55.強欲の選定眼(2)


「マモン……」

「どれよ。……ってなんだ。植物じゃねーか」

「お前にはこれ見てちょっときれいとか癒されるとかそういう感覚ないの?」

「お金ちゃんがあったらきれいなものは買えるし、桁数の多い数字みてると癒されるよなー」


 三人の後ろから腰を折って同じく植物を見ていたマモンは、体を起こしはははは、と笑う。


「まぁ確かに通帳の桁数が多かったら眺めて楽しいかもしれないし、これもお金で調達できるものかもしれないけど」

「そこで迎合しなくていいんだ。わざわざ調達して植えて、面倒も見ようというものなんだから」

「すべてお金で解決できてしまう」

「……」


 マモンに味方しているわけではないが、言われると考えてしまう現実。


「でもあれでしょ。それでここに植えるという情緒」

「わかっているなら初めからそう言ってくれないか」


 お金は貯めることが目的ではなく有意義に使うことで初めて意味を持つものだ。


「これ、魔界の植物じゃないの?」

「違うんじゃね? 閣下のことだから人間界の入れてそうだし、ここにある植物も魔界のじゃなさそうだし」


 よく知らない、とマモン。彼が植物になんて興味ないのは見ればわかるからそりゃそーだよな、と秋葉は答えよりマモンの態度に納得している。


「あーあ、確かにきれいだけどその草が全部宝石だったらなー」


 草とか。

 そして彼は残念そうに去っていった。


「残念なのはマモンの頭じゃ」

「愛でるものは人によって違うから……」

「でも本当にきれいだよね。なんでこんなに透明なんだろ。多肉植物っぽいけど人間界のだったらちょっと欲しいな」

「うまく育って増えたらあげるよ。とりあえずボクもそこに入れたの始めてだから」


 入れ違いで通りすがったアスタロトが、会話を聞きつけたのかそれを気に入ったらしい忍にそう声をかけてくれた。


「葉先が厚いのに透明なのは、そこに水を溜め込んでいるからそう見えるんだ」

「へぇ~じゃ、これ針とかでつついたら水出るんですか? 風船みたいに」

「秋葉にしては面白い質問だけど、やったことはない」


 植物であるし、傷つけるのはちょっと、というのはさすがに忍にもある感覚なので、面白い疑問と化したが、やろうとは思わない。

 いくつか植えてあるそれらを一緒に眺めながらアスタロト。

 何種類かあるがどれも柔らかな日差しを受けて、キラキラと輝きながら透明度に磨きをかけている。本当に、宝石みたいだ。


「忍はお目が高いよ。これはハオルチアのオブツーサの一種でね。人間界でも近年は人気が高い」

「ハオルチア……ってなんですか?」

「多肉植物」


 忍の見当は当たっていたらしい。


「マモンは残念だね。オブツーサはオークションで100万以上で取引されているものもあるのに」

「100万!?」

「それともマモンにとってははした金かな」


 とにこやかに微笑む。絶対そんなことはないだろう。そんなこと知られたらここからもぎ取られて即日なくなっているかもしれない。

 多分、ここにあるのはそれくらいするやつなのだとは容易に想像がつく。


「ともあれこの美しさは水と日差しありきだから、またここに来たら眺めてみるといい」


 そしてアスタロトも去っていく。


「……100万とか」

「高額だけど、生き物だからね。下手に引っこ抜かれて枯らしたりしたらかわいそうだよ。……黙っておこう」


 三人はこれがいったい何なのか。その価値までは口外はすまいと口裏を合わすのだった。



 なお。

 和やかな日差しの中での時間が終わり、各自解散になった後。

 今度は忍がバスケットを片手に広大な城でベルフェゴールを探しまくるという事態になったのは語るまでもない。

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