第28話『狂獣ジャヴァウォック』
「……かくかくしかじか、こういうことですにゃん」
現在非常に凶悪な魔獣がこの村に向けて進行中。すでに殺された者もおり、事態は一刻の猶予もない。そういう説明であった。
「緊急性が高いことは理解した。協力をする事はやぶさかではない」
だが疑問はある。
「この村の男たちですら勝てない相手なのか?」
この村の男たちは、グレーターサムライを倒すことが可能なかなりの実力者。
一線をしりぞき、多少勘がにぶっているとは言え、そんじょそこらの魔獣相手に苦戦はしない。
「……挑んだ村の男たちは、……全滅、にゃ」
「全滅」
「……1人残らず、殺されたにゃ。パーティーの平均LVは50。強者のみで挑んだにも関わらずにゃ」
「それほどの強者たちが敗れるとは」
「すでにこの村の男たちの中でも特に強い者のみを6人で編成して、3部隊送っているにゃ」
「それでも倒せない相手か」
「はいにゃ。いまは村のみんにゃがパニックにならないように、情報をごく一部の強者だけにおさえているにゃ。この村でもいまは限られた者しか知らない情報にゃ」
「ふむ。避難準備はできているのか?」
「考えたくはにゃいけども、最悪の事態を想定して準備はしているにゃっ。最終ラインを超えたら村を放棄して逃げられるようにはしているにゃっ……けど」
「うむ。そのような事態は、絶対にあってはならないことだ」
「……。ルルイエ村は、冒険者さんたちとねこ娘たちで一生懸命協力して頑張って作った村にゃ……。この村を失ったら、みんな悲しいにゃ」
感情の問題だけでは済まない。迷宮都市には魔獣の群れに村を襲われ迷宮都市へ逃げ延びてきた者たちもいる。
村を失いこの都市にたどり着いた者の中には飢えをしのぐため罪を犯さざるおえなくなる者も居る。
命さえあればいつかやり直せる。実際に現実を見て知ってしまった以上、そんな風には言えない。想像以上に……、過酷なのだ。
まだ俺はルルイエ村をよく知らない。だが、この村の人たちが一生懸命に良い村にしようと努力している姿を見た。
その想いと努力を無に帰させるわけにはゆかない。
「俺に声をかけた理由は何だ」
「1つは神官アタルさまの信頼を得ることができるほどの実力者だからにゃ、もう1つは信仰の能力値が常軌を逸した数値の司教さんだからにゃ」
「なるほど」
「魔獣の攻撃の中で特に危険なのが、ブレスにゃ。討伐に向かった3パーティーはこの魔獣のブレス攻撃で全滅させられたにゃ」
信仰の能力値が高いほどブレスダメージは軽減される。だから俺ということか。
「引き受けよう。魔獣の特徴について、可能な限り詳細に教えて欲しい」
「わかったにゃ」
ねこ娘は一枚の紙を取り出す。名状しがたいバケモノ。グロテスクで凶悪そうな魔獣だ。飛竜種のドラゴンらしい。
具体的にその姿を表現するならば、狩りゲーのモンスター、プルプル、キキネプラ。
それらを極限までガリガリに痩せ細らせたような醜悪な姿。かぎ爪は長く鋭い。
「この魔獣の名は、ジャヴァウオック。翼を持つ飛竜にゃ。エサと巣を求めてこの村に向かっているにゃ。遠からずこの村にもたどり着くにゃ」
「猶予は無さそうだな」
「村を繁殖するための巣にするつもりにゃ」
「もしそんな事態になったら被害はこの村だけではすまないということか」
そんなバケモノが4階層で繁殖したら、迷宮も閉鎖せざるおえなくなる。
そうなれば迷宮都市は機能不全になる。交易都市にとってそれはあまりにも致命的。
「司教さんにはとある冒険者のサポートをお願いしたいにゃ」
「先行している者は教えられないということか?」
「ごめんにゃ。超訳ありにゃ。ただ、実力は確実に誰もが認める世界有数と保証するにゃ。にゃたしの知る最強の2人。それは約束できるにゃ」
「信じよう」
「司教さんには、合流して後方からサポートをしてほしいにゃ」
最強うんぬんの表現は少々おおげさだとは思ったが、それだけの強者が向かっているということだろう。俺とステラは戦いにそなえるのであった。
◇ ◇ ◇
老魔術師とヴァンパイアロードが並び立つ。ねこ娘が最強の2人と称した者たちだ。目の前に凶悪な魔獣ジャヴァウオックが近づきつつある。戦いは避けられない。
「師よ。召喚したグレーターデーモンたちは全滅です」
「仕方があるまい。我らが手ずからに誅殺するしかなさそうじゃな」
「そのようですな」
「フフッ、この老体。久々に血がたぎるわ。最近は骨のある冒険者がおらんでな。本気をだす機会もなかった。退屈しのぎに、悪くない。すまぬがお主の出番はないぞ」
「師よ。まさか、……第7等級魔法を使うおつもりですか?!」
「そのまさかじゃ。我は強敵相手に遊びはせぬのでなっ!〈ティアトリット〉」
ティアトリット、魔術師の最強攻撃魔法。ティアトリットは小規模な核爆発を発生させる魔法である。その性質から〈核撃〉とも呼ばれる。
核融合反応自体は別次元で行われるため、汚染被害のリスクはない。生じた爆発エネルギーのみを敵にぶつけるものである。
「……やったか!」
核撃がジャヴァウオックに直撃。巨大な爆発。爆煙が巻き起こる。
「流石は我が師。肉の一片たりとも残っていませんでしょうな」
ティアトリットによって生じた爆煙が消し去られる。ジャヴァウオックが尾をムチのように振り回し煙を切り裂いたのだ。
「……馬鹿な! 無傷じゃと?! 我の核撃が効かぬ事なぞ?!……ありえぬ、ありえぬぞッ!」
「師よ。あやつは強い魔法耐性持ちなのでしょう。あの魔獣を誅殺する役割、どうかこのヴァンパイアロードにお譲りください」
「ぬぅ、よい。しからば、見事あやつを滅してみせろ。我が、片腕よ」
「御意に」
ヴァンパイアロードが黒い霧となり瞬時に消える。その直後にジャヴァウオックの頭上に黒い霧が現れる。ヴァンパイアロードだ。
「貴様も相手が悪かったな」
ヴァンパイアロードは自身の血をあやつり凶悪なツメを作りだす。
「散れ。バケモノ」
ジャヴァウオックの眼球にツメを突き立てる。ヴァンパイアロードの5本の長いツメがジャヴァウオックの脳を蹂躙する。カチャカチャと両手の指を動かし、ズタズタに脳を引き裂く。
「ほう、一瞬か。さすがは、我が片腕じゃ」
「おそれ多いお言葉ですな」
「ふふっ。少しは我の分も残しておいて欲しかったが。仕方のない弟子だ。カカッ」
「失礼。いかな強敵とて脳を破壊すれば、造作もありませぬな」
「ぬっ!?……いや……まだだ。避けろッ! あやつ、まだ生きておるぞッ!!」
「なッ!?……ガハァッ!」
ヴァンパイアロードはジャヴァウオックの尾の直撃を受け吹きとばされ岩に叩きつけられる。そして、意識を失った。
「おのれ……我が友をッ。貴様、許さぬぞッ! 貴様のような凶悪な存在をこの迷宮でのさばらせていく訳にはいかぬのだよッ! 魔道の真髄をその身をもって味わうといいッ!」
老魔術師が複数の異なる属性の魔法を同時展開。火球、氷柱、雷撃、風刃、核撃。巻き起こる魔法の嵐が、ジャヴァウオックを襲う。
「……よもや、これでも、なお倒れぬとは」
老人は杖を構え、不敵に笑う。この相手が、自分の生涯最後の相手だと覚悟を決める。
「よい。ならば老体に残されたわずかな命の炎を燃やし尽くし、滅してやろうぞ!」
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