20.ディーラーの提案

ブラックジャックのルールは簡単だ。二枚の手札を21に近づけた者が勝ち。

ただそれだけ。

しかし、奥は深く手札を交換する際に21を超えればバーストとなり、その場で脱落。

手札を変えるかそこで止めるかの判断はけっこうなライフラインだ。

シンプルなだけに奥が深い。


最初は様子見で、ふつうにゲームを行う。

基本、チップをベットして、配られた手札に対して交換ならヒット……テーブルを軽く叩き、それ以上の交換不要と判断すればスタンド。手を振る、これだけなので、声を出す必要もない。


序盤は、忍のただの遊び。ほぼ直感で進めていく。何だか慣れてきた。


「あそこの女はなかなかやるな。ポーカーフェイスで表情が読みきれない」


吹き出してもいいでしょうか。

ダンタリオンの側の髪が耳にかかっていない側なこともあって、正体はバレていないようだ。

ふっと、顔を上げると、同じくそれが聞こえていたのであろう。秋葉が口元を手をふさいで必死に笑いをこらえている姿が見える。


……見なかったことにする。


『忍、そろそろはじめるよ』


コツコツとためていたチップをアスタロトの指示通り、大口として賭け始める。


『デッキに大きな数字が残っている。ディーラーはたぶん、バーストする』


その通り。その回はディーラーが21を超えたため、プレイヤーが全員勝者となった。


『今度は逆だな。21に近づくまで引き続けていいよ。両脇のプレイヤーはおそらくバーストになる。あとはダンタリオンたちがどう出るか』


ちらと見る。同じように引き続けている。小さい数字がデッキに残っているようだから同じ戦法を取っているのだろう。


なんと、合計数字は同じで珍しく引き分けとなった。


「やるな。面白くなって来たぜ」

「なかなか今日のお客様は難敵でいらっしゃいます。少し特別ルールを適用してもよろしいでしょうか」


ディーラーがふいに、そう提案をはじめた。


「特別ルール? 単調になり始めてたしな。面白いものだったら歓迎だ」

「では、お客様のみで対戦していただき、勝ち抜けした方がわたしより優れたディーラーと直接対決、というのはいかがでしょう?」

「ほほぅ。ディーラーが抜けるとはまた、珍しい趣向だな。相応の報酬もあるのかな?」

「もちろんです。最終的なオッズは100倍ということでいかがかと」


100倍!!?


それを聞いてまわりもどよめいた。

分かりづらいが、元より金持ちが出入りする場所だから元手を大きく賭ければそれだけリターンが大きいという算段は魅力的なゲーム要素だ。

それもプレイヤー同士の勝ち抜きで、そのゲームに挑戦する権利が得られるとなると……


「面白そうじゃないか。乗ってやる」

「私もだ」

「自信はともかく、いいお楽しみになりそうだわ」

「……」


テーブルについていた者だけが挑戦権を得たのでそのままゲームが続行する。

1回きりの真剣勝負。結果は


「ぃやっほー! 挑戦権ゲーーーット!」

「ま、当然だな」


マモンと交代したダンタリオンの一人勝ちだった。


「では、こちらもディーラーを交代いたします」


そう言ってディーラーは自ら退いた。代わりにプレイヤーと同等の高級な椅子が持ってこられる。そこに横から登場した人物は、音もなく優美な動作で腰をかけると足を組み、その上で組んだ腕の一方の指先で口元を撫でるようにして妖艶に微笑んだ。

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