27.課題の終わり

「997、998、999……で、ラスト閣下の持ってきたので1000!!」

「やったー終わったー」

「良かった。夜更かししないで済んだ……」


喜び方もそれぞれだ。アスモデウスは早く寝たかったらしい。ベルフェゴールは無口だが、さっきからもう眠そうな顔をしている。

まだ夕食後間もないころ合いなのだが。


「目がシベリアだ」

「サハラ砂漠の間違いじゃないのか」


真剣に作業しすぎて、疲れたことには違いない。出来た感動とかそういうのとは違う意味で涙が出そうだ。


「おー、きれいだな」

「千羽鶴か。実際できたてを見たのは初めてだな」

「私もです」

「オレも」


作ったことないんだから、当たり前だと三人は悟る。ダンタリオンの視線の先では、見事なグラデーションの束が出来上がっていた。


「自分も作ったから感慨もひとしおだな。これ持って帰っていいか?」

「アスタロトさんに許可得られたらいいんじゃないですか」

「冗談だよ。魔界風邪に見舞れたやつがいたんだって?」


良く知らないので聞いてみた。


「その魔界風邪って、魔界のヒトはよくかかるんですか?」

「滅多にかからないな。人間界と世界の法則が違うから物理的にどうのと少し違うし。いつもと違う角やらしっぽが生えたりするんだぞ」

「その嘘情報の発信源はお前だったのか」


したり顔で教えているつもりだったろうが、すでにそんな症状はないことが発覚しているので、秋葉が容赦なくつっこんだ。


「本当にそうなら、ものすごく邪魔そう」

「元々角ついている奴もいるんだ。そう言うな」


その傍らで悪魔たちは、難関校の受験を突破した学生のように喜んでいる。


「なんとか間に合った。君たちのおかげだ」

「サタン、そんなこと言ってくれるのサタンだけだよ」

「そんなことないよー? すごく助かっちゃった。ぼくも何かあとでお礼するね」

「俺様の手伝いが出来るなんて光栄だっただろ。むしろ貢物をもらってやってもいいぞ」

「秋葉、マモンの作ったところだけ握りつぶしてマモンに投げ返してくれるかな」

「待て!  冗談だって! 感謝してる!」


わざとらしいが、もうこのヒトの扱いは大体わかったので放っておくことにする。意外といいヒトなのか強気が続かないところがわかりやすい。


「あーあ、よろしくやっちゃって。七つの大罪が聞いてあきれるよ」

「レヴィ、妬いてないでこっちに来たら?」

「……妬いてない」


嫉妬の次はツンデレみたいで、めんどくさい。

ともかく、梱包をきれいにして朝一番でアスタロトに渡すべく、夕食後、彼らはようやく慣れない精密作業から解放された。



翌朝。


朝食会場にはアスタロトはいなかった。もうでかける準備をしているのだろうか。しかしラウンジに行くと、紅茶を片手にニュースペーパーに目を通しているアスタロトの姿がある。妙に優雅にくつろいでいるようなその姿に秋葉が思わず聞いた。


「あれ? アスタロトさん、今日例のお見舞いに行くんじゃなかったでしたっけ」

「おはよう、秋葉。その見舞いね」


そして知らされる衝撃の事実。


「もう完治したらしいんだ。さすが悪魔だけあって体力が半端ない」


え。


食堂を出てついて来ていた全員の時が止まった。


昨日のあの、地獄の作業は一体……


「千羽鶴……」

「初の共同作業の思い出と言うことで、せっかくだしリビングにでも飾っておこうか」


むしろ違和感すぎて景観を壊してしまいそうだが。

ともあれ、そうして三人が人間界に帰るまで、それはここにいる誰もが目につきそうな場所に鎮座することになる。


「ウソだろ……?」

「だから言ったんだ。何の課題なのかと」


思い出はプラスレスな予感を残しつつ。

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