24.十一人目

一旦鶴を整理して、同じ場所で昼食。

アスタロトも戻ってくる。


「意外と進んだね」

「意外とってなんですか。マモンが水害起こすし、やる気のないヒトはいるし、午後で仕上がるのか不安要素しかないんですが」

「それを前提として『意外と進んだね』という意味で」


納 得 。


「でも、ルシファーとサタンはそつない」

「アスモも手先器用だし、ベルゼもがんばってるよな」


ほめて伸ばす気はなかったが、秋葉もそういうと名前が挙がった四人はまんざらでもなさそうだ。


「どうせぼくは褒められるような出来じゃないよ」


けなされるよりましだと思うが、レヴィアタンの「嫉妬」属性が割と鬱陶しい件について。


「レヴィは問題も起こしてない。真ん中で頑張ってくれている」

「え、そう?」


意外とチョロいな、このヒト。とは秋葉の方から流れてきている空気の直訳だ。


「シノブ、さっきの連鶴というの、あとで教えてもらえるか?」

「いいけど端っこ切り取らないで作るだけだよ? サタン器用みたいだからすぐできるんじゃない?」


文化的な細工にサタンは興味を持った模様。


「忍、そういう物も作ったのかい?」

「……息抜きに」

「これなんてかわいいよね、キスしてるみたいで」


ふふ、とアスモデウス。全然意図していなかったが、二羽の鶴を繋ぐのは難しいというほど難しくない。長方形の紙を正方形に切り分ける際に端を残しておいて折るだけで……折る方向によってくちばしがつながるか、羽がつながるか程度の差だ。忍は職人ではない。


「ピンセットが欲しくなる作業だ」

「それ、ホントに息抜きになってんの?」


息の抜き方はひとそれぞれだ。


「ダンタリオンはどこ行ったんだよ。また城下町?」

「見に来ると絶対手伝わされるって言ってたから、たぶん夕方過ぎまで覗きには来ないんじゃないかな」


明日まで来ない、ではなく夕方以降は来るだろうというところが性格を読まれている。全く無視出来るかといえばそうでもなく、やっぱり気になるとか構いたいとか、ダンタリオンはそういう性格だ。


「よし、夜の部は十一人体制だ」

「夜までかかるわけ? 五時間じゃなかったっけ」

「この進捗でそれはない。最速で五時間くらいというだけで、進め方によっては……」

「明日の朝食後には、ボク出発するからね」


絶対に今夜中に作れというお達しが再確認されただけだった。

そして食事はなんとなくいつもより早々に終了。

アスタロトが再び、いなくなり作業が再開される。


「今、何羽なんだ」

「知らない、誰か数えてないの?」

「パッケージの残数で分かるはずだったけど、水害の分とか練習用で壊滅的になったものがわからない」

「……」


悪魔たちが黙り込んでいる。忍は人外のヒトに基本、親切だが、魔界に来てからは容赦ない。というよりも、そもそも日本に来る神魔は善意的なヒトたちが多く、礼儀というものをわきまえていたからだろうが。

この七人、七罪に関しては……魔界にいる間は適応除外な雰囲気である。


「別に責めてない。事実を言っただけで」

「こいつ、こういう性格だからあんま気にするなよ」


秋葉になぐさめられるとか。

ともかく、本当に事実以外の何の意図も含んでいないので忍の脳内は次に向けて動き始めている。


「大分数がまとまって来たし、色の配列もしやすいようにいったん整理する?」

「忍、俺がやる。お前はそっちを監督しててくれ」


監督とかーーーー


「司くん……私は監督官ではないよ」

「監督しつつ、自動製造できるだろ。早めに仕上げないと俺たちも寝られなくなるぞ」


人間、というか日本人の手際の良さっぷりに、何も言えない七つの大罪、七人の悪魔たち。


「やばいよ、人間に借り作るとか。何請求されるかわかんない」


彼らは大いなる借りを今、人間に作ってしまっている。

もちろん、三人とも早く解放されたい一心になっているだけなので、そんな気はないのだが。


「遅れをとるわけにはいかん。いい加減慣れてきた。もっとスピードを上げろ」


そして、鶴製造マシンならぬ生産ラインが悪魔側にできることになる。


「おー、けっこう進んでるじゃないか」


更に、アスタロトの予言の通り夕刻、ダンタリオンが現れた。


「形になって来ただろ。もうちょっとなんだ」

「何? お前と忍で糸通してんの? でもそこまで来てんだな」

「女だというだけで針仕事に回すのはやめてほしい」


なんかただ鶴のど真ん中にはりぶっ刺して糸でつないでいく作業なのだが、破壊の可能性がある面子を除くと、結局人間がやることになる。

製造ラインは完全に出来上がっているので、ダンタリオンは面白そうにそれを眺めた。


「明日までにはなんとかなりそうだな」

「もうちょっとなんだ」


ガシ。移動しかけたダンタリオンのコートを片手で掴む秋葉。


「……さっきも聞いた」

「もうちょっとだから、十一人目確保な」


それを聞いた七罪からまさかの拍手喝さいの勢いのコールが上がっている。

そうだね、公爵を捕まえるのとか悪魔には難易度高いだろうね。

しかし、ここにいる三人はこの場合、彼の爵位など関係ない。

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