そういうつもりは無いです。俺は.....娘さん達さえ守れればどうでも良いです。50億だろうが100億だろうが金なんて」


これに対して美里と美幸の母親。

つまり雫さんが見上げてきた。

それから.....見つめてくる。


厳しい目ではあるがその中でも少しだけ柔和な目で、だ。

俺は.....その瞳をジッと見る。

本を集中して見る様に。

文章を叩き込む様に、である。


「.....貴方は本当におかしな人ですね」


「.....俺は美里と美幸さえ守れればどうでも良いです。あとはどうだって」


「.....達也.....」


「達也さん.....」


赤くなる美幸と美里。

その言葉に.....剛さんは溜息を吐く。

それから.....俺を見てくる。


俺は.....その目を見ながら拳を握り締める。

そして真剣な。

これまでに無い目で剛さんを見る。

全てを見据える様に。


「.....俺は大切な物を守りたいだけだ。何も.....他には要らない」


「.....」


「.....達也さん。その気持ちを大切にして下さい」


そして、お呼びだてしてすいませんでした。このまま競技に戻ってもらって構いません、と厳つい顔の剛さんをチラ見して代わりに.....俺達に言う雫さん。

それから、今からこの場でしっかり見据えさせてもらいます。

と真剣な顔で見てくる。

だけどその顔は穏やかなのも混じっている。


俺達は顔を見合わせながら、はい、と頷く。

そして俺は美幸と。

美里を見てから。

ミーシャを見つめる。

それから教師達に合図を送ってから応援席に戻る。


「.....相変わらずですね旦那様は。.....でも何か変わっている気がします。.....旦那様.....以前よりかは遥かに、です」


「.....ミーシャ?」


「.....旦那様もかなり性格が丸くなっています。恐らくは達也様の行動が認められたのでしょう。多少なりとも、ですが」


「.....そうなのか。ミーシャ」


「.....はい」


ミーシャの言葉に。

俺は背後をチラ見してから。

そのまま応援席に戻る。

すると心配げな顔をした仁達が直ぐに駆け寄って来た。


子供が迷子になった父親の様な感じで、である。

大丈夫だったか?、と声を掛けてくる仁。

俺はその言葉に、まあな、と答えた。

それから、大丈夫だ、と答える。


「.....大変だなお前も」


「.....まあな。.....ただな.....婚約者達が解雇されたらしいから気が少し楽にはなった」


「.....え?マジで?」


「.....ああ。.....何か金目的だと見抜かれた様だ」


「成程な。それだったらちっとは良かったんじゃねぇの?ハハハ」


仁の言葉に俺は頷く。

それから.....生島達を見る。

生島も夢有さんも心配げに俺を見ていたから。

大丈夫と言い聞かせた。

それから美里と美幸を見る。


「.....お前らもよく頑張ったな」


「.....私は何もしてないと思う。全部.....達也のお陰だよ」


「そうです。.....達也さん。流石は私の愛しい人です」


「.....おいおい」


そんなだが競技だが2割がた進んでいる。

それを眺め見る。

俺の出番は確か.....玉入れとリレーだな.....。

何でそんな物をしなくちゃいけない。


仁の野郎に嵌められてそうなったのだが.....うん。

非常に困るんだが.....。

俺はそんな競技に参加する程の余力は無いんだが.....。


考えながら.....俺は仲間達を見る。

だがまあ。

これが青春か、と思う。

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