30.宝物庫へご案内
「それで、マモンは外出許可が欲しいのかい?」
「はい! ぜひ!」
「理由は?」
「街歩……街で見分を広めたいのです!」
許可制というわけではなさそうに見えたが、マモンは前回のカジノの件で単独外出を禁止されていたのでそれを解除してほしいらしい。
らしからぬ口調が怪しさ大爆発だ。
「君のことだから、出入りする場所は知れているけど、三人に街を案内するというなら考えてもいいかな」
「えーなんでオレが人間の案内なんか……」
「じゃあ却下だね。そういえば、忍は城内を案内してほしいって前に言ってたっけ」
あっさり不許可が出て、あわあわしているマモンをよそに、アスタロトは話題を振り替える。
「城内の案内って、少しずつだけどしてもらってるだろ?」
「あ、ひょっとして千羽鶴の時のご褒美の話ですか?」
すぐに思い出す。一日がかりで苦難を乗り越え、みんなで千羽鶴を作ったのはいいが結局徒労に終わったので、その代わりにアスタロトがご褒美をくれるという話。
秋葉と司もそれぞれ、なんでもお願い聞いてもらえるくらいの話になっていた。
「千羽鶴の……そういえば忍は普段入れないところに行ってみたいとか言ってたか」
「えー、なにそれ。ぼくも行っていい?」
「構わないけど、忍が行きたいところ優先だよ」
司は一日ゆっくり休みたい=そっとしておいてほしい、みたいな要望になっていたはずだが、あの時は本当に疲れたのでそんな気分だったんだろう。今日は一緒に行ってくれそうだ。もちろん秋葉も、である。
「行きたいところ……っていってもどこに何があるのかまだよくわからないので。竜いるらしいですけど、それふつうにあとで見られるとこですよね」
「竜って、ドラゴン!? オレ無理」
「別にペットというわけじゃないよ」
「ふつうにみられるところって言うと、騎竜のことだよね~」
騎竜。つまり、人間界で言う馬のようなものである。移動手段という意味で。しかし、攻撃、防御力もあるだろうから馬より上位の生き物であるのは魔界ならではだ。
「騎竜?」
「乗り物」
「もっと無理。ぜったいこいつ、触りたいの次に乗りたいが来る」
「乗せてあげてもいいけど……まだ滞在生活、先は長いから」
「そう言う問題じゃないです」
秋葉は、城内の生き物探索には同行したくないようだ。
「司くんは護衛だし、その時来てくれるでしょ? 専用端末でムービー撮って森ちゃんに送信するんだ」
「それ、護衛と関係ない」
「じゃ、気晴らしに宝物庫でも連れて行ってあげようか」
その言葉に。
「……!」
腰を上げて背もたれにかけていたコートを羽織る。アスタロトのその裾を
「閣下。外出は諦めるのでオレも一緒に」
マモンがガッシと握りしめていた。
「宝物庫か~立ち入り禁止のあそこだよね? ぼくも見たい」
「オレも見てみたい!」
「立ち入り禁止なんですか?」
「この城には宝物庫がいくつかあって……案内しようと思うのはそこそこ価値のあるものの保管場所なんだけど、どこかの誰かが横流しを始めたから立ち入り禁止にしたんだ」
横流し……マモンだろうか。
「禁止になってからは真面目に行ってねーし。すっごい珍しいもんたくさんあったけど全然見切れてねーし」
マモンだな(確定)。
「……仕方ないな。わかったから、コート離してくれる?」
「アイサー!」
どこで覚えるのか、人間以外の何物でもないリアクションで敬礼しているマモン。本当に、一体、誰のイメージでこんなふうになっているのだろうか。
それはともかくアスタロト自ら案内してくれるとのとこで、断る理由もなくその宝物庫までやってきた。忍は少なからず期待している。きっと知らないものがたくさんあって、アスタロトなら説明もそれぞれしてくれるだろう、と。
……あくまで知的好奇心である。
一方で。
「いよいよ御開帳だな。久しぶりだ……!」
「……マモン、いちいち自白しなくていいからちょっとテンション下げてくれるかな。ちなみにここにあるのは装飾系が多いから、まぁわからないでもないんだけど」
「装飾系……そっか」
「忍、なんで残念そうなの? もっと人間界になさそうなもの期待してた?」
「ぼくは楽しみ!」
アスモデウスのテンションは初めてくる宝飾品のあるらしき場所にうなぎのぼりだ。
一方忍はこんな感じである。
そうだねー。装飾品は人間界でもネットで見られちゃう時代だからねー
しかし、魔界のものはクラスが違うだろうからそこに期待することにする。
それから聞かれたことには答えておこう、と忍。
「期待って言うか呪いのなんとかとか宝剣とか、インテリア的な」
「なんで呪いなんだよ……」
「私だって呪いよりは祝福系が見たい感じがするけど、魔界にそういうものが流通しているのか……」
謎は深まる。
「呪いは扱いが面倒だから別。でも魔法の類がかかっているものは多いよ」
「えっ、どんなのですか?」
「実物見てから聞けよ」
インテリア系なら城内に配置してあるから、一緒に歩くときに教えてあげるよと言われ、それだけでほくほくな気分になれる。この城だけでも知らないものがありすぎる。
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