第37話 体育祭前日の計画と無慈悲なる電話

様々な恋があると俺は思っている。

そして花は降り注いでいると思っている。

だけど....それでも悲しい事があった。

避けきれない運命だとしても。

とても悲しかった。


病状が悪化した田中さんとの永遠の別れがあったのだ。

俺は.....ただショックを受けながらで全ての流れを見ていた。

でもだからこそ。


固い、誰よりも揺るがない気持ちを持てた。

だから俺はここから一歩を、と。

ラインを越えようと。

そして.....絆を深めようと思った。


そう思いながら.....みんなを見ている。

それから様々な事があったが数日が水の流れの様にあっという間に経過してから体育祭前日になった。

とある作戦が美里にはある様だ。

俺の部屋にやって来てそう告げてきた。


「夢有さんの事なんだけど.....」


「.....どうしたんだ?」


「.....彼女を応援したいかなって思うんだ」


「.....それはどういう意味で?」


私は付き合えなかったけど.....その代わりに彼女に願いを叶えてほしいって思ってる、と美里は笑みを浮かべる。

俺は困惑しながら、しかしなあ、と顎をまた撫でてみる。


猫を撫でる様に撫でる。

そして考えてみるが.....うーん。

幾ら美里の願いでもな.....。


「無理だろ。.....付き合っているんだぞ仮にも。生駒先輩と女子生徒が」


「うん。分かってる。それが分かっていたら何も言わないよ。でも聞いたんだけど.....あまり上手くいってないんだって。.....関係がね。あくまで.....女子達の中の話だけど.....本当かどうか確かめたい」


「.....そうなんだな」


「うん。.....だからチャンスが有るかなとも思えるから切り出したの。この話を」


「うーん.....」


「.....悩むかもだけど私は嫌だ」


言い切る美里。

そして.....窓から空を見る美里。

悲しい気持ちで付き合うなんて嫌だよ、と言う。


同じ気持ちを知っているから.....だからこんなの嫌だよ、とである。

俺は考えてみる。

顎から手を離しながらだが.....。

しかし.....成程ね。


同じ気持ち。


それはきっと.....あの悪どい人達の事だろう。

美里達の婚約者と比べているんだ。

それを考えると確かにな。


そこまで過激に考えるつもりはないが.....でも。

付き合うのは嫌々ながらってのは嫌だよな。

考えつつ俺は膝を叩いた。

ドラムでバチを使ってぶっ叩く様に強く響く。


「.....まあ何とかすっか」


「.....うん。だね。みんな幸せになってほしいから」


「.....でも無理な時は無理だからな。意思を尊重しないと」


「.....だね」


そんな言葉を交わしていると。

美里のスマホに電話が掛かってきた。

俺は?を浮かべながら画面を見る美里を見る。


そして美里は.....青ざめた。

一気にホラー映画でも観た様な感じで、だ。

俺は一気に変わった様子に心配してガタンと立ち上がる。

それから眉を顰めて見つめる。

聞いてみた。


「.....誰だ?」


「.....婚約者.....だ.....」


「.....何.....」


婚約者ってまさか。

つまり.....城島か.....!

俺は下唇を舐めながら.....無慈悲に鳴り続ける電話。


ビクビク震えながら電話を見る美里から電話を受け取ってから。

そのまま通話ボタンをプッシュした。

震える指で、だ。


「もしもし」


『もしもし.....あれぇ?美里ちちゃんじゃないのぉ?』


「.....どうせ知っていますよね。初めましてですけど。何の用ですか。城島さん」


『君.....達也君だよねぇ?何の用って分かるでしょ?美里ちゃんを返してぇ』


「.....返さないです。.....どうせまた酷い事をするんですよね」


そんな事しないけどねぇ。

と悪魔の様な笑顔を浮かべる様な感じで電話してくる城島。

ニヤニヤした嘲笑う感じで、だ。


容赦なく.....コイツは.....。

まるで悪魔と契約した人間だな。

そんな簡単に返せとかよく言えるもんだな。

考えながら下唇を舐めつつ。

美里を座らせて宣言した。


「このタイミングって事はどっからか聞きましたね。俺が美幸を選んだ事を」


『僕だって鬼じゃ無いから無理にってはしないけど.....でもそういう事なんでしょ?じゃあ美里ちゃんを返してぇ』


「無理です。.....俺の大切な幼馴染なんです」


『君は欲張りすぎるねぇ。.....でもその強欲はいつまで続けれるかなぁ?アハハ』


「.....」


魔力なのかコイツが放っているのは。

話していると何だか気持ちが悪くなってくる。

これが2人の婚約者なのか.....?

馬鹿ばかりだな本当に。


俺だって頭が悪いがそれぐらいは分かる。

コイツは人でなしだ、と考えながら.....眉を思いっきり寄せた。

それから容赦なく電話を切ろうとする。

だがそれを察した様にこう話して.....きた。


『まぁこのまま切っても良いけど.....あのね。強欲は良くないよぉ?』


「良くないとか悪いとか。そんな事より俺はアンタと話したくはない」


『あっそ。じゃあ美里ちゃんに代わって?』


「断る。.....この電話は着信拒否させてもらう」


『それでも良いけどぉ。でもそれだったら僕は君達の家に行くからねぇ。ほら。例えば美幸ちゃんの学校に攻め込みに行ったりとかぁ』


金さえ、願望さえあれば何でも良いってか。

このゲス野郎。

怒って思いつつ俺はスマホを握り締める。

スマホを壊す勢いだが流石にそれは抑えた。


それから強く唇を噛む。

嫌な奴だな.....。

久々にブチ切れそうだ。

これだけ嫌がらせをしておいてそれは無い。


「久々に怒りを覚えましたね。貴方に」


『僕は舐められる事が僕だからねぇ。アハハ』


「.....最低のご趣味で」


『まあそれは良いけど早く代わって?』


すると俺の手からゆっくりと美里がスマホを取った。

それから唇を噛んでから話し始める。

ゆっくりと息を吸い込む様に。

空気を噛みしめる様にだ。


「城島さん。私は帰りません。貴方の元には」


『でも君は付き合う人とか居ないよねぇ?じゃあ帰って来たらぁ?』


「.....私は妹を見守る義務があります。.....だから帰りません」


『ふーん。まあそれならそれでも良いけどぉ。その傲慢が仇にならないようにねぇ』


じゃあ声も聞けたしぃ、という事らしく。

そしてスマホの通話は切れた。

膝から崩れ落ちて脱力する美里。


それから青ざめながらカタカタ震える。

南極にでもほっぽり出されたかのように震える。

その姿を見ながら俺は抱き締めた。

大丈夫だ、と頭撫でて、強かったな、と言いつつ。


「....有難う。達也。.....貴方のお陰で強くいれた」


「.....ああ。頑張ったな」


「.....でも怖い.....私は.....」


「.....いつか対決する時は来るだろうけど。.....でも今は何も考えるな。.....俺から言えるのはそれだけだけど.....大丈夫。俺が守る」


そして.....俺は震える美里を抱き締めながら。

窓から外を見る。

守る決意を固めなければいけない。

全てを、美里を。

思いつつ俺は.....唇を噛んで拳を握った。


「.....美里。話が変わるけど.....生駒先輩の件。.....落ち着いたら詳しく聞かせてくれ」


「.....だね。.....ゴメンね。.....心臓が痛い」


「.....ああ。今は話せないだろうからな」


俺は優しく犬を撫でる様に美里を撫でる。

背中を摩ってあげた。

美里は涙を拭きながら.....俺に縋る。

その中で。

怒りを抑えながら前を鋭く見つめる。


(.....絶対に許せない)


マジに許せん。

その様に考えながら、である。

俺は唇をもう一度気付かれない様に噛んでから。

それから眉を顰めながら.....壁を睨みつけた。

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