34.レヴィアたん
「ホント意外と、秋葉の手ってきれいだね。でもやっぱりぼくのお手入れが先ー」
結局ターゲットが自分自身に戻ったので、全員事なきを得た三人。ほっと息をつく。
「サタン、私もいい加減にしてほしいと思ってるんだ」
「オレもだよ」
「むしろ全員そう思ってる」
それぞれ一応、弁解しておく。朝っぱらからパリピによる被害者はむしろこちらである。
「食後だけじゃなくて食前も、おやすみ前もゆっくりしたい」
「……そうか。すまなかった」
朝から消耗した感じが伝わったのか、サタンの方から謝られた。なんでこのヒトだけ熟成した人格なんだろう。謎だ。
「またアスモといちゃついてんの? 人間てこれだから。バカだよね」
「……レヴィアタン……レヴィたんて呼んでいい?」
「なっ」
忍の突然のカウンターが決まったらしい。かつてない言葉を受けて、固まる嫉妬の大罪、レヴィアタン。
「忍、何を言ってるんだ」
「だってバカにするからさー。いっそこっちが愛称で呼んでみようと思って」
「僕のことバカにしてるだろ! バカにし返してるつもり!?」
「たん、ていうのは日本ではけっこうポピュラーな愛称呼びなんだよ? それともレヴィアたんの方がいい?」
「「何も変わってない」」
わざわざカタカナとひらがなで表記してみせるのもなんなので、そこはそのままにしておく。
「発音が違うよ。レ『ヴィ』アタンと、『レ』ヴィアたん」
「わかるけど」
「でもそうすると、サタンってどうなるの? サタンたんになるの? サたん?」
「だから変わってないんだよ。今度こそ」
発音すら変えようがないので伝わらなかった。
「そう言えば前にルシファーの名前の話してたな」
「……どういうことだ」
秋葉がうっかり触れてしまった。
陛下の名前をそのまま使うのってどうなの。じゃあ愛称予備したら? ルーシーとか。
みたいな話だった気がするが、それをこのタイミングで言ったら、生死不問の扱いを受けても仕方がない気がする。
「こういう時は聞いてくるんだね」
「……」
別に何か作戦があったわけではないが、黙った。
「間違ってもルシたんとか言ってたわけじゃないから、安心して。ただ中央に行ったときになんて呼ばれるのかな?って純粋な話」
「あー確かにな。まさか陛下と同じ名前で呼ばれるってことはないもんなぁ」
「人間だと偉人にあやかって名前もらうこともあるけどな」
「そうなのか。同じ名前の人間が多くなってややこしくないか」
そうなんだ。日本史の歴代将軍名がややこしくて、世界史を選択したら世界史ではさらに同じ名前を継承することが多くて、どうやら世界共通の価値観だということはわかる。
「そんなわけで、レヴィたん」
「気安すぎるんだよ。いきなりそんな呼び方してきて」
「「「……」」」
三人同時に沈黙したのはその態度が、明らかに照れくさそうだったからだ。忍は真顔で返しただけだったが、明らかに照れている。
「……このヒトひょっとして、ツンデレってやつ?」
「どうだろ。『嫉妬』だから実は仲間に入りたくて絡んできてた可能性は大だけど」
「慣れてないだけなんじゃないのか」
ひそひそひそ。
なぜか七大悪魔の代名詞みたいな悪魔たちを前に小声になる三人。
「司たん」
「やめろ、違う意味ですごく恥ずかしい」
「不意打ちすぎるだろ。さすがに聞いてる方もいろんな意味でドキドキするわ」
「秋葉たん、そんなこと言っても……なんだろ、秋葉たんの方はあんまり違和感ない」
「オレの方からするとめちゃくちゃ違和感だらけなんだけど、今のは流れな」
もう言わんでくれと念を押されてしまった。
「そう言えば、アスモはなんでモまで入るんだ? アスの方が短いし言いやすくない?」
「それは私も思った。けど最大の違和感とともにすぐに答えが出たから、そっとしておいた」
「え、何だよそれ。そういえば、アスタロト閣下も一度だけそう言いかけ……」
…………………………………………。
全員がその「最大の違和感」に気付いた。空気の共有っぷりは半端ない。
アスタロトが自分で即時訂正をしたのも目に浮かぶ。どちらも最初の二文字は同じなわけで。
そして、全員が、気づかなかったことにした。
「マモンはさぁ、マモりんっていうとどこかのご当地キャラみたいだよね」
「なんでオレはりんなんだよ。りんってなんだよ」
何事もなかったかのように。
「神社のゆるい系のやつ?」
「お守り袋的なキャラが目に浮かぶな」
「なんだよ、全然わかんねーよ!」
愛称話題は続行していた。
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