第10話 迷えるあと一歩の背中を押す者

美里は言う。

記憶喪失になって良かった、と。

美幸は言う。

お姉ちゃんを支えたい、と。

俺は.....それらの言葉を受け止めてそして今日も夜空を見上げる。


どう支えていったら良いのか。

どの様な事が.....美里達の為になるのか。

それをずっと考えないとな。

考えていると.....俺の部屋がノックされた。

それから声が聞こえてくる。


「達也。居るかしら」


「.....あれ?母さん.....」


俺は椅子から立ち上がってから。

そのままドアを開ける。

そこには.....母さんが柔かな感じで立っていた。


山菱有希(やまびしゆき)。

俺の母親で.....顔立ちは結構穏やかな方で滅多に怒らない点が特徴的。

そして俺に似ている顔立ちをしている。

美人な方だと思う痩せている母親だ。


しかしそんな母さんがどうしたのだろう。

考えながら目を丸くしていると。

母さんが俺に向いてきた。

それから笑みを浮かべてくる。


「.....悩んでない?」


「.....何を?」


「それは勿論、美里ちゃんと美幸ちゃんの事よ。.....決して無理をしちゃ駄目よ。.....今日ご飯を食べていると悩んでそうだったから。食欲もあまり無かったみたいだしね」


「.....流石は母さんだな。.....隠せないね」


「.....それは貴方の母親だからよ。隠せないわ」


母親は娘も息子も宝物よ。

だから悩み事なら直ぐ気が付くわ。

と笑顔を浮かべる母さん。

俺はその言葉に、そうか、と返事をする。

それから赤面した。


「貴方があの可愛い子のどの様な事で悩んでいるか分からないわ。だけどね。.....貴方が背負うばかりじゃ駄目よ。絶対にね。みんなと私達と分かち合いなさい。その為に家族は居るものよ」


「.....そうだね。母さん。.....俺.....今、どうしたら守れるかって悩んでいるんだ。あの二人を.....特に美里を」


「家族の事はやはり手出しは出来ないわ。でも嫌な事をしてくるのは論外ね。私も五郎さんも.....見守りたいみたいだしね。.....今は様子見ね。とにかく。特に五郎さんはスクールカウンセラーの先生だから.....子供の心がよく分かるのよね。まあそんな所に惚れたのだけど」


「.....母さんは見る目あるよね」


五郎さんだけは奪われたく無いって思っていたわ。

全てを投げ打ってもね。

だから.....貴方も見つけれるわ。

そのうちにね、と笑顔を浮かべる母さん。

俺は少しだけ恥じらいながら.....頬を掻く。


「.....所で.....貴方はどっちの子が好きなの?」


「い、いきなりだね。母さん」


「当たり前でしょ。私は恋が好きよ。何よりもね。青春も」


「俺は正直言って.....美里が好きだと思うよ。母さん。.....でも俺は好きになって良いのかなって思うよ。こんな釣り合わない男と」


「そんな事は気にしなくて良いわ。.....貴方は釣り合うわ。美里ちゃんと。.....貴方は良い子よ。誇れる息子だから」


だから貴方が例えば一人暮らし始める時もずっと支えるわよ。

と俺の手を優しく握る母さん。

俺は.....涙が浮かびそうになった。

こんなに良い母親が.....俺の母親って贅沢だよな、と。


「.....貴方の意思を貫きなさい。.....美里ちゃんが好きなのね?」


「そうだね。.....俺は美里が好きだ」


「.....そうなのね。.....貴方も大人になっていくわね」


「.....昔から憧れの存在だったからね。.....美里は」


するとヒョコッと壁から美里が顔を見せた。

俺に真っ赤に赤面しながら、だ。

それからモジモジしている。

その事に俺は真っ赤に赤面する。

マジか.....聞いていたのか!?


「私が呼んだのよ。達也」


「.....え!?何やってんの母さん!?!!?」


「.....貴方の意思を確かめたかったのよ。.....貴方達の恋を応援したいの。私は」


「もー!!!!!恋の為!?母さんそりゃないよ!?」


「アハハ。でも美里ちゃん。良かったわね」


は。はい。おばさま、と答える美里。

何だかクソ恥ずかしいんだけど。

もー.....。

無いよこんなの。

公開処刑だ!


「.....私も達也が好き」


「.....そ、そうか」


「.....愛してる」


「お、おう」


バカップルってこんな感じですかね。

俺達はモジモジモジモジしながら赤くなりながら頬を掻いたり頭を掻いたりする。

するとバシッと背中を叩かれた。


母さんに、だ。

しっかりしなさい息子よ!、と、だ。

俺は、いやいや.....、と顔を引き攣らせる。


「まあ良いや.....でも有難うな。母さん」


「.....良いのよ。.....あと一歩を踏み出せてない様だったからね。だから.....その背中を押してあげたかったのよ」


「でももうちょっとやり方ってもんが.....」


「無いわよ。こういうのはね。時計の針は元には戻らないのよ」


「.....」


全く母さんというやつは。

俺は額に手を添えていると。

母さんは美里の背中も押した。


それから、じゃあごゆっくり♪あ。でもエッチなのはなるだけ禁止よ、と手を振ってから去って行く。

俺はその事に溜息混じりに美里を見る。


「.....数年ぶりだけど.....お前嫌っていたけど。.....俺の部屋に入るか」


「.....う、うん。入りたい。.....達也が良いなら」


美里は髪の毛を弄りながら。

それでも満面の笑顔で嬉しそうに俺の部屋に入って来る。

それから.....俺の手を引いた。

早く入ろう、と、だ。

俺は目を丸くしながらも、はいはい、と返事しながら同じ様に部屋に入る。


その日は.....俺と美里の気持ちがまた以心伝心出来た様な。

そんな事を確認出来た。

その様な気がする。

良かったと思う。

母さんのお陰だ、と思える。

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