7.「強欲」のマモン
自分で様付けをしてやってきた新人悪魔。七つの大罪、強欲を司ると定義されてきたマモンだ。
「さっき、課題の時間とかなんとか……」
「んなのやってられっか。お前、ちょっと話しないか?」
「なんで私がピンポイントなの。これ何の恋愛シミュレーション?」
「忍、お前の選択肢はことごとくそれを外しているから現実で行け」
訳の分からないアドバイスを司にされた。
「単刀直入にどうぞ」
「おう! じゃあ単刀直入に言うぞ。お前、どれくらい財宝持ってんの?」
………………。
意味が分かりません。
「これ、魔界の悪魔がどうとかいうレベルじゃないのでは?」
「でもアスタロトさんが教育受け持ったんだろ? 最終段階ってさっき言ってたし、そんなおかしいことある?」
「聞こえてんだよ。なんだよ、おかしいって」
マモンは俺様らしく見下ろすような視線で顎を上げている。身長が高いわけではないので、実際はそんなに威圧感はない。
「何でそんなこと聞くの?」
「お前、アスタロト閣下と契約してんだろ?」
「……指輪のことか」
正しく言うと、アスタロト個人と、というより忍は「ソロモンの指輪」の契約者だ。過去に天使の襲来があった際に、瀬戸際で持ち込まれたそれを成り行き上手にした。
故に、いわゆる「ソロモン七十二柱」の悪魔との契約済扱いという立場である。
ちなみに魔力があるわけではないのでバンバン呼べるわけではなく、現代らしくデバイスにソースを入れて使っていた。オリジナルのアスモデウスも一員だったと思うが、お知り合いしか呼んだことはない。
「契約というか、指輪の所持権は魔界側だし」
「閣下を召喚して、従わせたりするんじゃねーの?」
「お願いはしたことがあるけど、従わせるなんてとんでもない」
「というか、マモン? だよな。そんなこと聞いて、財宝とか何か関係あるの?」
もっともなことを秋葉が聞いた。忍はなんとなくではあるがわかる。マモンは「強欲」を司る。こと、富においてはいろいろありそうだから
貴族と知り合いなら金持ってる?
的な問いだろう。
良かった、アスモのような恋愛要素(?)は皆無だった。
「そりゃ閣下だけじゃなく他の貴族も召喚できるなら、金銀財宝も悪魔経由でばかすか手に入れられるだろ? それにあのアスタロト閣下が人間に従ってるとか……」
「マモン? 課題の時間は過ぎてるけど何をしているのかな?」
ガッ。
見たことがない勢いで後ろからマモンの頭を鷲掴みにしたのはアスタロトだった。
さーーー…っとマモンの顔色が退いていく。わかりやすい驚きの青白さだ。
「さっき忍が言ったよね? お願いはするけど従わせたことはないって」
「いだだだだだだ! マジで頭蓋骨が粉砕する! すみません! アスタロト閣下様!!」
「論点があいまいだ。財宝について聞きたいのか、契約状況について聞きたいのかもはっきりした方がいいね」
アスタロト、笑顔のまま片手に力を籠め始めたらしい。全然力んでいる感は見当たらない。
「えっと! 財宝についてに絞ります!」
「答えはもう出ているから、早く課題を片付けたらボクのところにおいで。一番に来たら何か一つ宝物庫のものをあげるよ」
「マジで!? すぐ行きます!!」
すごい飴と鞭だ。
アスタロトは駆け去ったマモンの姿が見えなくなるとひとつ、ため息をつく。
「ごめんね。慌ただしくて」
「いえ、概ねアスタロトさんの言うことには逆らえないってことがわかったのは、けっこうな収穫です」
「どんな収穫だよ」
聞きたいことはサタンによって大分減ったはずだが、また増えた。
一番聞きたいことを聞いてみる。
「アスタロトさん、いつもこんな感じなんですか?」
「……たまに様子を見に帰ってくると、こんな感じかな」
やっぱり人間界にいる時間の方が長かったようだ。あとそれなりに見えにくい苦労が垣間見えた。
「サタンにも会いましたよ。彼はとても教育というのが行き届いているようでしたが」
「あの子はちょっと特別でね。本も好きだからどんどん知識を吸収していくタイプ」
サタンに「子」って。
「それに概ね制御ができている。他の大罪メンバーについては見た通り」
「うーん、見た通りって言うか、アスモデウスとマモンしかまだ見てないですが……そんな感じで?」
「そんな感じ」
基礎教育とは。
よく考えてみたら、一般教養の義務教育か普通科高校くらいまでと考えれば、あとはその後の話なんだろう。基礎というからには応用もあるわけで。
「ボクの役目は魔界内において、正常に振る舞える知識と教養を身に着けさせること。あとはそれぞれの王に任せることになってるから」
「それぞれの王?」
「ダンタリオンを待たせてる。行ってから話そう」
そういえば、一度で済ませたいのだったか。
込み入った話ではないと言ったから、すぐに答えが聞けそうだが、合流することにする。
そして。
「七つの大罪の教育だとー!!?」
一番驚いたのがダンタリオンだということに、秋葉と司は驚いている。魔界内において、それだけ重要な何かなのかもしれない。アスタロトは大したことなさそうに言うが、それはアスタロトだからであって、さらにつきつめればこういうことになる。
「新しい悪魔が生まれたっていうのは納得だ。出現時期がオレたち神魔が人間界に出た頃と被るし、次元の境界が曖昧になった影響だろう」
「まぁ、そんなところだろうね」
「で? 人間が勝手につけた名前が魔王方々と被ってる? 陛下までか」
「そう。その通り」
淡白なアスタロトの返答。いつもはもう少し親切に教えてくれるが、相手が人間でないからだろうか。アスタロトの反応は最小最低限だ。
「その通りじゃねーよ。陛下の名前……どうしてんだよ。まさかお前」
「ルシファーと呼んでいるよ。大体、陛下を呼び捨てする魔界の住民はまずいないし、同姓同名がいてもおかしくはないだろう?」
「それな、人間界の話だろ」
確かに大体は名前しかないわけで。姓とかないわけで。
……余計、被ってもおかしくない事態では。改めて真実発見。
「そんなことを言われても、ボクも苦心してるんだよ。出来るだけ全員縮めている」
「面倒なだけだろう!」
「ルシファーは縮めようがないんだ。縮めてもいいけど、陛下の名前をいじっているようでさすがに逆に気が引けて。どう思う?」
こちらに振られた。
「いじるというか、いじりようがないような」
「敢えて言うならルーシーみたいな感じになるけど、なんかファンシーな呼び方だよね」
「傲慢のイメージすらどこかに消えたな」
かといって語尾を取ってファーというのも女子っぽい。ルッシーだと今の時点でこちらが殺されそうだ。秋葉と司とこの際、一緒に悩んでみる忍。
「ほらね」
「ほらねじゃねーよ。わかった、そこはいい。本題に入れ」
一体どこが本題なのか。もはや、色々が迷走を始めて久しい。
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