17.カジノへGO(2)
フェミニンでもゴージャスでもなく、シンプルなドレス部分にはひらひら要素も特にない。
アスタロト自身もラフないつもの格好から、フォーマルに着替えているし、司はともかく秋葉は何か、見慣れていないせいか着られている感は否めず……
……自分もあきらめることにする。
「この街のカジノはVIPルーム以外はセミフォーマル程度で入れるよ。忍は肌の露出が少ない方が好きだろう。それは地でフォーマルの条件だから」
「……日本でそういうルールに当たることがないから、全然わからないよな」
「最近は結婚式でも私服みたいなの着てくる女の人多いしね」
プチプラといったものは、かわいいかもしれないが実は安物だとわかる人にはわかるので要注意だと忍は思う。ちなみに今着ているのは裾が広がっていない割に、歩きやすいので助かる。
「人間界での最上位は、White tie(ホワイトタイ)だけどさすがに式典クラスの正装だから、そこまでは要されない」
「ドレスコードってやっぱり、ある程度客をふるい分けるためにあるんですか?」
「格調の問題だね」
と、街並みに出て少し歩く。とても整っていてきれいな街だ。魔界で治安がいいというのはおかしな表現だが、城に近いエリアはやはり貴族クラスの服装をしたヒトたちが多い。
カジノはそちらの通りにあり、別の通りに出るともっと庶民的な光景が見られるのだと教えてもらう。
「区画が整っている」
「配下が優秀なんでね」
「民度が高いっていう感じがする」
「魔界なのにな」
ゴミなど落ちていない。もっともアスタロト直轄の城下でそんなものポイ捨てする輩がいたら、ものすごい勢いで締められる気もする。こういうところは、魔界の方が力関係が如実に街の秩序として現れているようだ。
つまり、閣下の領地内を汚す輩は締め出すべし、というような。
「それにしても……」
秋葉がなぜか視線を向けてきた。
「?」
「何かすっごい意外なんだよ。どうしていいのかわからないくらいなんだけど、どうしたらいいのこれ?」
「どういう意味?」
「忍のドレス姿見る日が来ると思わなかった。中身は忍だと思うと、複雑なんだ」
「だから、どういう意味?」
二度目の返しはもう、意味が分かっているがそのことを伝えるために復唱したに過ぎない。何をいまさら言っているのだ。蒸し返すものではない。
「自分でも違和感は覚えているから、あまり触れないでくれるかな」
「男三人より花があっていいよ。カジノに入る時も一人で出入りするよりエスコートする相手がいた方がスマートだしね」
……格調高さを感じる。先発していたあの二人は大丈夫だろうか。
仮にも魔界の公爵に対して、お連れのこともあって一抹の不安を覚える一瞬。
「じゃ、オレたちおつきで」
「そうだな。とりあえず初外出でカジノとか意外過ぎてどうしていいのかわからない」
「司さんでもそういうことあるんですね」
あるだろう。ふつうに人間なんだから。アスタロトが案内しているので、後ろからの会話に思わず心の中で突っ込む忍。魔界滞在ははじまったばかりなので、彼らも若干混乱は生じている。
「行く機会のないところだもん。見るだけで楽しくない?」
「うん、まぁギャンブルだし参加する気はないけど、雰囲気を楽しむのはありだよな」
「秋葉は堅実だね」
ちょっとお忍びモードでか、少し目深にかぶっているシルクハットをアスタロトは軽く指先で押し上げる仕草。
ただでさえ新鮮な姿なのに、もうこうなると本当に貴族らしい雰囲気しかない。こちらは違和感がなさ過ぎて違う意味で困る。
そしてカジノの扉をくぐる。きらびやかな空間が待っていた。人々は社交場のようにグラスを片手に語り、あるいは好き好きに動き、優雅な空間であると同時に活力を感じる。
「……人型のヒトが多いですね」
「最低限、この建物に入れる対応ができることも入場条件だから」
確かに角とかしっぽとかそれなりに人間じゃないことが分かるヒトや、見るからに巨漢でドレスコードの意味は?みたいな筋骨隆々すぎて胸元が服からはみ出ているヒトもいる。が、建物は少なくとも巨人が行き来できそうな作りではない。
「本当はものすごく大きいヒトだけど、魔法で姿を変えてるヒトもいるってことですか」
「魔界の住人はチワワからセントバーナードくらいの大きさの違いがあったりするから、全対応にするのは非合理的なんだ」
例えが人間界の犬なのはなぜだ。
しかし犬族ほど外見にブレがある生き物はそういないので、意味はわかる。
「人間の場合は、万人に合わせろ!ってなりがちだけど来る方が合わせろってところは魔界っぽいよな」
「こちらから頼んできてもらう場所ではないからね。むしろ遊興の場を提供していると言った方がしっくりくる」
カジノは魔界では一般的ではないという話は聞いていた。この街にある理由はなんとなく納得だ。領主の遊び心のたまものであろう。
「そしてそんな遊戯の場を荒らす存在もたまにいて」
おー!と中央付近にあるルーレットの台が湧いていた。
アスタロトの足はそこに向いていて、自然、忍たちもそれを見ることになった。
そこにはマモンとダンタリオンがいた。
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