54.強欲の選定眼(1)

 魔界の昼は暗い。といっても「天気がいい」と薄暮のような状態になる。

 ずっと真っ暗、でもないのでこれはこれでオツだ。

 けれど一日一度くらいは人間、日差しのあるところで過ごしたいわけで。


「日差しがあるって言っても夏みたいにあっつい!とかそういうのないから、ここいいよな」

「温度もちょうどよくて、風も入れてある。居心地は確かにすごくいい」

「時々ベールが昼寝してるけど、気持ちはわかるよね」


 忍、秋葉、司の三人揃ってそうして日向ぼっこに興じる時間は平和だ。

 とりあえず、やかましい見習い悪魔たちがいないと静かである。


 ピーチチチ


「ん?」


 小さなさえずりに、三人して首をめぐらす。アスタロトのことだから演出として鳥を放すのもありな気がするが、今までいなかったし、ここは締め切られた部屋ではない。

 通路との境に壁はないし、それを考えると……


「迷い込んだのか?」


 司がそれをみつけた。まだ幼い群青の鳥……

 ベルフェゴールの拾ったあれではなかろうか。


 その鳥はヒナに近いせいか人を恐れない。それでも少し高い枝に乗っていたので手を伸ばすとちょんちょんと横に移動しながら首をかしげてこちらを伺っている。


「届かない……司くん、秋葉でもいいけど保護してください」

「でもいいけどって何。でもオレ鳥とか捕まえたことないから無理」

「俺もないんだが」


 といいながらも消去法で司が手を伸ばす。身長差があるのですんなり捕まえた。というより逃げる気配はなかったので、しきりに首をかしげるその鳥の前に指を差し出すと、自分から乗ってきた。


「慣れてない?」

「慣れてるね」

「やっぱりアスタロトさんが放鳥したんじゃないか」


 いや、ベルフェゴールのだろう。飛べるようになったとは気づかずなんとなく逃げられた、みたいな感じがする。


「この子、まだヒナだよ。放鳥されるなら成鳥だろうし一羽ということはない。だから預かる」

「忍……」


 珍しく簡潔に断定したことに司は違和感を覚えた様子。


「然るべき場所に戻すまでちょっとそこのバスケット借りて入れとく」


 ここも休憩所なので、飲み物が配置されている。飲み物があれば当然こぼれる可能性もあるからそういうものを処理できる「あったら便利」なものが用意されているという、至れり尽くせり具合。


 忍はペーパーが入っていたかごに鳥を入れて暗めの場所に置く。静かになった。

 あとで届ければいいだろう。今来たばかりなのでそのまま三人でなんとなくまったりしているとベルフェゴールが少し慌てた様子で辺りを見回しながら通り過ぎたが今、口を出すと「誰にも知られたくない」というところが崩れるので黙って見送った。


「なんか見たことない植物がある。魔界産かな」

「魔界産だったら日差しのある環境に置くっておかしくない? アスタロトさんは生育実験でもしていると?」

「その発想をするのはさすがにお前だけだ」


 緑がコンセプトなのか、それとも元々派手好きではない主の趣向が反映されてか、華々しいものは植えられていない。

 くつろぎの空間、という意味ではこちらの方が自然でいい感じはする。庭園もあるらしいから花はそちらにたくさんあるであろう。城内にも飾られているし。


 秋葉がみつけたのは、木の根元にいくつかまとまって植えられた緑色の植物だ。肉厚なぷっくりとした葉と、葉先はどういうわけか深い水のような透明度があってきれいだ。


「ほんとだ、あんまり見ないね。透明感が宝石みたい」

「宝石!? どっかに落ちてんのか!?」


うるさいのが来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る