49.雨の日は読書
最近。
「シノブ、人間界のゲームのカタログなんだけど、何がおすすめ?」
七罪の趣味が偏ってきている。
「……やってないからわからない」
「そうなの? 何か詳しそうだしやってるのかと思った」
「確かにゲームはみんなでやれば面白いとは思う。けど、もっと他にすることがあるのでは」
「例えば?」
「………………………………私に聞かないでくれる?」
アナログでもゲームしか思い浮かばないので、わからないことにしておく。今日は遊びたい気分ではない。本でも読みながらゆっくり過ごしたい気分だ。
雨が降っているせいかもしれない。
「資料室とか図書室(ライブラリー)があっただろ。行ってみるか?」
「うーん、アスタロトさんのところに行って、何か借りた方が早い気がする」
護衛の名目上、何かと一緒に行動をしている司だが、城内はだいぶ慣れてきたので別行動の時もある。そろそろ外に出てみたいので、図鑑や地図など眺めるのもいいかもしれない。
「シノブは本が好きなのか?」
ふいに後ろから話しかけられた。サタンだった。
「好きだよ。文芸はあまり読まないけど、あとは雑食かな」
「そうか。俺は何でも読む」
そういうサタンは本を片手に持っていた。
「サタンも本が好きなの?」
「あぁ。大抵のことは本から学べるからな」
だから七罪の中でも、一番まともに見えるんだろうか。もう完成しているというか普通に成熟しているというか。「憤怒」という割に怒ったところを見たこともない。
「じゃあサタンに聞こ。ライブラリーでおススメの魔界の生態系がわかる図鑑とかある?」
「生態系だと図鑑というより資料になるな。どちらかに絞った方がいい」
「図鑑」
答えると資料棚の記号番号を教えてくれる。正直まだそんなに眺めていないので場所の把握ができていない。
「全体の案内表示とかあったっけ?」
「ないな。そういえば」
「一緒に探すか?」
「それこそゲームみたいだね」
特定の本を膨大な本棚の中から探す。それだけでもちょっと楽しいかもしれない。分類記号のヒントも出ていることであるし。
「だったら俺の部屋にあるから、それを見るか?」
しかし、その前に誘われた。
司と顔を見合わせる忍。
「有難いけど……司くん、どうする?」
「俺はどっちでも。読むなら部屋に戻るのか?」
「外が見える静かなとこがいい」
雨音を聞きながら本を読みたい、というとプラネタリウムを勧められる。星空観測をする気はなくても、静かで落ち着く場所だ。そんな要素で使われるためか本来であれば主だけが占有する場所であるのか、大抵、誰もいない。
「じゃ、そこにいる」
「俺は一度部屋に戻る。しばらくしたら行くから」
そして司と別れて忍はサタンの部屋へ行く。サタンの部屋も窓があって、本棚が多くシンプルで……
「ちょっとアスタロトさんとセンスが似ている気がする」
「そうか? 閣下とは君たちが来るまでほとんど会わなかったけど、この城で過ごすうちに影響されたのかもな」
そして棚の高いところから図鑑を取ってくれた。重そうな装丁だ。
「こういうのも読むんだ」
「もちろん。魔界に何がいるのか把握くらいはしておかないとだろ」
趣味が偏っている気がしないでもない他の七罪より、常識人(?)だけある。なるほど、こういうところから学ぶものが多いのか。読書は幅広い見地を養ってくれるものである。
「七罪のヒトたちって初めからそういうところもわかってるわけじゃないんだね」
「……」
ぱらぱらとめくってみる。無論、人間界にはいないものばかりが載っている。人間界で言う所の「モンスター図鑑」や「幻獣図鑑」を見ているようだ。
「サタン?」
「ん? あぁ。まぁ、ゼロから生まれたようなものだからな。基礎は教わるけど……」
「そうか。応用は個人によって、なのは人間と一緒か」
まっさきに会話をするようになった七罪たちが割とちゃらんぽらんな感じなので、わかるような気はする。
「ここにいてもいいけど。行くのか? プラネタリウム」
「あぁ、司くんも来るって言ってたから。また今度誘ってくれたら、ここにある本見せてくれる?」
「いいよ」
そして忍はサタンの部屋を後にする。
「必死だったさ。せめてここの悪魔たちに追いつくまではな」
パタム、と静かに扉が閉まる音。その後ろ姿を見送りながらサタンはぽつ、と呟いた。
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