第25話 元侍女の女性との再会

「まあ頭脳がアホでも猿でも筋力だけは強いからな」


「.....おう。だけど気を付けて帰れよ?仁。.....でも本当に助かった」


「俺は死なないさ。.....でも例の件、宜しくな」


「.....そうだな。分かった」


俺は柔かに返事をする。

その言葉に、サンキューな、と言いながら仁は背を向けて手を振って去って行った。

そしてそれを見送ってから。

美里と美幸を見る。

何方も、でも達也(さん)も格好良かったですよ、と言ってきた。

俺が?そんな馬鹿な。


「.....ああいう場面では逃げる人ばかりだからね。私の.....付き合わされた男とか」


「.....そうなのか」


「.....はい。私もです」


嫌な事を思い出させてしまったな。

俺は溜息を吐きながら......頬を掻く。

そして少しだけ考えてから提案した。


「.....なあ。まだ時間あるし.....近所のゲーセン行かね?」


「.....え?それは良いですけど.....どうするんですか?」


「気分転換ってやつだよ。.....プリクラとか撮らないか」


「.....そうだね。それ良いかも」


ちょっとした気分転換と息抜きになるんじゃないかな。

と笑顔を浮かべる美里。

俺はその言葉に、だとすれば行くだけだな、と美幸を見る。

美幸は.....顎に手を添えていた。

何だ?


「.....どうしたんだ?美幸」


「.....いえ。.....実はその。.....私はお姉ちゃんもそうですけど.....あまり行った事がないです。ゲームセンターに。それでちょっとイメージが湧かないです」


「.....ああ。家の事情でか?」


「.....そうですね。概ねそんな感じです」


「.....そうなんだな」


俺は、まあそんな怖い所じゃないから大丈夫じゃないかな、と声を掛ける。

それに不良が居たとしても.....さっきみたいなのに遭遇する可能性は低いと思う。

一応は平日だしな。

さっきのは大学生っぽかったしな。


考えながら.....美幸と美里の頭に触れてから笑みを浮かべる。

それから、じゃあ家に戻るか、と言う。

そうしていると美里が、あ、と声を発した。


「.....そういえば達也」


「.....何だ?どうした」


「.....いや。確かそのゲームセンター.....ウチの元侍女が勤めているかも」


「.....え?.....そうなのか?」


元侍女?

俺は目を丸くしながら.....美幸を見る。

美幸は、もしかして田中さん?、と聞く。

俺は?を浮かべて、誰だろう、と考えてみる。

すると美里が、お父さんに解雇された人だよ、と答えた。


「.....30代半ばの女性の人だった。面倒見が本当に良くて優しくて大好きだったけど.....私達の成績が伸びないからって一方的にお父さんが解雇したんだよね。お父さんは家に近付くなって言っていて.....今は私達も接触出来なかったんだよね」


「.....またあのハゲか。.....最悪だな」


「アハハ。あの人はもう父親じゃないし」


「.....そうか」


でも再就職先にゲーセンを選んだって事を聞いてね。

アルバイトでね。

ついこの間に聞いたんだけど.....。

と嬉しそうな笑みを浮かべる美里。

こんな顔は初めて見たな。


「.....楽しみだね」


「そうだね。お姉ちゃん」


「よし。なら先ずはその人に会う事を目的で行ってみるか」


「そうだね。そうしてくれると嬉しいかも」


「です」


俺はそれぞれの言葉に頷いた。

それから俺達はその田中さんとやらに会う為にゲームセンターへ向かう事にした。

服装などを準備してから、だ。


それからゲーセンにやって来る。

そして自動ドアを潜ると.....煩い音楽が聞こえた。

色々な、だ。


「いらっしゃいま.....」


そうしていると目の前から女性の声がした。

UFOキャッチャーで作業していた.....痩せている制服姿の女性。

俺は愕然とこっちを見ているその女性に?を浮かべる。

眼鏡の先の瞳がうるっとなった。


その女性は涙を流した。

それから駆け寄って来る。

もしかして.....美幸様に美里様ですか?!、とはしゃぎながら、だ。


「田中さん.....随分と痩せましたね.....」


「.....はい。お嬢様」


「.....田中さん.....」


美里と美幸を必死に抱き締める女性。

ポニテに眼鏡。

そしてげっそり痩せておりながらも顔立ちが良さげな女性。

失礼ながらながら体重があまり無さそうな感じだ。

俺は.....その姿を見ながら何か嫌な予感を感じた。


「失礼ながら.....其方の方は」


「.....ああ。彼です。.....私達の幼馴染です」


「.....え?じゃあ貴方が山菱様!?私は.....田中美玲(たなかみれい)と申します!」


「様はやめて下さい。初めまして田中さん」


俺は柔かに手を差し出す。

その手をオドオドしながらも手を握ってきた。

俺はその事に笑みを浮かべる。

それから.....美里と美幸を見る。

良かったな、と言いながら、だ。


「.....そうだね。達也さん。有難うです」


「私も良かった。有難う。達也」


「.....」


そんな笑顔の花達を見ながら居ると。

つかぬ事をお聞きしますが.....ただ今、山菱様にお時間はございますでしょうか、と小さな声で耳打ちしてきた。

俺は首を傾げながらも、有りますよ?、と答える。

すると田中さんは、では少しだけお嬢様方に聞かれたくない話をしたいのですが、と切り出してきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る