13.清々しい朝

朝っぱらから、微妙な空気が流れている。七人の悪魔たちと仲良くなるには程遠い。というかそういう目的で魔界に来たわけではなかったわけだが。


「食欲が失せそうだ。君たち朝の食事くらいもっと和やかにとったら?」

「閣下でも雰囲気でそういうことあるんだな」

「マモン、ボクは険悪なムードかフレンドリーな空気か、せめて統一してほしいと思っているだけだよ」


そう、空気は真っ二つに割れている。微妙というのはそういう意味だ。

昨日の食糧難救援からすっかりご機嫌のベルゼブブ。朝からテンションの高いウザアスモ。ふつうにテンション最悪なレヴィアタンに、相変わらず眉間にしわが寄っているルシファー。そして周り空気なベルフェゴール。

中立気味なサタンに加えて、普通に会話しているだけのマモンが良心的に見える。


「忍、寝られなかったのかい? 顔色悪いけど」

「えぇ、初日にまさかの強襲されたので」


食堂に来るまでに秋葉と司には顛末を話してある。朝から微妙な空気をかもしていたのは、七つの大罪……勝手に略して七罪だけではなかったということだ。

忍は単に、あの後寝付きが悪くなって、睡眠不足だ。


「アスモ」

「だって、もっと仲良くなりたかったんだもん」

「お前、そいつんとこ行ったの? 信じられねー。なんていうんだっけ、お前らの言葉でそういうの」

「え、……夜這い? かな」

「秋葉、余計なことは教えないでください」


素直に会話の流れで答えてしまった秋葉に忍の教育的指導が入り、アスタロトは朝から小さくため息をつく羽目になる。


「でも閣下、よくぼくだってわかったね!」

「強襲と言ったらふつう、もっと他の深刻なものが想定されるのでは」


サタンの真面目な質問。アスタロトはきちんと返す。


「忍の語彙は応用力があるから、慣れないと額面通り捉えてしまうかもね。だから逆にアスモの方かと思ったわけで」

「回りくどいな。初めからチクれよ」

「だからーぼくは別に悪いことはしてないし。朝まで一緒に過ごそう、っていう感じで」

「アスモ、君は忍の部屋に当面出入り禁止」


アスタロトから処分が下されぶーぶー言っているアスモデウス。しかし罰もなくその程度で済むなら、甘い方ではないだろうか。

と、いうか私の貞操は。忍は複雑な気分になって来る。


「彼女はボクの客人だ。その人に合意なく手を付けるというのは、ボクのものに手を出すことだってことを、よく覚えておくんだね」


悪魔流のフォローを入れられた気分。


「もちろん、秋葉と司についてもだ。ただし、司はボクらに対抗しうる力も持っているから反撃されて怪我をしても関知しない」

「人間が悪魔に抵抗? 笑える」


いまいちレヴィアタンは信じていないようだ。皮肉たっぷりの笑みを浮かべている。

昨日より随分と会話が成り立っている食事風景だが、やり取りは混とんとしすぎている。

ちらとルシファーが見てきた。


彼に関しては、大人しく退いたので特に忠告してもらう必要はないと思っている。アスモデウスの処遇で、どういうことかはわかっただろう。


と思っていたら。


「そういや、アスモに廊下で会った後、ルシファーもそいつの部屋に入ったよな? あれは?」


見られていた。マモンの他意のない発言は、アスタロトではなくルシファー本人に向けられている。


「あれは……」


せっかくお互い黙っていたのに、いらんことしいな感じになって来た。

視線が集まったので、昨日から見続けている渋い顔が増々渋くなっている。


「……忍?」

「アスモが来て騒いだから、直後にルシファーが様子を見に来ました」

「君がそういうならそういうことにしておいてあげるよ」


言いようの問題で、間違ってはいないがルシファーに聞いてもらちがあかないと聞いてきたアスタロトには、すべて通じたようだ。

食事再開。


人間側はともかく、七つの大罪、以下七罪(ななつみ)の一部は、もはや反省会のようになってしまっていた。

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