第2話『最強パーティーから追放』
転生して1年が経った。
ここは迷宮都市ウィズのダンジョンの3階層。
まだ、未攻略のダンジョンだ。
教会での職業とステ振り確定後、迷宮都市ウィズ最強パーティーから声がかかった。ダイヤモンドナイツだ。
そして浮かれた気分のままそのままダイヤモンドナイツのパーティーに加わったのだった。……鑑定ができる荷物持ちとして、だが。
「どうしてこうなった」
荷物持ちは最悪だ。なにが最悪って魔獣を倒しても経験値がまったく獲得できないのだ。なので俺は転生してから1年経ったのにいまだ、LV1のままだ。
パーティーの盾役になったり、呪われるリスクを冒してまで未鑑定品の鑑定もしている。パーティーに貢献しているのに経験値ゼロ。
やってられんわ!
そんなことを考えていると、リーダーの聖騎士ガストンがふと立ち止まり、俺に向かって何かを言いたそうにしている。悪そうな顔でニヤニヤしている。
(どうせ追放だろ? うん、知ってる)
「アッシュ! 鑑定しかできない無能は、この誉れ高いダイヤモンドナイツには不要! 田舎に帰ってブサイクな嫁と結婚し、ガキでもつくって暮らすんだな!」
(ほらね)
それにしてもなぜ田舎に帰ってブサイクな嫁と結婚しなければいけないのか謎だ。プライベートの事はほっておいてほしい。
ムカついたし『俺は荷物持ちだけでなく、パーティーの前線で命を張って魔獣の攻撃を防ぎ、リスクを承知でアイテム鑑定に励んでいた』とか、説明しようと思った。
でも、やめ。やめだ。
ガストンは人の話を聞けるほど器が大きくない。その証拠に、俺が何か負け惜しみを言うだろうと構えてニヤニヤしている。
1年も同じパーティーにいればガストンの表情で何考えてるのかは手を取るようにわかる。
社会人ならポーカーフェイス、面従腹背は標準搭載の基礎スキルだ。だが、ガストンだけではなくこの世界の冒険者にはそのような習慣はないようだ。
「そうですか。じゃ、お世話になりました」
正直、1年経ったが経験値ゼロでやりがいがないし、待遇も良くない。ガストンが追放を切り出していなければ自分から言っていただろう。
せめてそういう話は街の中で言えよとは思うが。
(まあ、思いつきだろうな)
「くっくっく! アッシュ! また馬小屋生活に逆戻り! ミジメな野郎だな!」
「ははっ。そっすね。ワラってチクチクするんすよね」
ガストン。いちいちイラッとさせる野郎だ。とはいえ、ここはダンジョンの中。短気な馬鹿を怒らせたらなにが起こるか分かったもんじゃない。
ここは、耐えろ。俺は生前に何千回もこれ以上の屈辱を乗り越えてきた。この程度の低次元な挑発にのるほどナイーブじゃない。
奥歯を噛み締め、平静をよそおい言葉を吐き出す。
「ガストン、団のみなさん、いままでお世話になりました。1年間、迷宮都市の最強のパーティーダイヤモンドナイツの一員として働けた名誉を胸に、よりいっそう精進していきたいと思います。ありがとうございました」
雑に薄っぺらい言葉でペラペラっと感謝の言葉を述べた。なぜかガストンが泣いている。ガストンだけではなく、パーティーの他の仲間も泣いている。俺の言葉のどこに感動したのかは謎だ。
「アッシュ。そうか……そんなに、ダイヤモンドナイツの一員だったことが誇りだったのか。そりゃ、すまなかったな……だけどな、……冒険者は遊びじゃねぇ。おまえは、田舎に帰って、ブサイクな嫁とガキでもつくって、……幸せに過ごせ」
ガストンは良いことを言っている風だけど、よくよく聞けば全然いいこ言ってない。普通に侮辱だが、どうやらガストン本人にはその意図はないようだ。
「アッシュ、世話になったな。少ないが退職金だ」
「いえ、退職金は不要です」
ガストンがまるで想定できなかったかのように、キョトンとした表情を浮かべている。迷宮のなかで追放宣言するような奴からのはした金、そんなのは貰うわけにはいかない。屈辱だ。
そもそもマジで少ない。
何が退職金だ!
「なにぃ!? ガストン様の退職金が受け取れないだとぉッッ!??」
いきり立つガストンをいさめるために、ガストンの肩に手を置き、ポンポンと叩く。
「ガストン、俺みたいな鑑定しか出来ない無能に退職金は不要です。俺の退職金は俺が抜けたあとのパーティーメンバーの補充にかかる費用に使ってください」
「アッ、……アッシュ……アッシュ……アッシュ……おまえってヤツは、……なんていいヤツなんだ。そうか、……じゃぁ、退職金は有効活用させてもらうぜ!」
ダイヤモンドナイツの他のメンバーもこの光景に感激したようだ。一見感動的なシーンのように見えるが、魔獣のおとりにされたり何度もコイツらに殺されかけたけどな?
「アッシュ……がんばれよ!」
ガストンをはじめとしたダイヤモンドナイツのメンバーに手を振られ見送られるのであった。
その後、3階から地上に戻るまで何度も死にかけたが、途中で親切なパーティーに手伝ってもらいなんとか迷宮を脱出することができた。
改めて助け合いの精神は大切だと思うのであった。
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