43.第一回七罪 腕相撲大会

「まずはカジノの花形、ポーカーで……!」

「確かに頭は使うが運の要素が強すぎる。もっとシンプルで実力が見えやすい方がいいだろう」


早速却下されているマモン。まぁ大悪魔をオリジナルにもつ七人の序列をポーカーで決めるとかないだろう。それはただのゲームだ。


「私も参加していい?」

「それじゃ、ふつうにゲーム!」

「人間相手にどこまでやれるか。それも見た方がいいのでは」

「お前はただ遊びたいだけだろう。……ものによっては俺も参加する」


お目付け役なのか、それとも状況に飽きてきたのか司が参加してきた。人間界にいる時ほど仕事モードではないので、飽きが来るのはわかる。


「人間、か。俺たちの知らないゲームで何か優劣をつけるようなものはあるか?」


サタンが聞いてきた。


「腕相撲?」

「めっちゃ力技! わかりやすい!」


しかし、シンプルである。実力一本、世の中には腕相撲の世界大会なんてあった気がする。


「アームレスリングって言うと、なんかそれっぽい」

「えー? ぼくむさくるしそうなのは嫌だよ」

「知ってるんじゃないか」


と言いながらも何もしないのは何なので、始まってしまった。なお、ルシファーは審判となる。


「始まる前から結果が見えている」

「じゃあなんで提案したんだよ」


見た目には反するがどう考えてもベルゼブブが食べて貯蓄している分有利そうだ。ベルゼブブは基礎代謝が3万キロカロリーくらいありそうだと、なんとなく思う。

たぶん、基礎代謝だけで一日に必要な摂取カロリーを超えている。


「じゃあぼくから行くよ~」

「むさくるしいとか言いながらなんだよアスモ」

「シノブ、相手して」


ハートマークを語尾に付けて指名された。


「ただの遊びで終わってしまう……私が相手をするなら……マモンがいいな」

「お、オレ!?」


どう見ても最弱の忍に突然指名されてマモンはうろたえる。


「なんでマモン?」

「シノブがやりたいならいいんじゃないか?」

「前座にしておけ」


サタンとルシファーがGOを出してしまったので、なぜか第一回戦からあり得ない組み合わせになってしまう。


「腕相撲ってなかなかやらないから、ちょっと力試しに楽しそうだよね」

「お前ゲーセンにあるパンチングマシンとか実はやってみたいと思うタイプだろ」

「投球スピードのやつも計ってみたい」


忍は計測するのが好きである。数字が好きかというと違う気がするが、数値で見える化されるとなぜかテンションが上がる。

それを比較したり分析したり……考えようによってはストイックなので秋葉のそんなつっこみには大体、否定はかえってこない。呆れる以前に司は秋葉の肩にぽんと手を置いて黙って首を振った。


「うおっ細ぇ!」

「マモン、忍をケガさせたらアウトだからね。そこはちゃんと制御すること」


一応場外から眺めていたアスタロトがそう注意してくれた。そんなことをしなくてもマモンの場合は大丈夫そうだなと忍は思う。


「何この手! 小さっ 怖っ!!」

「そういえばマモンは人間……というか女子に触るのは初めてか?」

「初めてじゃねー! けど腕相撲はやらねーよ!!」

「ホントに、それな」


秋葉が妙に納得している。この辺りの感覚は、多分共通するものがあるんだろう。

確かにこんなにがっちり手を握るなんて、恋人でもさほどあるまい。


「レディ」


それでも掛け声がかかると気合を入れるように表情が引き締まる。負けはしないだろうが、手加減に気をつけつつ勝たねば、というところだろうか。妙な緊張感が漂っている。


「ゴー!」


それも一瞬だった。

忍は渾身の力を込めて押す。が、さすが悪魔。話にならない。

一方で、さして力を入れていないのに止めていられる程度と理解し、拍子抜けしたマモンの表情。


「なんだよ、こんなもんか? 余裕だな」


と遊びだす。ほれ、倒すぞ。などと言いながら押してみたり力をわざと抜いてみたりしている。


「……」

「司さん?」

「忍はこの手の初戦に強い。ペースにはまると動けなくなるぞ」

「え、それってどういう……」


明らかに力では動かないマモン。ギャラリーからはいつのまにか「頑張れ!」だの「大人げない!」だの「マモンのバカ!」だの忍への応援からそれにかこつけたマモンへの悪口が九割占めだしている。


「ほらほらー余興にもならないぞー? 勝ったらなんでもいうこと聞いてやるからもうちょい頑張れ♪」


楽しそうなマモンは聞いてない。ついに押され始める忍。しかし。

へにょ。

手首から突然力が抜けて、手の甲とテーブルがほとんど垂直の角度になった。


「何これ怖い!」


マモンが悲鳴を上げている。


「何やってんのさ。余興だなんだって言ってたくせに」

「マジで怖いんだよ! このまま倒したら折れる! 絶対折れる!!」

「……司さん」


秋葉がそれを見たまま隣にいる司に声をかける。

忍はもう力は一切入れていない。肘を支点にしてなすがまま。……押そうとすればするほど、手首の角度が90度超えて反るだけだ。


「怖いだろ。本当に折れるかと思った」

「経験あるんですね。どうしていいのかわからなくなりますよね、あれ」


その通り。突然へにょりと手首から折れるものだから、その現象にまず、驚く。そしてそれなりに押しても力の方向がもう「倒す」方ではないので意外と倒れない。無理やり倒そうとすると「折れそうで怖い」みたいになるのだと、司は遠い目で経験を語る。


「柔よく剛を制すって……」

「制せないだろ。膠着状態だ。相手が遠慮しないタイプならともかく、マモンは明らかに動揺している」


それに反して忍のまったくどこ吹く風と言った顔と言ったらない。

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