46.犯人はお前だ!

 何の参考にもならなそうな力技部門は終わった。続いて頭脳戦部門に入ることになる。


「オレが提案する! バカラでいいだろ!」

「またカードゲーム? 運要素よりもっとわかりやすいのっていったじゃないか。シノブ、何かある?」


 なぜ私に聞くのだろう。忍は聞き返してみたくなったが、珍しくレヴィアタンから声をかけられたので応えてみることにする。


「なぞなぞ大会」

「めっちゃ小学生! 忍、もうちょっと真面目に!」

「秋葉、どうして空は青いの?」

「それな、なぞなぞじゃないから。ふつうに科学的な問題だから」


 思いついただけなのだが、意外となぞなぞは頭を使いそうだ。今のはただのクイズ大会になりそうなので言い直す。


「泳いでいる魚が見られるのは水族館、止まってる動物が見られるのは?」

「え。……ハシビロコウ?」

「秋葉、止まる動物を問われてるんじゃないだろう」


 素で即答してしまった秋葉は、ちょっと恥ずかしそうだ。


「答えは」

「そんな人間界の問題分かるわけねーだろ!」

「昼行性なら夜」

「時間操作で動きを止める」

「全部殺す」


 性格診断みたいな答えが返ってきた。七罪は個性的だ。


「なんだっけこれ、心理学の……」

「ロールシャッハテストだろ」


 割と有名なそれは無意識を投影する性格検査だ。

 たとえば、被験者にインクのしみを見せて何を想像するかを述べさせ、その表現から性格を割り出す。

 イチゴジャムを塗ったパンを二つ折りにして開く。「ちょうちょ」と答えればまぁ普通だが「死んだ人のはらわた」と答えたらちょっと異常だということは誰でもわかるだろう。


 今の答えも大分、各自の性格が出てはいた。


「答えは図書館、あるいは図鑑、写真集。性格診断も面白そうだけど、そこの七人はもう大体性格分かってるからもう一レベル上げてくれる?」


 アスタロトさんが難なく答えてそう言ったので忍はもう一度考えてみる。


「名探偵コ〇ンを全員で見て、犯人をいち早く当てたヒトから勝ち抜け」

「……なんでコ〇ンなんだよ。オレも見たことあるけど犯人特有の顔があるからすぐわかるだろ」

「じゃあ刑事コ〇ンボ。月曜ミステリー劇場。相棒でもいい。個人的にはパワーバランスがとれた初期のがおすすめ」


 ただのドラマ推しになってきた。


「お前なんでそんなに刑事ものばっか見てるの? もっと他のドラマないの?」

「家族が見てると幼少期に一緒に見ちゃうよね。でもサスペンスは最初から犯人分かってるから意味ないと思うんだ」

「だからってコ〇ンはないだろう」

「長期人気作で毎回死人とか、何千人死んでるの? あのマンガ」


 この会話の間、どうして七罪が会話に参加してこないかというと……意外と興味がありそうだからだ。このままだとただの映画上映会で終わってしまいそうな雰囲気でもある。

 秋葉が助けを求めるように呼んだ。


「アスタロトさん」

「シアタールームを用意しておくから、あとでね」


 シアタールーム「に」ではなくルーム「を」というところにスケールの違いを感じる。


「悪くはない発想だとは思う。アイデアの突飛さで言ったらボクは忍を推す」

「推さないでください。俺たちは協力者で高評価を貰ってる場合じゃないです」


 司まで言ってため息をついている。忍もつられてため息。


「そもそも一朝一夕で序列を決めるのは無理では」

「そうだよな。こういうのは試験として何かやった方が……魔力計るとか」

「シミュレーションゲームを一からやるとか」

「……忍」


 そういうことではない。が、もう脳内がそっちに飛躍を始めてしまったのでどうしてもゲーム要素が混入する。要素というか、アナログにしろデジタルにしろゲームだが。


「最近のゆるいやつじゃなくて、懐ゲー仕様な敵の真っただ中に特定キャラでつっこんで説得に行かせるとか、死者が出ても生き返られないとかそういうので、最終的な戦死者数で決めれば……」

「それ、クリアするのに何日かかるんだ?」

「知らない」


 確かに一朝一夕では決まらない戦略(ストラテジー)ものではある。


「人間界のゲームか……面白そうだな」

「ぼくはそういうのは苦手だな。ねえ、恋愛シミュレーションとかないの?」


 あります。たぶん腐るほど。

 しかし恋愛シミュレーションでは何の雌雄も決しないので、アスモデウスの質問にも「知らない」で済ませる忍。


「なぜ人間界のゲームにこだわる必要があるんだ。それならチェスでもいいだろう」


 遂にルシファーが口を挟んできた。


「十分、戦略(ストラテジー)要素はあるし、ルールはみんな知っている」

「私、知らない」

「お前は参加しないの」

「桂馬が前方2左右1に飛べることしか知らない」

「マニアックだろ、どうやって使うんだよその駒」


 忍も日本版チェス……つまり、将棋に詳しいわけではないから知らない。変な跳び方だから記憶に残りやすいというだけで。


「チェスなんて大体ルシファーかサタンが持って行って終わりだよ。そもそもルールを知らないフェアなところから始めるって趣旨じゃなかったっけ?」

「それ、腕相撲の時点でもう崩壊してる前提だよ」


 もうどうしてみようもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る